第47話 始まりのヒーローショー

 舞台袖から水戸ちゃんが飛び出していった。

 舞台とは言っても、施設の一番大きな部屋の壁際を借りたものだけど。


「みんなー! こんにちはー!! こんにちはー! はいこんにちはー!」


 いきなりのアドリブ!

 こんにちは連打だ!

 ちびっこ達は一瞬あっけに取られたが、めちゃめちゃ元気のいいお姉さんの登場に、こんにちわー!!と返してくる。

 ちびっこは順応力が高いな。


「はいこんにちは! 今日は何をするか、みんな知ってますかー!」


 マイクを向ける水戸ちゃん。

 ちびっこ達が口々に、


「らいすりゃーひょー!」


「はくまいらー!」


 とか叫んでいる。

 水戸ちゃん、うんうんと頷いてるな。


「当たりー!」


 わーっと歓声をあげるちびっこ達。


「水戸ちゃん、シナリオは大まかにしか把握しなかったけどアドリブが上手いな」


「私の家でシナリオ合宿したもの」


 舞香が聞き捨てならない事を言う。

 それはつまり、舞香の家に水戸ちゃんが泊まった……!?


「春ちゃんも一緒にね。楽しかったよー」


 羨ましい……!

 これが女子同士であることの特権か。


 俺もいつかは舞香の家にお泊りを……と思ったが、清香さんの顔が思い浮かんでスッと冷静になる。

 年頃の男女がお泊りするのを許すタイプじゃないなあの人は。


 おっと、表では水戸ちゃんが場を暖めている間に、いよいよ悪役の出番だ。

 佃が、「俺にいい考えがある」とか言っていたが、どんなアイディアを実行するつもりだろう。


「イナゴーッ! げーっへっへっへ! 生きのいい子どもがいっぱいいるぜー!!」


 ちびっこ達からきゃーっと悲鳴が上がった。

 なんと佃、ホールの後ろの方にあるトイレからの登場だ。

 あいつ、あんなところに潜んでいたのか。


 いきなり後ろから戦闘員が現れたので、ちびっこ達はびっくり。

 逃げ惑おうとする。


 これはいかん、やり過ぎだ。

 段取りを無視して、俺が飛び出した。


「とーう!!」


「えっ」


 えっ、じゃない。

 場を収めるためだぞ!


「くろまいじゃーだー!!」


 おっと、名乗り、名乗り。

 俺は自分が出来うる限り、最大限のキレッキレの動きでポーズを取る。


「栄養満点! 健康の戦士、クロマイジャーッ! 許さんぞ戦闘員! とーう!」


 激しく戦闘員ともみ合う。

 そして囁く。


「そのアドリブはやりすぎだろ。お約束守ろうぜ」


「いやー、意外性が大事かなって」


「ちびっこのほとんどはショーが初めてなんだから、意外性って言ったってびっくりし過ぎてストレスになるかもだろ。ここはこの間見せたショーのビデオどおりがいいの!」


「な、なるほど! 分かった! イナゴーッ!!」


 佃、俺にやられたように、自ら舞台の方に向かって後ろ向きに走っていく。

 そして壁に叩きつけられて転がった。


 わーっと盛り上がるちびっこ達。


 水戸ちゃん、一瞬硬直した。

 あれは頭の中でアドリブを考えているな。


 がんばれ、アドリブ女王水戸ちゃん。

 舞台袖からは、舞香がハラハラしながら覗いている。

 顔出しちゃダメー!


 ここで水戸ちゃん、壁をコンコンっと叩いた。

 あれは、なんか彼女が布田と相談していた秘密のメッセージでは。


 すると、舞台袖から布田が登場する。


「ワーッハッハッハッハー!」


「あーっ、さばくとじばったしょーぐん!!」


 ちびっこが叫ぶ。

 そう、長身の布田が纏った、結構見栄えのするサバクトビバッタ将軍が現れたのだ。

 身長180センチを越える布田のサバクトビバッタ将軍は、2m近くあるだろう。

 でかい。


 あまりの威容に、ちびっこ達が一瞬静まり返った。


「たいへーん! サバクトビバッタ将軍が現れたわ!」


「いかにも! 俺はサバクトビバッタ将軍だー! この可憐で宇宙一可愛い司会のお姉さんはもらっていくぞ!」


「あーれー」


 おいバカップル!

 いや、セリフに布田の本音が出てきているだけで、アクションそのものはとてもシナリオに忠実だ!

 ちなみにこのシナリオ、俺と舞香の合作です。


「おねーさーん!」


 司会のお姉さんが人質に取られ、正気に戻るちびっこ達。


「サバクトビバッタ将軍!! 卑怯だぞ! お姉さんを離せ!」


「がっはっは、クロマイジャー! たった一人で来たようだが、それでは俺は倒せないぞ!! あと二人足りないなあ? 誰が足りないかなあ?」


 すげえぞ布田、いいアドリブだ。

 あ、横で掛布が扮する戦闘員が、布田にこそこそ耳打ちしてる。

 掛布のアイディアか。


「そうだよー! 足りないライスジャーがいるよー! 誰かなー!」


 水戸ちゃんが声を張り上げる。

 ちびっこ達がハッとした。


「はくまいじゃー!!」


「せきはんじゃー!」


「こだいじゃーーー!!」


 すまんな、コダイジャーは用意してないんだ。


「みんなー! もっと大きな声で呼ぼうー!!」


「はくまいじゃー!!」


 ハクマイジャーを呼ぶ声が響く。

 それに応えて、舞台袖から舞香が走り出た。

 そして前方宙返りして、見事な着地。


「白き王道の戦士、ハクマイジャー!!」


 うわーっと盛り上がるちびっこ。

 うわーっと頭を抱える俺。

 ハクマイジャーが真打ちなんだから、先走ったらダメでしょー。

 いや、気持ちはよく分かる!


 続いて、優雅な動きで麦野が現れた。

 派手なアクションとか、とにかく彼女の運動神経では難しいので、優雅キャラで行くことにしたのだ。

 ちょっと動きに恥じらいがあるな?

 名乗りもためらいがあるのか、もじもじしてる。

 だが、ちびっこは待ってはくれないぞ。


「せきはんじゃーだー!」


「せきはんじゃー!!」


 ハッとする麦野。

 そうだ!

 今の君はヒーローなんだ!


「あ、赤き情熱と祝福の戦士! セキハンジャー!!」


 よくやった!!

 やりきった!!

 感動した!!


 俺は思わず拍手しかけた。


「こだいじゃー!!」


 まだ叫ぶちびっこがいるぞ。

 だから用意してないって言うのに。


「とうっ!!」

 

 何ぃーっ!?


 いないはずの戦士の叫びに、俺は思わず振り返った。

 そこには、間違いなくコダイジャーの姿が……!!


 謎の戦士は、登場と同時に駆け出し、バック転して着地した。


「古代米の力を受け継ぐ戦士……コダイジャー!!」


 この声、一竜さん!?

 何してんですかあんた!?

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