第15話 憧れの的?

「お、おねえちゃん!」


 戻ってきた舞香の腕を、隣りにいた男の子が掴んだ。


「どうしたの?」


「おねえちゃん、ぼくのかわりに……! ぼ、ぼくもライスジャーみたいにつよくなるの!」


「そっかー……!! 強くなろうね……!」


 舞香と男の子、何やら通じ合っている。

 微笑ましい。

 男の子のお母さんらしき人もニコニコしている。


 さあ、ショーもいよいよクライマックスだ。

 全てのイナゴ兵はやられ、ついにサバクトビバッタ将軍との決戦。


 本当ならコウガイ帝国の怪人が出てきて戦うんだけど、これはヒーローショーだからね。


『おのれライスジャー!! だがここでお前たちも最後だ!』


『何の! 年貢の納め時はお前だサバクトビバッタ将軍!』


 お米だけに年貢の納め時と掛けてるのか。上手いなあ。


「がんばって、ライスジャー!」


「ライスジャーがんばえー!!」


 回りの子どもたちの声に、舞香のものが混じっている。

 夢中になってライスジャーを応援しているようだ。


 俺はヒーローショーにスマホを向けると、何枚か撮影した。

 私的な利用だけなら撮影が許可されているのだ。


 回りのカメラを持ったおじさんたちも同じ感じだ。

 この人達のブログを、俺はチェックしてたりする。

 今度舞香にも教えてあげよう。


 会場にライスジャーのバトルBGMがかかる。

 決めるつもりだな?


 舞台袖から、セキハンジャーが全員分の武器を持ってくる。

 それぞれ、シャモジブレード、ジャーバズーカ、チャワンシールドだ。

 これを合体させて……!


『完成! ライスジャーキャノン!!』


 ほぼジャーバズーカ。

 シャモジブレードとチャワンシールドは上と下にくっついてるだけ。


 だが、ちびっこたちはうわーっと大歓声だ。


 サバクトビバッタ将軍が焦る。


『く、くそーっ!』


 ここで解説のお姉さんが声を張り上げた。


『さあ! みんなでサバクトビバッタ将軍をやっつけよう!! ライスジャーの決め技をみんなで言うよー! みんな、技の名前はわかるー?』


「おこめだいなみっく!」


「おこめだいなみっくー!!」


 ばらばらとちびっこたちの叫び声が響く。


『そうだね! じゃあ、お姉さんがせーのって言ったら、みんなで声を合わせて言おう! お米ダイナミックって! いっくよー! せーのっ!!』


「お米ダイナミックーっ!!」


 会場中に響き渡る技の名前。

 同時に、ライスジャーキャノンが発射された音とエフェクト。


『うおおおーっ!! やられたーっ! おのれ、おのれライスジャー!! こ、このお返しは次回のテレビ放送でやってやるーっ!!』


 サバクトビバッタ将軍はそう叫ぶと、くるくる回りながら舞台袖に引っ込んでいった。


『ライスジャーの勝利だよー!!』


「やったー!!」


「ライスジャー勝ったー!!」


「サバクトビバッタ将軍やっつけたー!!」


 うわーっと盛り上がるちびっこ。

 そして、


「勝ったー!!」


 盛り上がる舞香。

 こうして、盛況のうちにヒーローショーは終わったのだった。


 そしてショーの後には……。


 ライスジャーとの握手会。

 ライスジャーのサイン会。

 そしてライスジャーとの撮影会だ!


 当然全部やる舞香。


 憧れのハクマイジャーと並び、とてもいい笑顔の舞香。

 隣にやっぱり笑顔の俺。

 専門の撮影の人がこれをパシャリとやり、俺達はいい思い出を得た。


 後日、プリントアウトされたものが送られてくるらしい。

 それなりに良いお値段だったので、きっと画像ソフトできれいに編集してくれるんだろう。


「稲垣くん、うちは送ってもらっても直接受け取れないから……」


「うん、俺の家で受け取って米倉さんに渡すよ」


「ありがとう……!!」


 舞香がギュッと俺の手を握った。

 そして、ハッとして手を離し、


「あ、手汗凄い。ご、ごめんね稲垣くん。べたっとしてたでしょ」


「いや、俺も手汗結構なもんだから」


 俺はフォローにならないフォローの言葉を入れた。


「楽しんでもらえたかな」


「うん、最高だった……。本当に、今まで生きてた中で一番楽しかった……」


 ちょっと大げさでは?

 舞香が目を潤ませている。


「そんなに喜んでもらえて嬉しいよ。えっと、その、また誘ってもいい……?」


「もちろん! 絶対に誘って!!」


 今度は力強いお言葉。


 そして、俺と舞香は二人きりにさせてはもらえなかった。

 帰っていくちびっこたちが、舞香に声をかけたり、手を振ったりするのだ。


 人質になっても、毅然としていた舞香だからな。

 印象に残ったのかも知れない。


 最後に、隣りにいた男の子がバイバイしてきた。


「バイバイおねえちゃん! ぼく、つぎはハクマイジャーになってるから!」


「うん、楽しみにしてるよ! お姉ちゃんもハクマイジャーになるからね!」


「いっしょにだー!」


 男の子のハクマイジャー宣言に負けない舞香。

 こだわりがある。


 ちなみに男の子、お母さんに、「ハクマイジャーになりたいなら、人参食べられるようにならないとねー」とか言われ、「うえー」と嫌そうな顔をしていた。





 そして、お別れの時間。

 まだまだ日は高いけれど、米倉舞香が自由にできる時間は少ないのだ。


 私服の芹沢さんがいつの間にかいて、


「ありがとう、稲穂くん。こんなに楽しそうな舞香さん初めてだよ」


 なんてお礼を言う。


「じゃあ、行きましょうお嬢様。みんな必死に探してますよ。私がごまかすの手伝いますから」


「ええ、ありがとう芹沢さん。じゃあね、稲垣くん! 写真、取っておいてね! それからブレスありがとう! あと、ヒーローショー楽しかった! また絶対誘ってね! 絶対だよ!」


 子どもみたいに、ボルテージが高くなっていく。

 俺も胸がいっぱいになって、手をブンブンと振った。


 うーん!

 今日は濃かった。

 凄い一日になった……!!


 俺と舞香の初デートは、こうして幕を閉じたのだった。


 

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