第30話 ポンコツ会議
案の定というかなんというか、FINEアプリにて麦野からのお呼び出しがあった。
人通りが少ない、職員室昇降口に昼休み。
「おそーい!」
俺が到着すると、振り返った麦野が憤慨した。
腕をぐるぐる振り回している。
あれは何の意味があるアクションなんだろうか。
かわいい。
「遅いも何も、ほぼ同時に教室を出たじゃないか」
「あんたと春菜が一緒に同じ方向行ったら怪しまれるでしょー!!」
「そう言えばそうか……!」
傍目には、教室を出て俺と麦野が同じ方向に歩いていったようにしか見えない。
これはしまった。
今までの人生で、女子との関係を疑われることなんか一度もなかったから、そのへんの気遣いができなかった。
「まあいいわ! なんか、変な噂が立ってるじゃない。これなに。休み時間中、それとなく春菜に聞いてく子ばっかりでうざかったんだけど」
「あー、俺はもう、麦野さんと付き合ってんじゃないかっていっぱい聞かれた」
「どう答えたの?」
麦野の目が光る。
「いや、当然付き合ってないって答えてるよ!」
「よしよし……。変な噂が広まったら、面倒だからね。春菜もあんたみたいなタイプ全然好みじゃないし。春菜が好きなのはねー。好きなのは……うーん、どういうタイプだろう?」
意識したことがなかったらしい。
「麦野さん、今はそれどころじゃないのでは? なんか俺達の関係が広まってしまっているのはまずい。主に米倉さんに悪い」
「あんたやっぱり舞ちゃん狙ってるのね……身の程知らず……ではなくてなんか射程圏に収まってきてる気がするから春菜は警戒してるんだけど!」
「敵意を向けるのは後々! 対策を考えないと!」
「対策……対策……うーん、うーん……うーん?」
あ、いかん。
麦野が目をぐるぐるさせている。
知恵熱が出てるのでは……?
これはどうも、俺達だけではいいアイディアが出てこないような気がする。
ここはFINEアプリを起動して……。
稲穂『助けて芹沢さん!』
これでよし、と。
後でこれを読んだ芹沢さんが打開策を考えてくれるに違いない。
「麦野さん、戻ろう。授業が始まるよ」
俺は彼女に声を掛け、生徒昇降口へと向かおうとした。
そこで、一瞬だけこっちを覗いている人と目が合ってしまった。
流れるような艶のある黒髪。
切れ長の美しい目。
真っ白な肌。
「あっ」
彼女はそう声を上げると、スッと引っ込んだ。
「えっ、米倉さん!?」
「違います!」
明らかに舞香の声で返事があったあと、パタパタと走り去っていく足音がする。
速い……!
昇降口に飛び込んだが、既に彼女の姿は見えなくなっていた。
これは……もしや。
舞香にも勘違いをされた……?
いやいや。
俺と彼女はまだ付き合ってもいない仲ではないか。
一回デートして、彼女の母親に会って、二回家に行ったくらいで……。
思ったよりも仲が進展しているのでは?
「ぐぬぬぬぬ」
俺は呻いた。
厄介事が次々に起こる……!
どうしろというのだー!
懊悩しながら下駄箱に手を掛けたら、中に入れられていた白いものがぱらりと落ちてきた。
これは、便箋?
以前、麦野が使ってたものに似てる。
透かしでRiceとある。
明らかに舞香の家の系列会社が作ってる便箋じゃないか。
そして、そこには達筆な文字でこう書かれていた。
『ヒーローにもピンチになる回はあるものです。そういう時、培った友情が状況を打開します。私は名乗るほどの者ではありませんが、アドバイスをしましょう。米倉舞香に相談するのです』
自作自演ッ!!
そうか、舞香っておしとやかなイメージがあるけど、屋上で変身ポーズしたりヒーローショーであれだけの演技(?)をしたりしていたっけ。
変わり者の素質はあったんだな。
「ううーっ」
唸り声を上げつつ、麦野も昇降口にやって来た。
俺は舞香が残した便箋をポケットに押し込むと、彼女を急かすことにする。
「授業が始まる前に戻ろう。俺が急いで戻るから、麦野さんはギリギリで」
「分かったわ。あー、考えすぎて頭がボーッとするー」
「大丈夫? 保健室行く?」
「うう、そうする……」
本格的に麦野がフラフラしてるので、保健室まで送っていくことになってしまった。
これはもしや、想像以上に彼女は参ってる?
それとも頭を使うことに慣れてないからやっぱり知恵熱だろうか。
保健室のベッドに彼女を送り届けた後、俺は教室に戻った。
……ここで麦野が保健室に行った話を俺がしては、疑惑をさらに深めてしまうのでは……?
ちょっと悩む俺。
麦野が戻ってこないので、周囲の生徒たちがざわつき始めている。
そして、このタイミングでFINEアプリに反応があった。
しゅんぎく『どしたどしたー』
稲穂『ちょっと麦野との仲を疑われてます!あと麦野が保健室行ったんですけどこれを俺が伝えると疑惑が深まります!』
しゅんぎく『脇が甘いぞてめー。いいよ。うちから舞香さんに連絡しとく』
すぐに、舞香が反応した。
スマホを見てる。
そして先生がやって来ると、舞香が挙手して言った。
「麦野さんが体調が悪くて保健室に行っています」
一瞬教室がざわつくが、それだけだった。
よしよし……。
そして舞香が意味ありげに、ちらりと俺を見る。
分かりました。
今日の十分間で報告します……!
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