第9話 勇者と魔王②

「はぁッ!」

「クッ!」


 閃剣による一撃は重い。気を抜けばこの鋼鉄の剣ですら吹き飛びそうだ。

 剣を握る腕により一層力が入る。

 しかしそうすると、力みを察して剣をあえて当てず、寸止めしてくる。

 力んだ体は結果、そのまま剣を空へと振り抜いてしまう。


 ――隙ができる。致命的な隙だ。


 その後頭部に目掛けて、余力の溢れた剣が断頭台の刃のように降りかかる――!


「何の!」


 その一撃にセプテムが割って入る。

 王宮仕込みの剣術は刃の差し込みに向く。

 しかし、根本的にに向かない。スパロフの胴に突き立てた刃は半身で躱され、脇で刃を絡めとられてそれがまた隙となる。

 ……刃を離せば、もう二度と剣には触れられないだろう。意地と根性で剣と共にぶん回され、吹き飛ばされる皇帝。


「チッ、二人がかりで互角以下か」

「当然でしょう。戦の経験の無い若造が一人、場数の足りない狂戦士が一人、その程度で私が止まるなら、師団長など務まりますまい」


 吹き飛ばされたセプテムに駆け寄るアウグスト。もはや、二人にはすでに万策が尽きていた。

 鋼鉄の剣の力で他の剣は意味を為さない。


 ……しかし、何かがおかしい。


 相手は老騎士だ。いくら手練れとは言え一線を退く身、何より老いとは体力に直結する。あれだけの重鎧を着て、一切動きが鈍らないというのもおかしい話――


「! そうか!」

「どうしたアウグスト!」

「――セプテム、時間を稼げるか」

「……どのくらいだ」

「相手が倒れるまで、だ」

「……はっ、ははは!」


 セプテムは立ち上がり、鬼神の如き気を放つ目の前の男に嗤ってみせる。


「なるほどな。正直賭けだが、良いだろう。お前もやれよ、アウグスト!」

「ああ!」


 アウグストも剣を構え直す。この場には男が3人。セント・ヴェリウスの兵士たちは魔物の奔流と町の守りで王城には近づけず、ローゼンデリアは正義に見せかけた襲撃という表立った動きは出来ない。

 ――もはや、誰も助ける者はいない。だからこそ、


「おおおおおおおおおおお!!!」


 アウグストは自身を鼓舞する。身の毛が逆立つ、筋肉に力が入る。失いかけた気力が再びに戻る。

 この、生と死を分かつ永遠の剣戟に、誰かが倒れるまでの全てをかける――

 それが、彼らが見出した、光とも呼べない狂気のような勝機だった。

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