足を失った俺は殺人鬼とVRMMOで旅をする

木島ゆずる

第5話 毒消し草の使い方

 アイテムの調達を済ませた後、俺たちはまたマルコの町の西にある草原へと戻ってきた。

 まずはここでモンスターを倒し、ユージのレベルを少し上げ、その後に草原の奥の方へと進んでいき、またそこでアイテムの採取やレベル上げをする予定だ。


「じゃあリョウ、そっちはよろしくな」


「ご主人様、いってきます~!」


「ああ、いってらっしゃい」


 ただモンスター討伐に行くのは俺以外の二人の仕事である。残った俺はここらで採れる食材にできるアイテムを見つけて採取するのが仕事だ。

 俺が採取に回された理由はもちろん戦えないというのが一つの大きな理由だが、もう一つこちらも大きな理由があった。


「よしじゃあ……『食材分析』」


 このスキルはサブタレントの料理人のおかげで覚えられたスキルだ。

 効果は、野草やキノコに毒があるものか、ちゃんと食べられるものなのかを判別して、ウィンドウで説明まで出してくれる、というものなのだが、視界内かつ一定距離圏内に入っているオブジェクトに食べられるものがあれば、それも教えてくれるので、サバイバル生活にはとても便利なスキルになっている。


「別にサバイバルやってるわけじゃないけどな」と、独り言ちながらも食べられそうなものを探していくと、意外にも豊富な野草類が見つかる。


「ヨモギ、オオバコ……ノビルなんてのもあるのか」


 それぞれ葉を採ったり、根から掘り起こしたりして、回収しておく。野草はあるのではないのかと思っていたのだが、まさかこんなに細かく種類が分けてあるとは思いもしなかった。さすが今一番人気のVRゲームだ。


 夢中になって野草集めをしていたが、レベルアップ音がして今はレベル上げが本当の目的だったことを思い出す。

 どうやら俺のレベルが一つ上がったようだ。三レベルから四レベルに上がるまであの二人はモンスター狩りをしていてくれたようなので、そろそろユージのレベルも三になるくらいではないだろうか。

 なので、野草採りはここまでにして、二人の所へ合流しに行く。


「あっご主人様! お野菜採れました?」


 俺が戻ってきて最初にかかってくる言葉がそれとは、ルルはかなり食い意地が張っているな。


「大丈夫、採れたよ」


「じゃあご飯にしますか?」


 ルルはあまりにも俺の作るご飯が楽しみだったようで、早速キラキラした顔でご飯を作ることを要求してくる。

 さすがにまだ野草しか採れてないから、と言おうとしたが、その前にユージがルルのおねだりを止めた。


「ルルちゃん、まだ今日のメインの食材を採ってないよ」


「えっメインの食材ですか?」


 それは俺も完全に初耳だ。一体何のことを言っているのだろうか?


「実は次に行く狩場にはな、少しレアだが羊のモンスターが出るんだ」


「なるほど、マトンが手に入るのか」


「そう正解! マトン肉がドロップ品として手に入るからそれでメシを作ってほしい」


 なるほど、この次の狩場に丁度いい食材になるモンスターがいたのか、それならば納得だ。

 肉だと聞いてルルも喜んでいるし、昼頃食べたステーキとも差別化できる。ちょうどいい品物だ。

 

「よしじゃあ早速羊狩りに行くか! 次はサポートやるよ」


 そう言ながら、レベルが上がった分のボーナスポイントとスキルポイントを振り分けておく、今回はステータスはDEXに振り、スキルは『サモン・アタック』のレベルを2にすることにした。これで多少まともなサポートになるだろう。

 

 ユージもレベルが上がった分のポイントをステータス、スキルに振り終わったようで、お互いにウィンドウをしまったのを確認してから歩きだす。


 今いる場所は港町マルコの西側から出て、すぐの場所だ。次の目的地はそこから真っすぐ進んだところだ。

 しばらく歩いていると、徐々に木が多くなっていき、視界が悪くなっていく、それと同時に段々と出現するモンスターの種類が変わり始めた。


「ここで出てくるモンスターは基本蜂とキノコなのか」


 出てくるようになったモンスターは大きな蜂の方はワスプ、歩き周るキノコの方はマタンゴという名前が付いていた。いかにも毒を持っていそうな見た目をしているので、ユージに聞いてみれば、やはり毒持ちらしい。


