第8話 聖ヴェリウスの封剣③
静寂を破り、無限の魔力が奔流する。
アウグストですらわかるその異様さに思わず彼は剣を構えて唱えた。
「! 鋼鉄のグラディウス!!」
たちどころに払われたる魔力。しかし、それでも消えない異様な敵意。
それは、聖ヴェリウスの剣ではなく、セプテム自身から溢れ出していた。
「ははは! 無駄だ無駄だ! 魔力による魔物生成が間に合わなくなろうとも、我の復活は防げない!」
「では、まず、その剣を破壊するッ! オオオオッ!!!」
雄叫びを上げて走るアウグスト。段上にいるセプテム。
彼に剣を横薙ぎに振るうと――目に見えぬ速さで、その剣は受け止められていた。
「ヴェリウスも伊達ではないよな、この剣は神の剣だ。いかな金属であれ壊せんよ」
そのまま、腕力だけで弾き飛ばされる。
着地し、何とか態勢を整えようとするもつかの間、抜身の長剣を以て階上から飛ぶように男が飛来する!
「チッ!!」
鋼で受け流す。散るは火花とやかましいまでの金属音。
返す刃で急所を狙い、それを全ていなされる。
2,3,4,5――
幾度となく繰り返される剣のやりとりは、セプテムにはまるで効果を為していなかった。
「まるで赤子の相手だな! よく鳴きよる、威勢だけか貴様!」
「っ! 言っていろ!」
体当たりでセプテムを遠ざけ、一足飛びで打ち捨てられた聖ヴェリウスの封剣の鞘を掴む。
しかし、掴んだその腕に痛みが走る。骨が砕ける音、痺れ、次第に感覚がなくなっていく、左手……
「ははっ! 戦闘中に火事場泥棒とは生き意地の悪い。所詮は人間、下らん生き物だな」
セプテム……と思わしきモノは、目に闇の色を灯して、苦悶の表情を浮かべるアウグストの感情を楽しむように足で左腕をいたぶった。
その度に寸断されていく神経、血管。アウグストの声にならない叫びが、広い謁見の間に伝わっていく。
「っ……お前、セプテムじゃ、ないな――ッ!」
痛みでのたうち回りながら、仰向けになってセプテムに言う。
「そうとも。この身は聡明であった故な、人格を乗っ取るのに随分かかったぞ。だが、この肉体を選んでよかった。前の男など力に欠けていたし、その前も前も、我の完全な復活には遠く及ばない素体だった」
「機が熟した、ということか」
「ああ。とあるモノの助太刀で鎖にほころびが生じた。我が眷属が溢れ出し、この町を覆いつくした。その一瞬の失意の隙をついたのだ」
にやり、と、セプテムの顔をした魔王は笑う。
「おっと、話しすぎたか。貴様何やらこの体と因縁があったようだが、残念だったな。それでは」
魔王は容赦なく剣を引き、心臓目掛けてゆっくりと突き落とした。
――なんて、愚策。
アウグストは感覚の無くなった腕を、長年の第六感で動かしてみせる。
場所は心臓の前に高く遠く。手の先には剣の鞘、苦悶に呻き、腕が死のうとも、離さなかった意思の表れ。
「!」
動くはずのないものが動いた。魔王が驚嘆の表情を浮かべるその一瞬をついて、アウグストは鞘に剣を納め切った。
そのまま立ち上がり、鋼鉄の剣を落として右腕を思い切り振りかぶり、セプテムの顔面目掛けて思い切り振り抜いた。
「ガァッ!!!」
「ぐっ……!!」
右腕に確かに伝わる、肉を打つ衝撃。
後方に2,3歩よろめく魔王。そして――
――アウグストの感覚のない左手には、確かに聖ヴェリウスの剣が握られていた。
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