第45話 衣装合わせ!

「見たか……」


「見た」


「見た」


「見た」


 男四人、角を突き合わせる。

 昨日の舞香が纏っていたヒーロースーツの話だ。


 体にフィットしたハクマイジャースーツは、彼女によく似合っていた。

 そして、箸が転がっても興奮する俺達思春期の男子には、大変刺激が強いものだった。


 俺としては……俺だけに見せて欲しかったというのが正直なところだが!


 あの後、俺と舞香のグループに、


おこめ『スーツ着たら、並んで写真撮ろうね』


 と舞香から流れてきたので、俺は大変に興奮した。

 全員にスーツの写真が流れたことを、広い心で受け流そう……。


 菩薩の如き笑みをたたえる俺である。

 うーん、特別感。


「米倉舞香、やばいよ……。ただでさえ可愛いのに、自分の体のラインが出た写真とか送るか……? エロい……」


 佃が目を血走らせている。


「佃、もしかして興奮して寝れなかった……?」


「エロい夢を見た……」


「米倉さんの?」


 俺が探りを入れると、佃は頷いた。

 俺はやつに肘を入れておいた。


 舞香を登場させる時は俺に断りを入れなさい……。許さないけどな。


「稲垣、なんで鼻息荒くしてんだ」


「なんでもない」


 すると布田が俺を指差して仲間達に言う。


「こいつ、佃が米倉さんの淫夢を見たって言ったからカチンと来たんだぜ。気持ちはわかる。俺も南海のエッチな夢を見られたらキレて暴れるわ」


「誰も見ねえよ」


「なんだと佃オラァー!!」


「なんだよやるのか布田オラァー!!」


 いつものじゃれ合いが始まったぞ。

 横で掛布が真面目な顔をしている。


「稲垣……。俺は春菜ちゃんのスーツ姿が見たい。絶対エロいから」


「一番のムッツリはお前だったか……」


 俺は自分のことを棚に上げてそう呟くのだった。

 だが喜べ掛布。

 お前の願いは今日かなうぞ。




 夕方。

 俺達は校舎裏口に集まった。

 リムジンが到着し、俺達四人を次々に飲み込んでいく。


 既に、リムジンの中には舞香がいた。

 彼女を挟んで、麦野と水戸ちゃんが座っている。


「やっと来たか男どもー!」


 まるで舞香の取り巻きみたいなムーブをする水戸ちゃん。

 全然彼女の取り巻きでもなんでもない。


 だが、最近舞香とやたら親しくなった水戸ちゃんに、取り巻き達は混乱しているらしい。

 実は舞香の家と取引がある大きな会社の社長の子どもなのでは? とか。


 水戸ちゃんの家は普通の豆腐屋である。

 あ、一応会社の社長の娘と言っていいのか。

 最近は近所のスーパーに豆腐を卸しているらしく、なかなかの人気だとか。


 布田、将来は豆腐屋の店主だな。


「もう衣装は納品されてるの。昨日の舞ちゃん……じゃない、じゃない! 米倉さんの写真見たでしょ」


「舞ちゃん……」


「舞ちゃん……」


「舞ちゃん……」


 俺以外の男三人がハッとした表情になる。

 そして彼らは優しい笑みを浮かべた。


「いいね」


「素晴らしい」


「尊い」


「お前らー!!」


「春ちゃん、いいから。舞ちゃんでいいから。みんな仲間なんだし。ほら続き続き」


「う、うん! おほん! ええと、みんなが着る分のスーツはもういつもの道場にあるから、これを着て衣装合わせ? みたいなのをするね。この情報は外にぜーったいに流さないように」


 麦野の言葉に、みんな頷いた。

 これは秘密なのである。


 特に秘密にする理由はないんだが、あえて言うならば、舞香が特定の男子だけをリムジンに乗せたということになると、彼女を狙う校内の男子が押しかけてくる可能性があるから、とか。

 あるいは取り巻きの女子達が、水戸ちゃんのように乗せてもらうために押しかけてくる、とか。


「唐人ー。あたしの衣装が普通なんだよーう、おろろーん」


 水戸ちゃんが嘘泣きっぽい仕草をしてみせた。

 布田が親指を立てる。


「南海はそのままで世界一可愛いだろ……?」


「唐人!」


「俺のサバクトビバッタ将軍とやらを見てくれ。世界一かっこいい悪役になってやるぜ!」


「かっこいー!」


「くっ、このバカップルどこでもいちゃつきやがる」


「ある意味大声でのろけあうのはハートが強いよな」


 佃と掛布の言葉に、今は全面的に同意である。


 俺も舞香と、往来で特撮の話をできる関係になりたい……!





 と、言うことで。

 スーツに身を包む俺達なのである。


 佃と掛布がすごい。

 黒い全身タイツに、バッタの模様が描かれたものを身にまとい、イナゴマスクを被ると……。

 完全にイナゴ兵だ!


「す、すげえー! なんだこれー! わはは!」


「なんだか勇気が湧いてくるな」


 二人はお互いを撮影しあっている。

 この日に向けて体を作ってきたから、なかなか見栄えがするイナゴ兵だ。


 そしてサバクトビバッタ将軍。


「案外かさばるな、衣装……! あと柔らかいからちょっと不安だ」


 ごてごて鎧を着たサバクトビバッタ将軍だが、大体全部ウレタンでできている。

 そこそこ頑丈らしいが、壊さないように注意せねば。


 俺はと言うと……。


「かっこいい……。ずるいぞ稲垣」


「かっけえ……どうしてお前がヒーローなんだ」


「稲垣、スーツ着た瞬間に動きが変わったぞ」


「うむ」


 俺の身を包むクロマイジャースーツ。

 胸に輝く米のマークと、拳を覆う軍手グローブ。

 漆黒のヘルムを被った瞬間から、俺は米食戦隊ライスジャーのクールなメンバー、クロマイジャーだ。


 おお……身が引き締まる……!!


 だが、男達の衣装はまだ前座なのだ。

 本番はこれから……。



「お待たせー!」


 水戸ちゃんの声が響いた。


「きたーっ!!」


 男達の心が一つになる……!!

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