いじって来る教師
「は、はでぃめまして……」
出だし、いきなり噛んだ
緊張して口の中がカラカラになっていたから
口がよく動かない
クラスには爆笑が起こっている
「噛んだ、噛んだ」
「はでぃめましてって、お前」
担任の教師も
まるでその雰囲気に乗っかてたかのように
ツッコミを入れる
さらにそれでクラスのみなが笑う
こういうのは本当に鬱陶しい
噛んだのは事実だが
それをいつまで引っ張て来るのが
心底イライラして来る
尺というものがあるだろう
これから俺が話す本題よりも
噛んだということの方が大事なのか?
いつまでも本題を遮ってまで
人の些細な失敗を笑っていたいのか?
当然恥ずかしさもあるし
顔が熱く火照っているのが分かる
胸の鼓動はさらに早くなり
頭の中がぐるぐる回っている
さっきまで散々頭の中で反芻していた
事前に決めていた定型文を
言葉にして出すのが
やっとという状態
「……です
これから、一年間よろしくお願いします……」
とりあえずやっとの思いで
なんとか言い切った俺が
席に着こうとすると
担任の教師が
再びツッコミを入れて来た
「声が小さいなぁ、
聞こえなかったから
もっと大きな声でもう一回
やりなおし」
はぁ?
俺の頭の中には
疑問符が浮かびまくる
こちらはそれなりの声量で
声を出しているつもりだった
ここまで声が聞こえないような女子は
他にも沢山いたではないか
なぜ自分だけ理不尽にやり直しさせられる?
噛んで、笑いが起こったことで
こいつをいじって
盛り上げようとでも思ったのか?
ここへ来て突然そんなことを
言い始めるなんてそうとしか思えない
「……はぁ……」
内心ムカつきながら
俺はもう一度なんとかやり切った
「まだ、声が小さいなぁ……
それに内容もだなぁ、
もう少しいろいろ
個性をアピールするような、
そういうのが欲しいなぁ……」
それを言うなら
前に席っている女子の時に言え
この自己紹介も
ほぼ終盤のここに来て
なぜ俺だけがこんな風に
見せしめにされているのか分からない
この後、自分がする話の
前フリにでもしようとしているのか?
そう言えば、
こいつの担当教科は体育だと言っていた
体育教師、
つまり根っからの体育会系ということか
これだから体育会系は大嫌いなのだ
こちらの気持ちも知らないで
もっとポジティブになれだの
前向きに生きろだの、
平気で説教をかまして来る
一方的に意見を押し付けて来る
いやいや、いやいや
そういうの無理だから
ウザイ、サムイ、キモイ
結局、俺は何度も
自己紹介をやり直しさせられた
世間ではこういうのを
パワハラと言うのではないのか?
人の心の強さや弱さはそれぞれで
傷つき方もバラバラだというのに
なぜ体育会系や陽キャと
一律同じように
陰キャやコミュ障をいじって来ようとする?
体育会系や陽キャの間では冗談で済むことが
陰キャやコミュ障には致命傷だと
なぜ分からない?
おそらく心が強くない、
強く生きられない俺が
悪いとでも言いたいのだろう
未だに精神論や根性論で
なんとかしろ、やり切ってみせろと言う
それが大多数なのだ
もし俺が本当に心の病だったとしたら
この体育教師の不用意な言動で
深く傷ついたと
訴えることは出来るのか?
こうした日々の些細なことが
俺の、自分の世界を
灰色に塗りつぶして行くのだ
そんなことすら分からない教師に、人間に、
教えて欲しいことなんてあると思うのか?
こうして俺の高校生活のスタートは
最悪のカタチではじまった
それはこれからの高校生活が
灰色の未来であることを
予見しているかのように
今回のこともきっと
思い出したくないのに
勝手に頭を過ってしまう出来事の一つして
脳裏に刻まれたことだろう
本当に何も起こらないが
こうした些細な出来事で
日常はちょっとずつ
灰色に塗りつぶされて行くのだ……
誰か俺に拗らせた病の名前を教えてくれないか? ウロノロムロ @yuminokidossun
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