「一応俺が多めに毒消しポーション買ってきているから少し渡しておく」


 ユージはここに来るために先に毒消しポーションを買ってきてくれていたようで、こちらに三本の毒消しを渡してくれた。

 

「ああ、ありがとう。この毒消しはルルが持っておいてくれ」


 俺は後衛で前に出ないため、ワスプの毒針に当たることも無ければ、マタンゴが自分の周りに撒くキノコの胞子を吸ってしまうこともほぼ無いだろうと思い、貰った毒消しを全てルルへと渡す。

 

「ユージ、そういえばまだ羊のモンスターは見てないんだが」


 出現するモンスターが変わったのはいいのだが、一番目当てのモンスターが出てきてない。


「ああ、その羊のモンスター、マルコシープって名前なんだが、アイツは中々のレアモンスターでな。まぁモンスター狩っているうちに出るだろ」


「そんなにレアなのか、じゃあ少し時間がかかりそうだな」


「そうなんだが、そのマルコシープのことで一つ気を付けておいてほしいことがある」


「気を付けておくこと? 何か強力な状態異常攻撃があるとか?」


「いや、そうじゃない。マルコシープはな、レアで出現率も低い上に全身が良質な素材なんだ。毛皮は服に、ツノは武器や装飾品にできて、しかも肉はうまい。初心者が手っ取り早く手に入れられる中で最も良い肉でもある」


 何の話なのかピンと来ない。商品価値が落ちるからツノに傷をつけるな、とかそういう類いの話なのだろうか。


「つまりだな。俺たちの他に狙っている奴もいるんだ。ただマルコシープを横取りしてくるならまだしも、こちらを攻撃してくるプレイヤーキラーの奴らまでいる」


「なるほど、そういう輩もいるから気を付けろと、じゃあここではあまり離れないほうがいいな」


「そういうこと、ここからは全員行動で行くぞ」


 ユージの言葉にルルと揃って頷く、もしかすると対人戦があるかもしれないと思うと、少し緊張するなと思いながらルルの様子を見てみると、どこか嬉しそうで今にも飛び出して行ってしまいそうな雰囲気がある。そんなにマトン肉が楽しみなのだろうか。

 少し子供っぽく可愛らしいルルに一人で勝手に癒されていると、ユージが木々の間を飛んでいたワスプを指さして言った。


「じゃあ、まずはワスプと戦ってみますか」






 結果から言うと、ワスプとマタンゴとの戦闘に関しては全く問題が無かった。

 ルルに『サモン・アタック』と『サモン・ディフェンス』をかければルルとユージがバッタバッタとモンスターをなぎ倒していく。

 ダメージを受ければ『サモン・ヒール』を使ってルルの回復をするつもりでいたのだが、全くその機会は無かった。

 ルルが受けるダメージと言えばマタンゴが出す毒胞子での毒状態ダメージだけだ。それは毒消しポーションで回復するので、本当に出る幕が無い。

 

 と、言うわけで俺はルルへのバフだけしっかりかけるようにし、戦闘している場所の近くで再び素材集めに勤しんでいた。

 採集をしていてここら辺りで最も有用そうだったアイテムは、小さめの草で食用にでき、単純に食べれば毒が治るのだが、一つ大問題があった。


「うえっ本当に苦い……」


 食材分析をしたので知ってはいたのだが、興味本位と我慢できる程度のものか試してみたくなり口に入れれば、キツい苦味が味覚を襲って来る。

 これはさすがに毒を治すためとは言え使う気になれない。なので、先ほど倒したワスプからドロップしたアイテムを使って、苦いモノが大好きな人専用のアイテムから、誰にでもどうにか使えるモノへとランクアップさせよう。

