第5話 鋼鉄のグラディウス③

「只今より、剣闘を開始する! 挑戦者は──」


 ……あれから、結局"咎め"らしきものはなかった。


 アウグストもジュヌも、今までと変わらない日常を過ごしている。

 変わったことと言えば、前よりくらいだろうか。


 結局闘技場は、近隣の山から土砂を輸送・追加して平坦にならし、観客の貴族たちにとってと言える形に修復された。


 ──皇帝がアウグストの命を助けたのは、理由がある。

 彼は、アウグストやジュヌをと言った。

 それはひとえに、彼が遊興のための道具であり、国の所有物であり、貴族に必要なものであるから。


 故に、戦いで命を落とさせるわけにはいかなかった。


 死ぬならば闘技場で死ね。


 おそらく皇帝はそう言いたかったのだろう。

 だからこそ、今こうして、狭い檻の死闘を繰り広げようとしているのだ。


 ローゼンデリアの兵も引き上げ、あるいはクラルガ公国との戦争に打って出た。

 ルキスラの余剰兵も同様──だが、戦局は良くも悪くも無く、5分5分──といった所だ。と、アウグストは番兵づてに聞いた。

 出陣することは叶わないが、叶わないならば、俺はこうして、剣を取り続けよう。


 来るべき、その時自由が来るまで──


「対するは、我が国切っての狂戦士。鋼鉄の剣に斬れぬ敵無し。ローゼンデリアの騎士を倒し、あの空飛ぶ魔獣さえも撃ち落とした剣士、アウグスト!!」


 沸き立つ観客、冷ややかな視線で睥睨するセプテム。

 アウグストは右手に持った漆黒の剣を強く握りしめると──


 ──獣のような叫び声をあげて、眼前の敵に向けて走り出した──

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