第5話 鋼鉄のグラディウス④

「ほ、本気ですかっ!!」


 それは、揺れる感情。薄暗い森の中で、若き騎士はその書簡の両端を跡がつくほど握りしめ、目の前の老騎士を見た。


「……そうだ。今しかない」

「しかし、クラルガ公国はどうするのです! それにセプテム皇帝だって……」

「なんだ、貴様ともあろう者が、自国より他国に同情か」


 冷ややかな声。老騎士は朱い瞳を美しき我が子に向ける。


「いえ、ですが……しかし、そんなこと……」

「……もう、手は打ってある」

「!!」

「打ってあるのだよ。止められはしない。たとえお前が止まろうと、

「父上……」


 老騎士は書簡に指で触れると、書簡は音もなく燃えて消えた。

 今一度、その隻眼で彼を見つめなおす。そして、静かに言葉を放った。


「決断せよ、。我が国の為に、全てを斬る決断を」


 ……今はまだ、誰も知らない。


 クラルガとセント・ヴェリウスを分かつ、人道じんどうならぬ獣の森で、男たちはただ静かに、世界を変えようとしていた──

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