第48話 ヒーローショー、クライマックス
よし、俺、冷静になれ。
冷静にだ。
一竜さん、特撮大好きだってのは分かってたじゃないか。
スーツアクターのTさんをコネフル活用で呼んだくらいだぞ。
いつ練習してたんだあの人ってのは、絶対にTさんのワークショップに通ってただろうから問題じゃない。
じゃああのコダイジャースーツは私用か……!?
自前で作らせたのか。
そうだろう……!
ハクマイジャーこと舞香も、びっくりして動きが止まっている。
実の妹にすら教えないでサプライズするのやめろ!?
だが、一竜さんはちゃんとこちらのシナリオを読み込んできてくれたらしい。
ごくごく自然に戦隊の中に溶け込む。
四人が勢揃いしたのだから、ちびっこは大喜びだ。
大歓声が湧き上がる。
背後から戦闘員が現れるという絶望からの、ヒーロー勢揃いによるバトルだ。
俺達がちょっと素人芝居でも、感情の落差で押し切れる……!!
「米食戦隊!」
気を取り直した舞香が進み出て構えた。
俺達は示し合わせたポーズを取る。
「ライスジャー!」
ここでエフェクトと効果音。
これは芹沢さんが裏で担当している。
見事にマッチした効果で、ちびっこ達から沸き起こるライスジャーコール。
「ライスジャーがんばえー!!」
「がんばえー!!」
これだ!
これだよ!
俺は掛布が扮する戦闘員と、激しい戦いを繰り広げる。
佃は麦野と戦ってるけど、よこしまな感情が見え隠れするな……!
優雅な感じのパンチとかキックを受けて、佃がとても嬉しそうだ。
あっ、麦野が足を滑らせた!
だが、佃がそこにフォローに入る。
駆け寄って、あえて麦野扮するセキハンジャーに体当たりを食らったような状況を作ったのだ。
なるほど、合法的に麦野がぶつかってくれるわけか。
こういう時だけ凄まじい頭と動きのキレを見せる男だ。
セキハンジャーのお尻の下敷きになり、佃は嬉しそうに「イナゴーッ」と叫んだ。
キャッキャと笑うちびっこ達。
さて、舞香と一竜さんは……。
布田が演じるサバクトビバッタ将軍を相手に、二人で息のあったコンビネーションを見せている。
流石だ……!
布田は正直言って素人で、動きもたどたどしいし嵩張るキグルミに振り回されているのだが、それを感じさせないように二人が立ち回る。
強力な敵幹部と激闘をする戦士達に見えるのだ。
「やるなあ……」
思わず呟いたら、一竜さんがちらっとこっちを見た。
え?
もしかして、入れ替われってこと?
「くっ、やるなサバクトビバッタ将軍! クロマイジャー、バトンタッチだ!」
アドリブか!
俺は慌てて、「おう!! 任せろ!」と応じた。
スピーディーに戦場を交代する、クロマイジャーとコダイジャー。
「すげー! クロマイジャーとコダイジャー、なかよしだったんだ!」
「タッチした! いまタッチした!」
「いえーい!」
ちびっこ達が俺と一竜さんのタッチを真似している。
さて、俺は舞香と肩を並べる。
「じゃあ、決めるね穂積くん!」
「おう!」
ちょっと息が上がった舞香の声。
いつのもように返事をしてしまったけれど、あれ?
今、俺は名前で呼ばれなかったか?
舞香の顔は仮面で隠されていて分からない。
だが、俺もそれにこだわっている暇など無いようだった。
ちびっこ達の集中力は長くは続かない。
だから、状況が動き出したらすぐに決着をつける。
舞香が合図をすると、水戸ちゃんが動き出した。
「みんなー! ライスジャーは四人揃ったけど、まだサバクトビバッタ将軍は元気だよー! サバクトビバッタ将軍をやっつけるには、みんなの力が必要なのー!」
司会の水戸ちゃんお姉さんがちびっこ達に呼びかける。
「みんなで、大きな声で、ライスジャー!!って叫ぼう! 応援しようー!! お姉さんが、せーのって言ったらみんな、応援してね! 行くよー! せーのっ!」
「ライスジャー!!」
「ライスジャーがんばえー!」
「はくまいらー!」
揃ってもいない、めいめいばらばら、だけどちびっこ達が腹の底から発する応援の声だ。
俺達は一箇所に集まった。
「ライスジャーバズーカ!」
舞香が宣言すると、舞台袖から黒子になった芹沢さんが出てきて、バズーカを手渡して去っていった。
最近登場した新武器だ。
幸い、おもちゃも発売されていたので、今回使用するのはこのおもちゃ。
大きさは番組より小さめだけど……。
そこは気合でカバーだ!
みんなの手がバズーカにタッチし、ライスエネルギーを注入していく。
舞香がスイッチを押すと、バズーカは光り輝き、チープな電子音を流した。
マイクで拡大してあるので、ちびっこ達にもよく聞こえるだろう。
「ライスジャー、フィニーッシュ!!」
戦隊全員の叫びと同時に、バズーカが発射されたようなエフェクト。
爆発音が響き渡る。
「ぐーわー!!」
布田と佃と掛布が、くるくる回ってばたりと倒れた。
そしてよろよろ起き上がると、
「く、くそお! 覚えていろよライスジャー!! 次は絶対に勝つからな!」
よしよし、今度は変なアドリブは入ってない。
布田、いい演技だ。
コウガイ帝国が舞台袖に引っ込んだので、これでライスジャーの勝利。
「みんな、応援ありがとう!」
ハクマイジャーがちびっこ達に告げる。
舞香、精一杯低い声を作っている。
まあ、それでも女の子の声だよな。
ちびっこ達が疑問を感じる前に、俺がサポートに入った。
「だが、コウガイ帝国はまたやって来るかも知れない! いつでも、俺達を呼んでくれ!」
わーっ!とちびっこ達が盛り上がった。
「ありがとうライスジャー! さあ、みんなでライスジャーにありがとうって言おう!」
「ありがとー!」
「ありがとーらいすじゃー!!」
よしよし。
舞香がチラッとこっちを見た。
「ありがと、クロマイジャー」
「あ、う、うん」
お互い息が上がってるのと、ちょっと照れくさいのとで、ぼそぼそ言葉を交わす。
そして俺達はちびっこに手を振りながら、舞台袖に引っ込んでいくことになる。
ライスジャーショーは終わりなのだ。
……いやあ……疲れた……!!
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