クラス一の美少女が、屋上で変身ポーズしてた。 特撮オタクな彼女と俺の、秘密な関係

第14話 米倉舞香、人質になります！

『みんなー！　こーんにーちはー！！』

　来た！

　ヒーローショー恒例、解説のお姉さんだ！

　子どもたちが元気よく、こーんにーちーはー！と返す。

　カメラを持ったおじさんたちも、こーんにちはー！と返す。

　舞香も元気に、こーんにーちはー！と返した。

　大変乗りがいい。　

　もちろん、俺も返した。

『それじゃあみんなで呼んでみよう！　せーので、ライスジャーって声を合わせるの。いい？』

　はーいっ、とよいお返事が会場から。

『せーのっ』

『うわははははは！！　ライスジャーなど呼ばせるかー！！』

　突然、おどろおどろしいBGMとともに、舞台袖からバッタの仮面を被った戦闘員たちが飛び出してくる。

「イナゴ兵だよ！！」

　舞香が鼻息を荒くする。

　たとえ、作中では一介のヤラレ役に過ぎない戦闘員だとしても、目の前でこうして見ると臨場感が違う。

　舞香は感動していた。

　そしてイナゴ兵に続いて現れたのは……。

『この会場はー！　我らコウガイ帝国が占領したーっ！！　全ての作物を、食い尽くせーっ！！』

「サバクトビバッタ将軍だよ！　稲垣くんどうしよう！　サバクトビバッタ将軍が出てきたよ……！」

「うん、すごいねっ！！」

　感動のあまり涙ぐむ舞香に、力強く同意する俺。

　ここは変に解説を入れるよりも、舞香が自分の感じるままにヒーローショーを楽しんでもらうのがいい。

　彼女は何度もうなずきながら、ステージから目を離せない。

『きゃーっ、コウガイ帝国よー！　大変！　サバクトビバッタ将軍、ここにいるみんなは関係ないわ！　みんなに手を出さないでー！』

　解説のお姉さん、それはフラグだっ。

『うわははははは！　そうは行くか！　いつもライスジャーどもにやられて来ているからな！　ここで子どもたちを人質にして、ライスジャーをやっつけてやるのだ！　行けい、イナゴ兵ども！！　子どもたちを連れてくるのだ！』

　きゃーっと子どもたちから悲鳴が上がる。

　客席にイナゴ兵がやって来たのだ。

「ひゃあー」

　舞香の隣に座っている男の子は、本気でびびってガタガタしている。

　そこにイナゴ兵が目をつけた。

『イナゴー！』

　イナゴ兵の手が伸びる……！

　ちなみに、人質になるお子さんについては、あらかじめ保護者の方に許可をもらっているのだ。

　そもそも、ショーの前にそういう説明があったりする。

　最近はその辺りうるさいからね。

　だが、今回は想定外のことが起きた。

「待ちなさい！」

　毅然とした声が響き渡る。

　俺は驚いて隣を見た。

　舞香だ。

　米倉舞香が、イナゴ兵の前に立ちふさがっていた。

「その子を連れて行くなら、私を人質にしなさい！」

『イナゴー！？』

　戸惑うイナゴ兵。

　そりゃ戸惑うよな。

　予定外の出来事だもん。

　お姉さんが、ちらっと俺を見てきた。　

　サバクトビバッタ将軍も俺を伺っている。

　俺、力強くうなずく。

　お姉さんとサバクトビバッタ将軍もうなずき返した。

『そこのかわいいお嬢さんを連れてこい！』

『イナゴー！』

「おねえちゃーん！」

　舞香に救われた男の子の悲痛な叫びが響く。

　そんな彼に、米倉舞香は気丈に微笑んだ。

「大丈夫だよ……！　お姉ちゃんのことは、きっとライスジャーが助けてくれるから……！」

「ライスジャーが！！」

「だからみんな、ライスジャーを呼んでーっ！！」

　舞香の叫びは、この場に集ったちびっこたちの胸を打つ。

「そうだ、ライスジャーだ！」

「あのおねえちゃん、へんしんのおねえちゃんだ！　へんしんのおねえちゃんをたすけるんだ！　ライスジャー！」

「おねがい、ライスジャー！」

　ここで、ちょっと唖然としてた解説のお姉さんが気を取り直した。

『大変だよ！　お姉ちゃんが捕まっちゃった！　お姉ちゃんを助けるには、みんなで声を合わせてライスジャーを呼ばないといけないよ！』

『うわははははは！　無駄無駄！　ライスジャーなど来るものかー！！　それ、人質がきたぞ！　お前、名はなんという！』

「米倉舞香です！」

　マイクが彼女の声を拾って大きくしてるけど、これはもしかしてまずいのでは？

『米倉舞香か！　うわはははは！　いい人質ができたわい！　これで会場は我らコウガイ帝国のものだーっ！』

『みんなー！　ライスジャーを呼ぼう！　呼んでお姉さんを助けよう！！　せーので、叫ぶんだよ！　せーのっ！』

『ライスジャー！！』

　会場のちびっこと、舞香の心が一つになった。

　汚れなき叫びに応えて、今正義のヒーロー戦隊が降臨する。

　お馴染みのBGMが鳴り響いた。

　これは、米食戦隊ライスジャーオープニングテーマ、『Bay・Shock！　ライスジャー』だ！

『待て、サバクトビバッタ将軍！』

　明らかに役者の声とは違うけど、それっぽく似せた声が響く！

　舞台の袖から、白、赤、黒の三人が飛び出してきた。

『とう！』『とう！』『とう！』

「ライスジャー！！」

「ライスジャーきたー！！」

　ちびっこたちの盛り上がりは最高潮。

　舞香、涙ぐんですらいる。

「ライスジャーだぁー！」

『げげえっ、お前たちはー！！』

　驚くサバクトビバッタ将軍。

　その目の前で、三人の戦士はポーズを決める。

『赤き情熱と祝福の戦士、セキハンジャー！』

『栄養満点、健康の戦士、クロマイジャー！』

『白き王道の戦士、ハクマイジャー！！』

『三人揃って、米食戦隊ライスジャー！！』

『わあああああ！！』

　ちびっこたちがスタンディングオベーションした。

　俺も、カメラを持ったおじさんたちも立ち上がり、盛り上がる。

　今、この場の心は一つになった。

『ラ、ライスジャー！！　どうしてここに！！』

『正義を願う声が俺達を呼んだんだ！！　サバクトビバッタ将軍！　作物はみんなのご飯！　お前たちだけが食べ尽くしていいものじゃない！！　みんなの食卓、返してもらうぞ！』

『おのれーっ！　イナゴ兵、やれ、やってしまえーっ！！』

『イナゴーっ！！』

　おお、殺陣が始まった！

　舞香が目をキラキラとさせて、殺陣を見つめている。

　足がうずうず動いているから、あれは自分でも殺陣をやってみたくなっているのではないだろうか。

　そしてイナゴ兵を倒しながら、白米ジャーが駆け寄ってきた。

『大丈夫だったかい、米倉舞香さん！』

「はいっ！！」

　舞香、すごくいい笑顔だ。

『もう安心だ。俺達が来たからね！　サバクトビバッタ将軍は俺達に任せるんだ！　君は安全なところに避難してくれ！』

「はいっ！」

　ここで解説のお姉さんが、戻ってもいいよー、と俺の方を指差した。

　俺が手を振る。

　興奮で顔を真っ赤にして、両目も潤んで真っ赤になった舞香が戻ってきた。

「あぁぁぁぁ、生きててよかった……」

　めちゃめちゃに喜んでくれたみたいで、俺も嬉しい。