第53話 舞香と春菜登場

 水戸ちゃんが布田以外を冷静にさせてくれたお陰で、男達は登場する女子達をじっくりと待つことができた。


「なんか男子が静かなんだけど」


「やだ、じっとこっち見てる」


「むしろ怖い」


 ちなみにプール端では、布田と水戸ちゃんがお互いを称え合っている。

 ほんとに仲のいいカップルだなあいつら。


 布田に言わせると、「お互い全然違うのでぶつかりようがない」のだとか。

 そういうのもあるのか。


 それに対して、俺と舞香は大好きなものがピッタリと同じだから真逆だな。

 まだカップルじゃないけど。

 なりたいけど……!


 その舞香はどこだ。

 まだか。


 次に現れる女子。

 舞香よりは背が低く、ふわふわの髪をお団子にまとめている。

 そして強く自己主張する、前方に突き出す胸元!!


「うおおおおお」


 男達がどよめく。

 それはまさしく、麦野春菜だった。


 冬服の上からでも分かる膨らみは、厚手とは言え水着一枚しか隔てるものがなくなれば、視覚に対する暴力になる。


「すげえ」


 何度もあれを下から見上げたりしていた俺だったが、慣れられるものではない。

 年頃の男子はおっぱいが好きなのだ……!


 麦野は慣れたもので、余裕の笑みを浮かべながら男子へと手を振る。

 男達がフィーバーした。


「やあねえ男子。麦野さんで盛り上がっちゃって」


「でも分かる気がする。規格外だもん」


「肩凝りそう……」


 女子達の話に、麦野が入ってくる。


「実はね、肩凝りがかなり軽くなったんだよー」


「ほんと!?」


「その胸で!?」


「どうして!?」


「本格的にエクササイズを始めてね。春菜、筋肉がつけたからだと思う」


「ええっ、筋肉をつけてもそのサイズ……!?」


 そう言えば、ぷにぷにしていた麦野のボディラインが少し引き締まったような……。

 いや、いや、引き締まったのはウエストラインか。


 ヒーローショーとかで麦野と組手をやったりしたが、彼女は筋肉がついても表層の脂肪がたっぷりついてるので、柔らかい。

 ちなみにここぞとばかりに麦野は俺にぺたぺた触ってきてて、「あんたまた筋肉ついてるの!? 男子ってすぐ筋肉質になるのねー。やーねー」とか好き勝手言ってたな。

 セクハラでは?


 ということで、年頃の男子達には非常に目の毒である麦野春菜。

 男達の視線を一手に集める。


 少し時間が経ってくると、男達も冷静になってきた。


「うちのクラスの女子は全体的にレベルが高いのでは」


「俺は太めが好きなので三田村もいける……」


「三田村が……!? やるな、お前」


 水着姿の品評会が始まってしまったぞ。

 女子達が、「男子ってやーねー」「性欲に手足が生えてる」とか言ってる。

 大体男子とはそういう生き物だ。思考の五割が性欲だもんな。無論、この場だと九割九分まで行くと思う。


 だがまだ俺は冷静だ。

 クールだぞ。

 確かに麦野は凄かったが、大きさだけじゃない。


 深呼吸をして精神を落ち着ける。


「はいはい、では授業を始めますよー」


 おっ、体育教諭がやって来た。

 長身でがっしりした感じのおばさまだ。

 彼女はいつものジャージ姿で、基本的には生徒たちがプールできゃっきゃしているのを監督するのだ。


 あれ?

 舞香がいない。


 いつまでも彼女が登場しないことに俺は気付いた。

 どうしたんだろう。

 体調不良とか?


 ま、まあそういうこともあるよな。

 別に俺は舞香の水着を心待ちにしていたわけじゃ……していた、わけでは……ある。


 その時だ。


「すみません! 遅くなりました! 髪がまとまらなくて!」


 ぱたぱたと走ってくる少女。


 米倉舞香だ。

 むむむっ!!

 

 ほどよく出て、ほどよく引っ込んでいる素晴らしくバランスのいいプロポーション!

 究極の普通……!!


 目を引くのは、その白さだ。

 この場にいる女子の誰よりも白くて、透き通るみたいだった。


「おお……」


 男達が言葉を失った。


「まあ、米倉さんは分かる」


 女子達も頷いた。

 あの肌の白さ、きめ細やかさはやばい。

 反則だ。


 俺が舞香を凝視していると、彼女も俺の視線に気付いたようだった。

 じっとこちらを見てくる。

 回りに気付かれないようにか、小さく手を振ってきた。


 あ、舞香の口の端が緩んだ。

 口がむにゅむにゅしている。

 笑顔がこらえきれてない。

 かわいい。

 

 俺がニヤニヤしていると、佃が小突いてきた。


「なんで米倉さんがお前に向けて手を振ってるの? やっぱりお前らってそういう関係……!!」


「は? ち、ちげーし。まだそんなんじゃねーし!」


「絶対怪しいと思ってたんだよ……。だってお前つながりで米倉さんと麦野さんとボランティアやっただろ? くっそー、俺が知らない間にいつの間に……って。もしや春の下駄箱のあれか?」


 こいつ、今になってそのことを思い出して……!


「……だが俺はお前に感謝してるんだ。あのヒーローショー、くっそ楽しかったからな! 今度はもっと女子を増やそうな」


 そこかよ!


 と、言うわけで!

 水泳の授業が始まるのだ。

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