第13話 ヒーローショーまであと少し

 非常階段側は危ないかな、と思った。

 なので俺が選んだのは大階段。

 舞香と二人で駆け下りる。


 おもちゃ売り場は五階だから、降りて、折り返して降りて、と八回繰り返す。


「あっ、お嬢様!?」


「やべえ、追っ手がいた!」


 大階段にも手が回ってたか!


「お願い、追わないでー! 私は無事だからー!」


 舞香が一声掛ける。

 そんな彼女の手を取って、横合いにある小さな出入り口を抜ける。


 電気量販店は出口が多かったりするから便利だ!


「お嬢様ー! 連絡! 舞香さんを発見! ここは何番の出口だ? ええと、三番の車道側出口! 同じくらいの年頃の少年が手を取って……」


 本格的になってきたぞ……!


「ああ、もう……集まってきちゃった……! 稲垣くん、これはもう……」


「いや、大丈夫! 俺に任せて!」


 言い切る。

 もちろんノープラン。

 でも、追っ手を撒く方法なんかいくらもないだろう。


 あれは……四年前の作品、スシレンジャーで見た……。


「ここだ!」


 若者向けの洋服店に飛び込む。

 電気量販店が入っているビルの一階に展開されているお店だ。

 つまり、俺達は同じビルに入ったわけだ。


「稲垣くん!?」


「まさか俺達が同じ建物に戻ってくるとは思わないだろ? 思わないんじゃないかな……?」


「それは、そうかも。それから、こういうシチュエーション、私も知ってる」


 舞香がふふふ、と笑った。

 君も思い出したか。


「じゃあ、お互いに服を選んで……」


「待って稲垣くん。私にいい考えがあるの」


 おっと舞香、そのセリフはフラグっぽいけど。


「あのね、私が君の、君が私の服を選んで、それを着るっていうルールはどう?」


「な……なんだってーっ!?」


 とんでもないことになった。

 俺にも異論はない。


 ということで……俺達はあまり高くない上着なんかを手にとって、お互いに合わせてみる。


「ちょっと暑いかも?」


「薄手ので行こう! 舞香さんには、帽子とスタジャンとかどう? これ、野球のやつだから球団とか合わせて……」


「────!」


 あれ? 舞香が止まってる。


「どうしたの?」


「う……ううん、なんでもない。そうだね、これなら全然イメージ変わるかも。髪に帽子の跡がついちゃうなー」


「あ、じゃあ帽子やめる?」


「ううん! せっかくだから被っちゃう! こういうキャップみたいなの、被ったことないんだ」


 帽子は黒、スタジャンはクリーム色と黒。

 身につけてくるりと回る舞香は、さっきまでお嬢様だったのに、すっかり活発な女の子になっている。


「どう?」


「かっこいい!」


「うふふ。じゃあね、稲垣くんにはこれ!」


「あ、赤いベスト!!」


「私を引っ張ってくれる君は、このイベントのリーダーだよ。リーダーなら……」


「赤!」


 俺と舞香の声が合わさった。

 二人で顔を見合わせて笑う。


 お値段も、舞香にプレゼントしたライスジャーブレスより安い。

 これでお小遣いはあまりなくなってしまうが、仕方ない。


 全て、彼女にヒーローショーを見せるためだ!


「これ、ください!」


 というわけで……俺達の着替えが終了した。

 赤いベストに、球団の柄入りスタジャンなんてとっても目立つ。


 だがそれだけに、さっきまでの俺達とは全然イメージが変わってしまう。

 すぐに見つけることは難しくなるだろう。


「行こう! ヒーローショーの時間が迫ってる!」


「うん!」


 俺の手に、舞香の手が絡んだ。


「ひゃっ、米倉さんなにを」


「え、演技だよ演技。カップルっぽく見せておいた方が分からないでしょ」


「な、なるほど」


「ふ、ふふーん」


 お互い目を合わせられない感じで、俺達は店の外に。

 すぐ横を、スーツ姿の男の人達が走っていった。

 舞香がちょっと緊張して、俺の手を強く引き寄せる。


 追っ手かー!

 だけど、彼らは俺達に気付かずに通り過ぎてしまう。


 ちょっと服装が変わるだけで案外分からないものなんだな。


 もともとの服をコインロッカーに預けて、俺達は一路東遊デパートへ!

 入り口前の広場で、いよいよヒーローショーが始まるのだ!


 ここでFINEを使い、芹沢さんに連絡。


稲穂『無事ヒーローショーに到着』


 返事はすぐには来ない。

 FINEを閉じてスマホをポケットにしまおうとした。


「稲垣くん、その待ち受け……チャリンジャーの暗黒騎士ヒルクライム?」


「お気づきになりましたか……」


 ほんの一瞬で、俺が使っている待ち受け画面を見抜いた舞香に感服する。

 チャリンジャーは、ライスジャーの前にやっていた戦隊。

 自転車をテーマにした作品で、敵は全てのロードを自らの手で均し、世界を手中に収めようとするアスファルタス騎士団。


 暗黒騎士ヒルクライムは、途中で現れたライバルキャラなのだが、実は彼は六人目の戦士で……。


「私、スマホがお母様にチェックされてるからそういう待ち受けが使えないんだよね」


「それはなんとも……」


 舞香の悲しみをたたえた目に同情する。


「ちなみに、スマホはロッカーに置いてきたよ。あれGPS入ってるから」


「だから居場所がつきとめられたのかー」


「うん、階段下ってて気付いたの。ごめんね。でも、これでしばらくは邪魔されないと思う」


 今や、追っ手は舞香の居場所も分からない。

 姿かたちだって変わってしまっているから、すぐには見つけられないだろう。


 後はショーの開始を待つばかり。


 舞香は物珍しそうに、キョロキョロとしている。

 ショーはイベントスペースである広場で行われる。

 今日は即席で、たくさんのパイプ椅子が用意されている。


 あちこちに、ライスジャーショーを楽しみにしている子どもたち。

 それからカメラを持った大人の人たちもいる。


「私達以外にも、大人もショーを見るんだね」


「うん。特撮は大人も子どもも楽しめるものになってるからね。みんな趣味として楽しんでるんだ」


「いいなあ」


「米倉さんもできるよ。一緒に楽しもう」


「うん!」


 ちらりとスマホで時間を確認する。

 舞香も腕時計を確認した。


 時間だ。


 いよいよ始まる……!


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