第8話 聖ヴェリウスの封剣②

 扉を開けると、意外もそこには、いつも通りの光景が広がっていた――

 遠く、高く見える玉座に、静かに佇む皇帝、セプテム。

 外は朱く、まるで血で帳を下ろしたかのよう。

 しかし、この部屋だけは、時が止まったかのように、あの時と同じように――


「よく来たな、アウグスト」

「皇帝陛下――いや、セプテム」


 アウグストは剣を構える。皇帝陛下と敬う姿勢をとるのはもう止めた。

 ここにいるのは男が二人。息遣いさえも聞こえてくるような静謐な空間の中で、セプテムは口火を切る。


「だが、なぜ来た。今の貴様ならば、全てを捨てて逃げられたはずだ――あれだけ欲していた自由を手に入れて、尚俺に刃を向ける理由はなんだ」

「それは――俺のの為だ。体はこの通り、どこへだって行けるだろう。しかし俺の心は鎖に繋がれたままだ。あの日、お前に買われて、ここへ連れてこられた時から、ずっと」

「役割を与えたのだ。それをしがらみと感じるのは自由だが、なに、気の持ちようだろ? そんなくだらない感情なんて捨てて置け、時が解決するだろう」

「それでも、だ。俺はお前に止めを刺す。そうしなければいけないと、心の内側から叫ぶのだ」

「クッ……くくく、はははは!! はははははははは!!」


 皇帝は笑い始める。声を上げて、玉座から立ち上がり、一歩、二歩と前に進む。


「あははは、そうかそうか、俺に止めを刺しに来たか! いや嬉しいぞアウグスト、ここまで真意が伝わっているとはな」

「真意……?」

「俺は良王だ。善政を敷く皇帝だ。しかし、その手が限界を迎える時、俺という存在が善で無くなる時、俺を止める者が欲しかった!!」

「それが俺だというのか――すべて、お前の思い通りだと」

「そうだッ! 最後の最後まで貴様はだったよ、アウグストッ!!」


 皇帝は腰に付けていた剣を手に取る。

 水平に構える、鞘はしたまま、しかしいつも見る鎖はなくなっている。

 ……まさか、なのか。


「最後に聞かせろ! この魔物の異常発生はお前の仕業か!」

「そうだとも! 全ては世を混沌に落とし入れるため、俺は、は! この日をずっと待ち望んでいた!!!」

「!!」

「さあ、解けよ! が力、が魂を封印せし檻、聖ヴェリウスの封剣よ!!」


 ――鞘から取り出されたる剣、そこには宝石とも鉄とも違う、

 異様な黒々とした物体が、剣の形をして封じられていた――

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