第22話 最強タッグ!

 舞台を用意する、と一竜さんが言ってたのだが、思った以上に早くその時がやって来た。

 具体的には、翌々日。

 早すぎる……!!


 俺は芹沢さんからのメッセージでそれを知り、大いに驚いた。

 月曜の朝のことだ。


 心ここにあらずという感じで登校し、佃や布田たちの話を上の空で聞き……。

 舞香と目があった。

 また口をむにゅむにゅさせてる。

 何か言いたげだ。


 俺だって何か言いたい。

 いつもならここで終わりだった。

 だが、今日は違った。


 舞香は立ち上がると、俺の方をじっと見た。


 ざわめく舞香の取り巻き達。


「稲垣くん、ちょっといい?」


「えっ」


 まさか彼女から、クラスの中で声をかけられるとは……!

 俺は慌てて立ち上がった。


「な、なに」


「ちょっとだから。みんなはついてこないで。春菜さん、お願い」


「分かったよ米倉さん。みんな、動いたらだめよ」


 舞香が麦野に後を任せて、教室の外に出ていく。

 取り巻き達は呆然としている。


「稲垣、お、お前一体何を……」


「稲垣が消される……!」


 うるさいぞ佃、布田!!


 ってことで、ホームルーム直前で呼び出された俺。

 そこは階段の踊り場だ。


 舞香が腕組みをして俺を見ている。


「何か言うことはない、稲垣くん」


「言うこと……?」


「私に、隠していること! えっと、それはもちろん、私と稲垣くんはまだそういう関係じゃないし、お互い知らないことがあるのは当たり前なんだけど、それでも! 私に隠していることあるでしょ!」


「あ、あー、あーあー」


 思い至った。

 どうやら舞香も、俺が彼女の母親である清香さんに直談判するというのを知ったらしい。

 それで外聞もなにもなく、俺に接触してきたんだ。


「米倉さんが、自由に特撮を楽しめるようにするからさ」


「なっ、なんで?」


 舞香がなんとも言えぬ顔になる。

 これは怒ってるのか、困ってるのか、嬉しいのか。


「だって米倉さん、ヒーローショー見ててすごく楽しそうだったじゃん。変身ポーズだってすぐにコダイジャーのを覚えてて! 完璧だった……」


「うん。番組録画してたから何回も見ながらポーズを確認したの……。って、そうじゃなくて!」


 ああ、今の表情は分かる。

 嬉しさが半分、困惑が半分。


「私があの時楽しそうだったから、稲垣くんは私のことを助けようと思っているの? それだけで?」


「それだけじゃなくて、それだけあれば助けたくなるのは当たり前だろ」


「むぅ……」


 舞香が黙った。

 ショートホームルーム開始の予鈴が鳴る。

 もう時間がない。


「米倉さん、もう時間が!」


「あ、うん! いい? 稲垣くん。私もその場に立ち会うから」


「え?」


「あなたばっかりに全部任せてたら、まるでお話に出てくるゲストの人じゃない。私は、ゲストのままでいたくないの!」


 眉を怒らせて、舞香はそう言った。

 そして早足に俺を追い越していく。


「そう言えば、ハクマイジャーが好きだったもんな。納得」


 ……ということで、ざわめく教室に戻って本日の授業に臨む。

 みんなからの質問には答えないぞ。

 だって、これは俺と舞香の秘密だからな。




 あっという間に訪れた放課後。

 なんと、俺は舞香の車に乗せられることになってしまった。


 俺を緊張の面持ちで迎えるのは、護衛兼運転手の、芹沢さんの後輩。

 ポニーテールで気が強そうな顔をした、長身の女性だった。


「お嬢様、いいのですか?」


「いいんです!」


 舞香からの返事が強い語調だったので、面食らったらしい。


「そ、そう仰るなら」


 後輩さんは俺達を乗せて、車を走らせた。


 リムジンの中は広い。

 これでも、舞香の送り迎え用の一番コンパクトなものだと言うんだけど、とても信じられない。


 座席は二人並んで座っても、さらに二人は座れそうだ。

 そして差し向かいに麦野が座って、こっちを睨んでいる。


「いつもなら春菜が舞ちゃんの隣なのに……。むぎぎ……にっくき稲垣」


 おお……。


「……ねえ、稲垣くん。勝負するからには絶対に勝つけど。私、その、お母様に逆らうの初めてなので……色々とわからないことがあるので……」


「初めて!?」


 舞香は緊張した面持ちで頷く。


「諦めてたんだけど、でも稲垣くん、気付いたらどんどん話を先に進めて行っていて、私もいつまでもこのままじゃダメだって思ったの。だから、ここで私もお話のゲストじゃなくて、主役になってみようって」


「ハクマイジャーになるんだね」


「ううん。リーダーは君だよ、稲垣くん。まだまだ、私はセンターポジションになれないや」


 舞香が笑った。

 この笑顔は久々な気がする。

 それに、このちょっと濃い会話。


 麦野がついてこれなくて、首を傾げている。


「それでね。今日は授業の最中に考えてたんだけど、この戦いが終わったら、私はやりたいことがあって……」


「フラグ!! 米倉さんそれフラグだよ!」


「あっ、いけない」


 うおっ、凄い破壊力のテヘペロが来た……!


 麦野がめちゃくちゃ歯ぎしりしてる。


 しかし、このタイミングで舞香に直談判の話を伝えたのは誰だろう。

 舞香だって、どうしようかめちゃめちゃ悩んだだろうしな。

 それで、彼女と俺の共闘みたいな形になったのは意外だったけど……。


 まさか、一竜さんが仕組んでる?

 まさかあ……。


「じゃあ、勝ったら話すね! ぜったい、ぜったいにこれは稲垣くんとやりたいって思ったことだから。ぜったいに付き合ってもらうんだから」


 付き合う、という言葉が出てきてドキッとする。

 いやいや、落ち着け俺よ。

 そういう意味の付き合う、じゃない。


「勝つって、なるほど、そう思うとこれって幹部との戦いのイベントみたいな?」


「うん! 試練があって、それから仲間同士の絆を再確認して……手を取り合って幹部との戦いに挑むの! 燃えるよね……!」


「分かっていらっしゃる。敵の裏切り者の手引きを受けて、俺達はついに強力な幹部の清香さんとのバトルに挑む!」


「ふふふ、その裏切り者って兄さんのこと? あはは、ぴったり!」


 すっかり緊張がほぐれてしまった。

 さあ、車は一直線に米倉邸へ。


 いざ、決戦なのだ。

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