第49話 打ち上げをしよう!

 打ち上げをしようという事になった。

 昨日のヒーローショーから一晩明けて、俺達の興奮もちょっとは収まってきたところだ。


 ヒーローショー開催に全力を注いでいたから、その後のことなんか何も考えていなかった。

 舞香なんか、ショーが終わって裏に引っ込むやいなや、へなへなと崩れ落ちてしまったほどだ。


 慌てて麦野が支えたら、


「よかったぁ~。成功したよぉ~。すごく緊張した……」


 なんて言っているのだ。

 仮面を取ったら、いつものうるうる目の舞香がいた。


「舞ちゃん頑張ったよ! 春菜もかなり頑張った……! 実はもう手足がプルプルしてて」


「春ちゃん!」


 むぎゅっと麦野を抱きしめる舞香。


 男達からどよめきが上がった。

 外では水戸ちゃんが、ちびっこ達に終わりの挨拶をしている。


 これにてヒーローショーは終わり。

 保護者の方々とちびっこ達が帰ったところで、俺達も帰ることになる。


 スーツを脱ぐと、汗でびっしょり。

 タオルで汗は拭ったものの、シャワーを浴びたい気分だった。


 だけど、こんなに清々しい汗は初めてかも知れない。


 猛烈な達成感が俺の中にあった。


 高校に入学した時は、まさか自分がヒーローショーでヒーローを演じるなんて思ってもいなかったのだ。


 あの時、どうして俺は屋上に行ったんだろう。

 高校だと、屋上で何かあったりするのはお約束だよな、なんてマンガやラノベみたいなことを思い浮かべていたら……本当に何かがあったのだ。


 帰りの車を待っていると、舞香が隣に立った。


「凄かったねえ」


「うん。凄かった。子ども達の熱気が伝わってきたよ」


「うん、うん。私、私ね。本当は不安だったの。私達がショーをやっても、それって子どもの真似事になるんじゃないかって。そういうのを、子ども達に見透かされるんじゃないかって毎日不安だった」


「あー。子どもって結構そこらへんシビアだもんなあ」


 だが、ある意味、これに関してのMVPは佃だろう。

 いきなりちびっこ達の背後から奇声を上げて出現する戦闘員。


 この瞬間、ステージはライブになった。

 ちびっこ達が、ヒーローショーを観客としてではなく、参加者として楽しむことになったのだ。


「そう言えば、ちびっこを人質にするとか忘れてたよな。しまった……」


「もう、いっぱいいっぱいだもん。水戸ちゃんだって疲れちゃってるでしょ。全力だったんだよ」


「そうだなあ。ヒーローショーってさ、普段なら番組でやってる作り物のお話を、目の前でやるわけじゃない。舞台みたいなものだけどもっと身近で、だからこそ、子ども達をお話に巻き込むように人質だーとか、みんな声を合わせてー!とかやるのかなって」


「うん。みんな参加したほうが楽しいもんね!」


「楽しい。実際にやってみたらこれも楽しい!」


「だよね! ……またやりたいって言ったら、やってくれる?」


「やる」


 俺は即答した。 

 舞香は一瞬目を丸くして、それから何か言いたげに口をむにゅむにゅさせた。

 何だろう?


「どうしたの?」


「あ、ありがとうって言おうとしたの」


「言ってるじゃないか」


 そうして、舞香と笑いあった。

 その日はこれで解散。


 俺はショーの疲れからか、風呂に入りながら寝て、出てきて夕飯を食って、歯を磨いたら速攻で寝た。

 泥のように眠った。

 目を覚ますと、既に朝なのだ。


 そしてそして。







「打ち上げをしようよ!」


 水戸ちゃんが宣言した。

 その日は、期末試験を間近に控えた月曜日。


 こんな時に打ち上げ!?


 いや、こんな時だからこそ打ち上げなのだ。


 朝になっても、俺達の気持ちはまだ、ふわふわとしたままだ。

 演じた俺達自身が、ヒーローショーが作り出したファンタジーの中から抜けきっていない。


 だから、打ち上げで区切りをつくって、テストという非情な現実に立ち向かう……!


「実はもう、あたしが予約を入れてるのだ!」


「マジで」


 俺は驚愕する。

 布田がいつものように水戸ちゃんを褒め称える。


「カラオケボックスでね、放課後に一室予約した!」


 ナイス、水戸ちゃん!

 昨日のヒーローショー参加者が沸き立つ。

 カラオケボックスなら、思い切り騒いでもいいし、歌だって歌えてしまう。

 もちろん、俺のチョイスは米食戦隊ライスジャーだ……!


 もしかして、舞香と一緒に歌えてしまうかも知れない。

 今から、妄想がたくましくなる。


 ──とまあ。

 そんな訳で、打ち上げをしようということになった。





「ちなみに米倉さん、一竜さんは?」


「兄さんならいつもよりもツヤツヤした顔をして、元気に仕事に出かけていったよ」


「鉄人か……!」


 いや、あの人は鉄人だな。

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