第4話 閃剣と鋼鉄②
──気づいた時には遅いもの。セプテムが横を向くよりも先に、その老騎士は声をかけた。
「お困りのようですな」
「──抜かせ、貴様が首謀者だろう、スパロフ・リコリス。老獪とは貴様のような男の事を言うのだろうよ」
「お元気そうで結構。さて」
セプテムは飛びのき、腰の剣に手をかける。
厳重に鎖のまかれた──まるで封印されているようなその黒い剣を抜こうとすると、スパロフは束を抑えてそれを止めた。
「(──止めた? 馬鹿な。俺は飛びのいたんだぞ。後方に飛んだ。奴もそれを見ていた。だというのに、なぜ目の前にいる……?!)」
「そう驚愕なさられなくとも。この老騎士、この程度の技術しか今は使えないほど老いた身にて」
「魔法無しで縮地か──つくづく化物だな、お前」
「お褒めに篤かり恐悦至極。それより、その剣は抜かない方がいいでしょう」
老騎士は赤い瞳で赤髪の少年を威圧すると、束から手を離してゆっくりと会場に向けて手をかざした。
「一つ、勘違いを為されている。私は貴殿の首を取りに来たのではない。むしろ逆、助けに来たのだ」
「は?」
「我が役目は『両国の親睦を深める』こと。それはローゼンデリア王の意思です。背くなど、とてもとても」
話している内に、白銀の騎士たちはゆっくりと闘技場の客席に展開していく。そして、その悉くが手を会場に向けて──魔力により、障壁を補強しているようだった。
「魔獣とは、良く捕まえたものです。アウグスト殿には我が愚息は完膚なきまでに敗北しました。だが、ここでアレを倒せばより厚き信用となれる」
「……そうか。いきなりの開場、魔獣の暴走、二国の英雄の共闘・勝利。なるほど、このショーを貴族共に見せて民意を掌握するつもりだったか」
「……悪意のある言い方ですが、仰る通り。いやはや、負けてみるものですな」
老騎士は笑って皇帝と目を合わせた。敗北だ。速度と策で上回られた。自国の兵を信頼しているが故に、魔獣が兵で御せない事を読めなかった。
彼は若干17歳にして初めて、他国の人間に屈辱というものを味わわされた。
しかし──そこは若き皇帝。自身が十全足りえていれば自尊心も崩れているが、未熟だからこそ、彼はにやりと笑った。
「良いだろう。当初の要求を果たす時だ」
そう言うと、困惑にどよめいている貴族に声を上げて伝えた。
「聞け! この会場は我がセント・ヴェリウス帝国の宮廷魔術師と、ローゼンデリア王国の魔法騎士達によって安全が保障されている。安心して楽しむが良い!」
民はその声を聞くと、途端にそのひそひそ声を歓声にかえて、拍手交じりに熱狂の渦へ戻っていった。
「そういうことだろ?」
「ありがとうございます。セプテム皇帝陛下」
老騎士と若き皇帝の会話はここで終わった。二人と会場の兵士たちは全員、全力で障壁を維持する。
あとは、中の人間がどう動くかに掛かっていた──
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