第50話 歌え、特撮ソング
山盛りポテトに唐揚げ、ポテトチップスに各々が好きなジュース。
カラオケボックスで打ち上げが始まった。
ドリンクはフリードリンクなので、自分で入れに行くことになる。
「えー、では乾杯のあいさつを!」
水戸ちゃんが宣言すると、みんながわーっと沸いた。
俺、舞香、麦野、佃、布田、水戸ちゃん、掛布の七人である。
一竜さんは仕事。
ショーの後もずっと仕事してたらしい。あの人は鉄人か。
「あいさつをお願いするのはー」
水戸ちゃんが舞香を見た。
うん、やっぱりそうだろうな。
だけど当の舞香は目を丸くして、乾杯前にジュースをちょっと飲んでいた。
「あっ、乾杯してからだね」
天然さんだ。
かわいい。
「こほん。それではー。みんな、ヒーローショーに協力してくれてありがとうございます。保護者の方々からも、大変なご好評をいただきました。お子さんたち、家に帰ってからも凄く楽しかったって言ってくれてるそうです」
うんうん。
ヒーローショーって、自分もショーに参加する、まさにライブだ。
小さい子は、映画やテレビに感情移入してライブ感を味わってるかもだけど、本当にその場全部がライブになってしまう状況は初めてじゃないかな。
みんなが楽しんでくれたのなら、とても嬉しいことだ。
「これも全部、みんなのおかげです! 私だけではできませんでした。ありがとう、春ちゃん。あなたが慣れない練習も一生懸命やってくれたこと知ってます。だから春ちゃんのセキハンジャー、ショーではとってもかっこよかったです」
麦野がどーんと胸を張り、当たり前でしょ、という顔をした。ちょっとニヤニヤしてる。あと、胸を張ると大変なことになる。
「ありがとう、水戸ちゃん。あなたはみんなのムードメーカーです。いつも明るい雰囲気になるように引っ張ってくれて、本当に助かりました」
水戸ちゃんは珍しく、照れて笑っていた。
「ありがとう、佃くん。あなたが子ども達の後ろから飛び出してきた時は、私、心臓が止まるかと思いました……! だけど結果的に良い方向に行きました」
微妙に褒めてないな?
佃、自慢気に笑っている場合ではないぞ。
「ありがとう、布田くん。あなたのサバクトビバッタ将軍は、体格とも合っていてとても見栄えがしてかっこよかったです。後はもうちょっと殺陣を磨けば、かなり見栄えのするアクションを……将軍は武器を使う動きもあるのでやりがいがあると思うので、今後の研鑽に期待を……」
「米倉さん米倉さん、オタクが漏れてる」
俺が囁くと、舞香がハッとした。
ちょっと赤面しながら咳払いする。
「ありがとう、掛布くん。あちこちで、あなたがみんなをサポートしてくれていたのは見ていました。影の立役者はあなたです」
「うおおおおん」
あっ、掛布が泣いた!
いつも地味だ地味だと言われてきたこいつだ。
だが、地味なりに一生懸命働いていたのを、舞香はちゃんと見ていたわけだ。
認められると嬉しいもんな。
「それから、ありがとう、稲垣くん。今回だけじゃなく、今までとか、色々……その……。これであいさつ終わりです! このメンバーは最高です! またやりたいと思いました! じゃあ、乾杯!」
「かんぱーい!」
みんなでジュースを掲げた。
俺への言葉だけ、すごく曖昧じゃなかった!?
麦野と水戸ちゃんがじーっと俺を見ている。
なんで二人共ニヤニヤしてるんだ。
ちなみに、俺と舞香はお誕生日席みたいな感じで、カラオケのディスプレイと向き合う一番奥の席。
右手に布田と水戸ちゃん。
左手に佃と掛布に挟まれて麦野。
佃も掛布も嬉しそうだ。
麦野は気にしてないっぽいな。
わいわいとお喋りが始まり、ポテトと唐揚げがどんどん減っていく。
このパーティコース、ポテトは食べ放題らしいので、どんどん追加注文だ。
じゃがいもは穀物、主食だもんな。
さて、それではそろそろ。
俺はハンディターミナルを手に取った。
ターミナルで曲検索をし、選択するのだ。
「米倉さん」
「ふぁい?」
ちょうど唐揚げをもぐもぐやっていた舞香。
声を掛けられて、ちょっと慌てたみたいだ。
ごめん……!
急いでもぐもぐ噛む舞香。
ようやく飲み込んだところで、俺は言葉を続けた。
「これ、どう?」
ターミナルの画面を見せる。
すると、彼女の頬が緩んだ。
「あー、あるんだ……」
「放送開始したらもう入ってる感じらしいよ。じゃあ、送信!」
ディスプレイ上部に映し出される、『クックアップ・ライスジャー!』の文字。
そう、米食戦隊ライスジャーの主題歌だ。
俺はマイクを掴むと立ち上がった。
「おー! 俺達がやったやつの主題歌か! そう言えば番組見たことねえんだよな」
完璧な戦闘員をやってのけた佃が言う。
ナチュラルボーンイナゴ兵なのかもしれない。
アップテンポで、テンションが上がるイントロが流れ始めた。
舞香が隣でむずむずしている。
麦野が無言で、自分の前にあったマイクを俺に押し出してきた。
何か言いたげな目をしてる。
何を言いたいかは分かる。
俺はマイクをもう一つ手に取ると、舞香へと手渡した。
「!?」
「一緒に歌おう。全部覚えてるんでしょ?」
「──! もちろん!」
舞香がすごくいい笑顔になった。
そんなことをしてたら、歌詞の部分が始まってしまう。
俺も舞香も大慌てで息を吸い込んだ。
声を合わせて歌い出す。
「米食戦隊ライスジャー!」
舞香と過ごした四ヶ月間を思い出す。
屋上、放課後の十分間、ヒーローショーデート、舞香の家、FINEチャット、そしてボランティアヒーローショー。
画面の中では、ライスジャー達がアクションを繰り広げていた。
俺と舞香を繋げてくれた特撮。
数々の戦隊ものの中で、この作品は俺にとっての特別になりそうな気がした。
間奏の時、舞香がマイクを外し、こっそり呟いたのが聞こえた。
「ライスジャー、穂積くんとの思い出がたくさん詰まってる」
「じゃあ、もっとぎゅっと詰め込まなきゃな」
「お米だけに、おにぎりみたいに」
上手いこと言った!?
ちょっと呆気にとられた俺は、二番の歌いだしにまたも間に合わなかったのだった。
第一部:おわり
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