第4話 閃剣と鋼鉄①

 ──地面を蹴り、一直線に魔獣めがけて走る。衝突までは2秒──いや、事実として、1秒とかからなかった。

 ……速い。そう思ったのはが先か。獣は放たれた矢のような速度で、牙をむき出しにして飛び掛かる。

 それはまるで、大砲を正面から受け止める如き所業。しかし、そんなものに物怖じをするような勇士二人ではない。

 全身の筋肉に駆け巡る衝撃。アウグストは下の顎を、レヴンは上の顎を抑える形で、初めての魔獣との対面となった。


「ぐっ……なんて力だッ! 抑えるのがやっとかッ」

「…………!」


 アウグストの持つ鋼鉄の剣が腕ごと震える。

 ──力が足りない。少しでも気を抜けば、足が宙に浮き、体ごと持っていかれる。それを支える腕はもはや、人間の力ではとても補えないほどの圧力を受けていた。

 まるで万力だ。玉のような冷や汗をかきながら、アウグストは必死に次の手を──


「ッ!」


 ──思考が一瞬ふつりと途絶えた。天地がつかめない。すさまじい速度で映りゆく景色。

 腹部に痛みがあった。そう気づいた時には地面に打ち付けられており、全身に酷い痛みを感じる──そこで、ようやく自分がのだと気づいた。


 獣の右の前足が上がっている。そうか、あの大木じみた腕に、俺の体は薙ぎ払われて飛ばされたのか。そんな当たり前の事実に思考がようやく追いついた頃──魔獣は、

 ──魔獣の体から延びる十の眼球。そこに青い光が集まる。……まずい。そう思ったとき、そのは放たれた──


 コロシアムの城壁が、砂と土に覆われた地面が、客席が、天が、十の光線で無作為に薙ぎ払われる──


「させるかッ! !」


 セプテム皇帝が立ち上がり、左手を闘技場の中央に向けて勢いよくかざす。玉座の後方にあった空間から光があふれ、闘技場中央を覆うようにが覆った。

 光線は幕をその熱によって焼き崩そうとする。幕はどうやらそれを防いでいるようだ。しかし、セプテムの表情は一つも良くなることはなく、むしろ曇っていた。


「どうした、なぜ防げない。魔術師ども! 足りていないぞッ!」

「いきなりの開催ですから、人手が足りていないんですよ!」

「馬鹿な……」


 セプテムは呟く。平時なら、例え内側に魔獣がいて、それが自爆しようとも客には埃一つかからないようにによる障壁を展開できるはずだった。

 それが、今は出来ない。このままでは貴族に攻撃が当たり、信用が落ちる。

 。と勘繰りながら、自身の拙い魔力も注いで補強する。


 ──そこに、横からゆらりと、迫りくる白銀の影があった──

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