第12話 地球は3つ星評価を得られるか
『5日目 早朝』
「(みっぴーと足立美緒は別人・・・?
一体どういうことなんだ。
それでは俺と先生のやってきたことは、何だったんだ・・・?)」
混乱する光。頭の中で描いていた真実と、目の前の事実の不適合に思考が追い付かない。
自分は足立美緒ことみっぴーを除霊するために、墓へと向かった。
そしてそれに失敗し、その霊は光を憑り殺そうとしていたのが、数分前までの話。
話の筋としては、今までの経緯から含めても足立美緒=みっぴーである方がまかり通る。
だが、今ここにいるは、足立美緒の霊を消し飛ばした、みっぴー。
「(待て、落ち着くんだ。
今の一連の怪奇現象、全てみっぴーの仕組んだ自作自演の可能性は?
いや、その可能性は無いに等しいか。
この目でハッキリとみっぴーの姿と、黒い影の二つの存在を俺は目にした。
それに、自慢できることではないが。
みっぴーと、悪霊と生活していて分かる・・・あの黒い影は、確かに異なった寒気を覚えた。
やはり、みっぴーと足立美緒・・・二人は別個体、合致はしないっ)」
皮肉にも、みっぴーという霊体と過ごしていたことがその事実を確かなものとしていた。
光はみっぴーに助けられたその瞬間、確かに黒い影とみっぴーの二つの姿を目にした。
そしてまた、黒い影から感じられた冷気・怨念・憎悪は、またみっぴーとは違う色。
両腕を天に伸ばして、体を伸ばす運動をはじめるみっぴーとは対照的に、
光は口元に手を当てて、必死に思考の極致へと嵌まり込む。
「(物事を整理しろ、ここでこそ冷静になれ。
丑三つ時、先生と共に足立美緒の墓へと赴いた。
そこで第1の読経が失敗に終わり、また第2の除霊も効果は無かった。
第3の転移を行っている最中だ。
先生は俺に”逃げろ”とだけ言って、一人、いや一匹残って奴と対峙した。
明らかに、異常事態が起こっていると、霊力の無い俺でも分かるくらいに。
それから俺は言われるがまま、何とかここまで逃げ延びて・・・)」
光は今までの出来事を必死に、鮮明になって頭の中で思い出す。
道源寺と共に第3の用意を持って行った除霊方法は、いずれも上手くいかず最終手段へと移行していた。
だがその転移の最中、道源寺は光に逃げることを指示。
明らかに尋常では無い事態が起こっている、事が悪い方向に流れていると察していた光は、
その場で逃走。それから、道源寺がどうなったかも知らない。
「くそっ、くそめっ・・・!
(じゃあ、俺が今まで時間をかけて調べてきたことは、
先生と死力を尽くして挑んだ今日の除霊は、全て無駄だったのか・・・!?
こんなことって、あるか・・・!?
どうしてここまで人に罰を与えられる・・・!?
人をゴミとしてあざ笑える・・・!?
答えろ、俺に答えろ、誰か答えてみせろっ・・・!!)」
光は両膝を地面に落とし、渾身の力で右拳を地面に叩きつけた。怒りのまま、感情のまま。
何度も、何度も。皮膚の皮が剥けても、出血しても。何度も、地面に怒りをぶつけた。
ここまで何度も窮地を冷静に対処してきた光に珍しい、取り乱し方。
もう残りの期限は明日。その要因もまた光から、光という人間の理性を握りつぶしていた。
屈伸運動を平然と行うみっぴーが、ふと気配に気づく。リビングのドアで、千鳥が手招きをしている。
みっぴーは導かれるままに千鳥の元へ向かう。千鳥は少しでも距離を置きたかったのか、
みっぴーの手を取り、さきほどまで寝ていた寝室へと呼び寄せる。
「ちょっと、どうしたのあのクソ男。
朝からまぢ、うざいんだけど」
「みっぴー、分かんなーい。
でも、悪者からピー君を助けてあげたよっ」
「?
よく分かんないけど、みっぴーも近づかない方が良いよ。
男って思い通りにいかないと、何でも力づくで解決しようとするから」
「はーい」
「(はぁ、何でうちがこんな目に会わなきゃならないのよ。
ってか、そもそも何でうちとあのクソ男が選ばれるわけ?
その共通点って何よ?
・・・共通点・・・血縁、出身地、血液型、身長・・・?
