第9話 勇者と魔王④

 開いたままの扉から、長髪の男が入ってくる。

 腰には名もなき長剣。しかし目には弛まぬ殺意、そして決意の火の色が灯っていた。


「お覚悟!!」


 そういって彼は剣を抜き、刃を突き立てる。この一瞬の速さは、父のその速ささえ超えていただろう。

 その刃の閃きは甲冑を貫き、見事、


「がっ――馬鹿な、何故だ、何故」

「父上、もはや同情は致しません。功の為に無辜の民を幾万殺した罪、その命を以て償って頂きます」


 男――レヴンは、刃をあばらに沿うように横に払う。

 甲冑を裂き、飛び出す紅い花の如き血液と臓物。

 すかさず剣を抜こうとグリップにかけた手を、手首ごとそのまま斬り落とし、振り向いたスパロフの首に刃を宛がった。


「わ、私はお前の為にこの策を実行した。間違いなく国は落とせる。ローゼンデリアは繁栄し、国王陛下もお喜びになられる!」

「……本当に、そう思っておいでですか」


 レヴンは美しい顔に悲しみを浮かべて、静かに言葉を紡いだ。


「火の無い所に炎を起こし、明日ある民を死に追いやって尚、勇者たる陛下が喜ばれると!」

「敵が減るのだぞ! 安寧とはこのことだ! なのに、何故!」

「敵などどこにもいやしないじゃないですかッ!! ここにいるのは只の人、今生を精一杯に生きる人間だけ、貴方の言う脅威なんて、どこにも存在しちゃいない!!」

「――人は生きている以上争うぞ。争いの火種は早いうちに摘むものだ、わかるだろう、我が子よ」

「そうですか――では、おさらばです、父上」


 レヴンはそのまま剣を振るう。空に舞うは老騎士の頭蓋骨。

 飛び散る血液は最小限に。これにて、長い長い戦いは終わった。

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