 ただの思いつきでの行動なので成功するかはわからないが、毒消しポーションも数に限りがあるし、できれば御の字だろう。


「ユージ、少しの間一人で狩り頼んでもいいか?」


「ああ、いいけどどうしたんだ?」


「ちょっと作りたいものがあるからルルに護衛と手伝いしてもらおうと思って」


 そう言いルルを連れて行き、水を使う必要があったので、近くを流れていた小川の方へと向かう。

 その道中に使えそうな大きめで一応食用にできる木の葉を採り、ルルに小川で洗って来るように頼んだ。ルルが葉を洗っている間に俺は拾っておいた毒消し草をナイフで刻んでおき、鍋に入れ、マジックコンロを取り出して火をつける。

 このマジックコンロ、マジックと一々名前についているだけあって、ガスではなく、魔力で火が付いているという設定だそうだ。

 これが現実にあれば便利だな~などと無駄なことを考えながら、今回の主役であるワスプからのドロップアイテム、蜂蜜を取り出す。

 これに刻んだ毒消し草を混ぜて鍋で温める。ナイフを使って鍋の中身を混ぜている内に木の葉を洗ってきてくれたルルが戻ってくる。


「ご主人様、木の葉っぱ洗ってきましたよ。これで何を作るんですか?」


「毒消しの効果のある蜂蜜飴が作れたらいいな~って思ってね」


 そう言い、受け取った木の葉を巾着のような形にして持ち、ルルに鍋の中身を少しだけ慎重に入れてもらう。そして、そこら辺りにあるの木に巻き付いている蔦を使って頭を縛り、これを鍋の中身が無くなるまで続けた。

 あとは、鍋を綺麗に洗いその中に巾着状にした木の葉を並べ、小川に浸けて冷やした。


 そして、数分後。


「よし、食べられるくらいには冷えたな」

 

 小川の水が冷たかったお陰だろうか、意外と早く飴が食べられるくらいまで冷めた。

 早速、巾着を二つ持ち、その中から飴を取り出す。少し葉に引っ付いてしまったが、まぁ許容範囲内だろう。


「はいルル、一個食べてみて」


 ルルに一つ飴を手渡しながら、自分も飴を口に咥える。

 蜂蜜がしっかりと甘いので、毒消し草の苦味を覆い隠してくれている。ちょっと感じる苦味も丁度いいくらいかもしれない。


「蜂蜜飴おいしいですね~」


 ルルも甘いものを食べられて満足そうなので作ってみてよかった。

 アイテムの説明文を見ればきっちりと毒消しの効果もあるようなので、これなら実用的だろう。


「飴もできたし、ユージのところに戻ろうか」


「はい!」


 飴を入れた鍋をそのまま持ち、ユージの元へと向かう。もう少し、冷えて乾燥したほうが、飴として食べやすそうだったので、しばらくは鍋を持って歩くつもりだ。

 少し時間はかかったが、ユージはさっきまでとそこまで離れていない場所でワスプと戦っていた。

 危なげなく倒しきったのを確認してから、近づく。


「ユージ、作りたいものうまくいったよ。毒消し草入りの蜂蜜飴だ。一個食べてみてくれ」


 そう言いながら、ユージに蜂蜜飴を一つ手渡すと、「ありがとう」と受け取り食べる。


「ちゃんと毒消し草のあの苦味が覆い隠されてるな。これなら緊急時以外は使いやすいし、甘いから気分転換にもなる。いいなこれ」


「これで毒消しポーションの消費抑えられそうか?」


「ああ、俺もお前もレベル上がっているし、そろそろ毒消しポーションの数が減ってきたから、町に戻ろうと思ってたんだが、これならまだいけるな」


 蜂蜜飴を作ることに集中していてすっかり忘れていたが、確認してみるとレベルが二上がっていた。あとでポイントを振り分けなければいけない。


「じゃあもう少し……」

 

「ご主人様! ご主人様!」


 話を続けようとしているとルルが会話に割って入ってきた。「あれ! あれ見てください!」と言うのでそちらを見てみると、そこには俺たちの探し求めていたマルコシープが悠々と歩いていた。

 


 

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