第55話 プール際のないしょ話
試合が終わって、次のチームに入れ替わりだ。
ルールというほどのものもなく、活躍しようがするまいがどちらでもいい。
試合の形をとったレクリエーションだった。
「ふう……。ポートボールはいつもの水泳と勝手が違うから、ちょっと大変」
当たり前みたいに俺の隣に座った舞香が呟いた。
おや、舞香さん?
なんで俺と君は二人並んで座っているのかな?
いや嬉しいけど!
「そう言えば、ジムのプールに連れて行く話をしてたと思うけど、絶対行こうね」
「お、おう! 行く」
今日の舞香、押しが強いぞ。
ポートボールで大活躍していたため、今は息が荒い。
水泳キャップを脱ぐと、彼女は目の前に置いた。
濡れたお団子頭が気になるみたいで、ぺたぺた触っている。
落ち着かない様子だ。
「ジムのプールってさ、水着はどんなのがいいの?」
「あ、う、うん! 普通のでいいよ。スクール水着で。だけど、あんまり派手なのはだめかな。露出度が高いのもだめだって」
露出度!
舞香の姿を妄想してしまう俺。
いかんいかん、今は水着一丁なんだ。ばれてしまうからそういうの考えるのやめるんだ、俺!
「そ、そっかあ。じゃあお洒落な水着を見るなら海に行ったほうがいいんだね」
「そうだね。海……。あ、うちね、プライベートビーチがあって」
また凄い話がポロッと出てきたな!
「昔は家族と行っていたんだけど、最近は春ちゃんと行ってるの。ねえ、その、よかったらなんだけど」
おや、これはもしかして、お誘いかな……?
「俺も行ってみたいなあ……」
「おいでよ!」
あっという間に話がまとまった。
なんと、米倉家のプライベートビーチにご招待いただけることになってしまった。
いきなり、夏休みにビッグイベントが差し込まれてきたぞ。
「クラゲが出る前に泳がなくちゃだから……七月の終わりくらいでどう?」
「俺はいいと思う。……ええと、二人きり?」
「ふた……う、ううん! 違う違う! 春ちゃんも来るし。あ、そうだ。妹の穂波ちゃんも呼んだら? 静かなところだから受験勉強も捗るよー」
「塾の講習は……八月からか。ギリギリいけるかも」
二人きりじゃなくて、ちょっと……いやかなり残念な俺なのだ。
だけど、舞香と二人だけって、何を話せばいいんだ?
いやいや、話すことは無限にあるな。そう、特撮のこととか。
それでも二人きりだと、ずっと特撮の話だけして泳がずに終わる可能性がある。
後は一応俺達も、健全な高校生の男女なので、ひと夏の間違いが起こってしまう可能性も……!
やべえ、バレたら清香さんに海に沈められそう。
ここは、麦野や穂波が一緒にいる状況の方が安全なんだろうな。
「それに、旬香さんが一緒に来るから勉強も教えてくれると思う。あのひと、頭もいいから」
ふむふむ。
芹沢さん、勉強もできるんだな。確かに頭の回転早かったもんな。
穂波の勉強も見てくれるかも知れない。
待てよ。
ということは……。
俺、舞香、麦野、芹沢さん……。
女子が三人の中に、男は俺一人!?
とんでもない状況に気付き、俺は震えた。
「いいんだろうか」
「行きたくない?」
ちょっと舞香がしょんぼりした。
「いやいや、行きたい! 絶対行く」
「良かった。じゃあ、約束だよ。夏休みになったら迎えに行くから」
マジか。
それってつまり……お泊りだったりするんだろうか?
するんだろうなあ。
いきなり予定が立ってしまった。
だけど、俺だって舞香に予定を空けて欲しい希望があるのだ。
「米倉さん、それとあのさ。二つお願いがあって」
「お願い?」
舞香が首を傾げた。
濡髪が色っぽくて、しかもかわいい。
いかんいかん、見とれてどうするんだ。
「そう。夏祭りがあるから、一緒に行こうって言うのと」
「夏……祭り……?」
「神社で、店が集まってきてさ。人もいっぱい来るんだ。米倉さんは行ったこと無い?」
「人が多いところは危ないからって、一度も……。そっか、夏祭りかあ」
「そうそう。みんな浴衣を着たりして、花火もあるからそれを見たりして」
「浴衣に、花火……!」
舞香の目がキラキラしてくる。
「行きたい……!」
「行こう!」
「でも、お母様の説得をしないと……」
「うっ。お、俺がやる」
すると、舞香が俺の手をぎゅっと握ってきた。
「うううっ、ありがとう稲垣くん! いつもいつも……!」
「米倉さん、みんな見てる! 見てる!」
「あっ」
慌てて手を下ろす俺達だ。
危ない危ない。
何か勘ぐられたら大変だ。
「それともう一つあって、こっちはもうちょっと簡単かもだけど……」
「まだあるの……? イベントたくさん過ぎるよ……」
舞香、どうやら嬉しすぎて顔が緩んでしまっている。
クラスでしていい顔じゃない。
俺は何回か見ているけど!
「夏の特撮映画まつり……!」
「特撮映画まつり……!!」
舞香が今日一番真剣な顔をした。
「見に行こう」
「行く」
こっちは力強く断言してきた。
俺と舞香の一番大事なイベントだ。
夏休みのクライマックスと言えるだろう。
プライベートビーチ。
夏祭り。
特撮映画まつり。
高校最初の夏休みは、イベント目白押しなのだ……!
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