第1話 狭い檻の死闘③

「我が偉大なるローゼンデリア王国は、悪意によって諸国を脅かさんとするクラルガ公国を義によって討たんとす。ついては公国討伐のため、両国と古くから同盟関係にある貴国、セント・ヴェリウス帝国とより一層の親好を深むることを望む、それで──」


 黄金を外枠にした、豪奢な椅子に座った男は、赤い絨毯に手を突いてひれ伏すアウグストに目もくれず、昂る声をあげて羊皮紙の内容を読み上げていた。


「両国友好のために、親善大使たる白薔薇騎士団第三師団長──閃剣せんけんのレヴン・リコリスを遣わし、貴国の象徴たる闘技場コロシアムにて華麗な剣舞を披露させよう──か、くくく」


 男は遂に押さえられなくなったのか、羊皮紙を床に放り投げると、目元を右手で覆って天に叫ぶように笑い始めた。


「かーっはっはっは!馬鹿じゃないのか!愚かなローゼンデリア。下手に自国の騎士の強さを見せつけようなどと欲を張るからだ!しかも3軍だぞ!したり顔で!!」


 笑い声は留まることを知らず、衛兵は慌てて玉座の門を固く閉じた。


「ははは──なぁアウグスト、滑稽だったよなぁ、あの美丈夫が顔を腫らして卒倒している様はさぁ!」

「……はっ、左様にございますな」


 アウグストは微塵も笑みを浮かべず、ただ平伏したまま同意の念を伝えた。


「だよなぁ!ははッ、戦争だかなんだか知らないが勝手にやればいい、手を出して欲しく無いのならその様に外交をすればいい。それをウチの大人気ショーマンたるアウグストをに牽制、などとよく考えられた物だ。目が前ではなく横に付いているんじゃないのかぁ?!」

「……左様にございまするな」


 男は腹を抱えてひとしきり愉快そうに笑ったあと、ようやくアウグストに目を向けた。彼の目の前には、戦いの最後に閃剣のレヴンから奪い取ったがあった。


「おいアウグスト、たしかお前、剣が壊れたろ」

「……はっ」

「今度からそれを使え。くく、これ以上無い恥辱になるだろう。鞘に刻まれた『親愛なる陛下と国民に捧ぐ』なんて大仰な銘も、お前が振るえばまるで違った意味になるだろうよ。はははは!」


 意地の悪い笑みを浮かべて、美しい赤い髪をした若き皇帝は玉座に座り直した。


「その戦争の件だが、ウチも一枚噛む事にした。散々笑ったローゼンデリア王国の側に立ってな。──兵を1割、約3000の師団を送る。余剰兵だが、故に気晴らし程度にはなるだろう。嗤わせてくれた礼だ。いや無礼かな」


 下らない言葉遊び。しかしその戦争という単語を聞くと、アウグストは突如として目を輝かせ、皇帝陛下と視線を合わせた。

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