あーもう、意味不明だし。
あっ、そういえば、あのクソ男も)」
千鳥の目は覚め切っていた。それも無理はない話。さきほどの悪霊対峙の一件から、
今の光の怒りまで、この部屋は騒ぎっぱなし。寝ようと思っても、寝られない。
みっぴーの頭を優しく撫でながら、堂本千鳥はとある疑問に辿り着いていた。
それは本来であれば、もっと早く気づくべきであった疑問。
「みっぴーって、もしかして一言君で検索して、
うちとあのクソ男を選んだの?」
「何で?」
「何でって、あの馬鹿とうちの共通点って、それくらいしか分かんないし。
まぁ、でも、そんなことどうでもいいか。
みっぴーもこっちに来なよ。
ベットも広いし、一緒に寝よっ」
「うん!」
この時、堂本千鳥は何も気づいていなかった。いや、もしこの場に光がいれば事態は違っていたのかもしれない。
みっぴーがこの部屋に現れてから初めて、一瞬、真剣な眼差しになっていたことを。
千鳥が広いベットに体ごと飛び込み、みっぴーを手招きして呼び寄せる。
みっぴーもそれに応じて、高くジャンプをして、ベットに着地する。
その子供さながらの行動に、二人は顔を見合って喜び合う。
ふと、みっぴーのポケットが振動する。
「ひっ」
「?
どーしたの、ちどりん?」
「・・・う、ううん。何でも無いの。
誰かから、メールでも来たの?」
「うん!
メールごっこしてるの!
1時間に一回、過去のみっぴーから未来へのみっぴーへって!」
「そ、そうなんだ。
おもしろ、そうだね」
振動の正体は、みっぴーの持つ携帯の着信を知らせるバイブ音であった。
そのバイブ音に何か異様な反応を示す千鳥。みっぴーは少し疑問に思ったが、
有耶無耶にするかの如く、すぐにポケットに携帯を戻してしまった。
千鳥の顔も、じょじょに怪訝そうな顔から、笑顔を取り戻していった。
『5日目 午前7時』
光はまだリビングで膝を折っていた。右手は出血の他に、一部が紫色に変色をしている。
立ち上がれなかった。残り日数的な絶望感もさることながら、今までの努力の無駄が堪えていた。
自分を信じて、また道源寺総一郎の善意を借りて進んできたこの道。
全ては無意味だった。心は90度に折れる寸前。
「(終わった、何もかもが。終わったんだ。
残り時間的にも、仮にこの後何かを掴めても、もうタイムオーバーだ。
新しい事実に対し、探求する時間が足りない)」
絶望の渦中。光は無意識に、パソコンに手を伸ばした。
それはみっぴーを探る手立てだとか、除霊を行うとかそういう目的ではない。
単に癖、普段の生活でふいにパソコンに手を向けていたから、自然とそうなったのだろう。
久しく見ていなかったネット情報。その情報は、目では見ていても、頭には入ってこない。
「(俺がよく見ていた、匿名の電子掲示板。
相変わらず抽象的なことしか、偏った意見しか載っていないな。
限定的情報に踊らされ、それ大海知ったと勘違いする専門家気取りの吹き溜まり。
不正確な情報が、真実へと昇華する馬鹿共の教科書。
負け組共の、憩いの地。
それが、どうも・・・こうして今日も、賑やかだというのだな)」
そこは以前、光が学歴についてみっぴーに熱弁を振るった時に出たサイトなのであろう。
かつて光もこの掲示板を利用し、ご教授という名の押し付けを敢行していた。
今日はどんな内容が書かれているのか、何が話題を集めているのか。
そんなことは頭に入らない。ただ、つい前までの自分を振り返るように、見るだけだった。
「(こんな奴らが生き残って、俺が死ぬのか。
それがこの世界の気まぐれ、偶然だというのか。
・・・そんなこと、許されるのか?
今まで努力してきた、勉強してきた、勝ち続けてきたこの俺が死ぬんだぞ?
そんなこと許されるのか?
勝者である俺が、そんな気まぐれ程度で死ぬことなど、黙っては、許されてはいけないっ!!
間違っているのは地球だ、世界だっ!!
俺は、勝ち組は、つねに生きなければならないんだっ!!
思い出せっ!!)」
勝手に湧き上がる怒り、熱意、鼓動。努力を続けてきた、勝ち続けてきた光は無意味に死ぬ。
それを世界の道理として受け入れることなど、到底できない。
光の目に火が灯る。その思想は歪み、折れ曲がっているが、確かに光の足を再び起動させた。
「(考えろ、考えるんだ。
ここまでやってきた情報収集、行動の全てが無駄ではないハズ。
何処か大きなポイント、重要点を見誤っている可能性が高い。
パズルのピースは揃っている、フレームが異なっているんだ。
俺は、先生は、何か重大な勘違いをしているハズなんだ・・・!)」
今までの情報・行動を考え直す光。思い返すと、やはりその全てが間違っているは言い難い。
それは100%ではない。だが、道筋自体は、方向性は正しいハズなのである。
何処か大きなポイントでズレているとしか、考えられない。
「(重要点で、俺が心理的にそうだと決めつけているもの、それは何だ!?
それがキッカケだ、この謎の鍵になるハズだ!
例えば、みっぴーの年齢。勝手に学生だと決めているが、若く見えるだけなのでは?
他にも、名前、出身地、せいべ・・・
せい・・・べ、つ・・・。
性別?
・・・みっぴーは・・・女、じゃない・・・!?)」
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