1-8 メイドレストラン「Als Magna」

「お待たせ致しました、デミグラスソースハンバーグです♪

 ソースをハンバーグにおかけいたしますね?

 おいしく、な〜れっ♪

 これはおまじないです♪ お気に召しましたか?

 うふふ、ご主人様に喜んで頂いて……


 『智奈ともな』はとっても嬉しいですっ♡」




 俺達四人はゲーセンを後にする。

 ……ちゃんと、ありす、叶恵、幸果の三人は服を着直している。

 先程俺が代表してゲーセンの店員に謝罪しておいたが、店員曰く、

円卓ラウンドテーブルの騎士達が王妃に翻弄されるのはよくあることさ☆」

 と笑って許してくれた。

 なんなんだ、このゲーセン。

 ん、『王妃』?

 ありすや叶恵、そしてたった今ここで武勇を刻んだ幸果のことだろうが、それなら『王』は誰だ?

 まさか……いや、そんなことはどうでもいい。


 ありすと叶恵は幸果に興味が向いたらしく、恥ずかしがる幸果の身体を触りまくって楽しんでる。

「さっちゃん、またおっぱい大きくなった〜?

 ありすよりウエスト細くて羨ましいな〜♪」

「ケツもデカくて揉み心地最高だぜ〜♪

 アタシより胸や尻がデカくて良い嫁になりそうだなぁ幸果よ〜?」

「あぁあぁっ、あなた達やめてっ!

 頼人や他の人達が見てるんだからっ……はあぁあぁんっ♡」

 ありすや叶恵だけでなく、幸果も気持ち良さそうだ。こいつら本当に仲が良くて嬉しい限りである。

 外なんだから自重すべき、と他の人達は思うだろうが、この三人を見て、癒されている俺がいた。

 もうお前ら三人とも、俺なんか放っといて結婚しろ!

 ……決して、この三人に混ざりたいとか、そんな下衆なことは考えてないからな。


 ピロリン。

 ん? 誰かからナインのメッセージ。


 智奈<頼人様、今日はお部屋に行けなくてごめんなさい!><;

 やっと休憩時間になりましたが、バイトが忙しくて、なかなか連絡もできず……

 申し訳御座いません!


 あ、智奈か。

 智奈も、よく俺の部屋に来る女の子だ。

 あの子もとても可愛くて素敵な美少女だし、俺も会いたかったな。

 ……敬語だったり、様付けで呼んでくるのは、誤解を招きそうだが……あくまで、智奈の意思でやってることであって、俺が強制してるわけじゃないからな!?

 まあ、あの店でのバイト、忙しそうだしな。

 それに、智奈自身があのバイトを誇りに思ってるって言ってたし、寧ろ仕事熱心で感心する。

 だけど、智奈の方は俺に会えないのが寂しいのかもな……

 晩飯の時間になってきたし、俺は、


 頼人<大丈夫だ、智奈が謝らなくて良い

 それと、今から智奈のバイト先の店に飯食いに行こうかと思う

 もし智奈に会って話とかできれば俺も嬉しいけど、バイト忙しいなら別に気にすんな


 と返信した。

 すると、すぐに智奈からも返信が。


 智奈<智奈に会いに来てくださるのですか!?とっても嬉しいです!*^^*

 是非ともお待ちしております、ご主人様♡


 うわ、強烈な愛情たっぷりの返信だ。

 正直、こういうのはめちゃくちゃ嬉しい。

 この店に行くのを三人にも話しておこう。


「お前ら、智奈のバイト先の店に行かねーか?

 そんな遠くねえし、美味いとこだし。良いだろ?」

 すると三人は。


「え〜!? ともちゃんのとこ〜!?

 ともちゃんに塩を送るようなことしたくないよ〜っ!」

「頼人! オメーただでさえアタシら三人を侍らせてんのに、四人目の智奈にも会いてーとか、そんなにハーレム気分に浸りてーのか!」

「頼人、今度は智奈にもいやらしいことする気なのっ!? このスケベ野郎っ!!」


 な!?ここまで苦言を呈されるとは思わなかった。

「おい、智奈は俺達に会いたいのに、バイトが忙しくて来れねーんだから、俺達が会いに行ってやった方が良いだろ!」

 俺はビシッと言ってやると、


「えへへ♪ じょーだんに決まってるじゃ〜ん☆ らいくんたら真面目系クズ〜っ☆

 もちろんいいよっ♪ ともちゃんとこのお料理とってもおいしいもんねっ♪

 おなかすいてきちゃった〜♪」

「しゃーねーな!

 智奈のことはいけ好かねーけどよ、頼人がアタシに服従してるところ見せつけて、今度こそ智奈にマウントとってやる!」

「頼人が智奈にいやらしいこと絶対しないって約束するならいいわよっ!

 もし智奈に手を出したら、男殺し第三の奥義の練習の的になってもらうわっ!」


 ……俺に対して色々ひどい物言いだが、三人とも良いって事だよな。

 よし、智奈がバイトしてる店に、みんなで行くとするか!

 ……ああ、智奈にも、女の子三人が来ること知らせなければ。

 ナインでメッセージを送る。


 頼人<ありす、叶恵、幸果も一緒に行くよ


 すると智奈はすぐ返信。


 智奈<・-・


 ……いや、どういう心理を表してるんだこれは。良いのかダメなのかすらわからねーよ。

 まあ、とりあえず智奈のいるお店に行くことにする。

 今日はもう散々大騒ぎしたんだが、またなんか一悶着ありそうだな……


 お洒落な洋館のような外観のお店、『Arsアルス Magnaマグナ』。

 ここが智奈のバイト先だ。

 早速、中に入る。


 メイドさんが、一人。

 俺達に気づいて嬉しそうにこちらへ来て、挨拶をする。

 胸元が大きく開かれたブラウス、フリルが多めの短いスカート、絶対領域の太ももを強調しているニーソックス。

 いかがわしくも、可愛らしい、この店の制服。

 それを着こなす、笑顔の似合う、どことなく上品な雰囲気の女の子。


「おかえりなさいませ、ご主人様っ♡

 ……うふふ、頼人様っ……♡」


 バイト中なのに、俺の名前をわざわざ呼んでくれた、この美少女。


 名前は、「宝園たからぞの智奈ともな」。


 前髪を三つ分けにした、セミショートの黒髪。緑色のカチューシャを可愛らしく付けている。

 タレ目で、天使のような笑顔を見せてくれる。

 彼女もまた、俺の部屋に来ることが多い女の子だ。

 今日はバイトが早い時間から入っていたようで、俺の部屋に来れなかったのもやむなしだったのだろう。


 性格は、とても優しくて、穏やかで思い遣りのある、素敵な子だ。

 この店でも、物腰柔らかで癒し系な振る舞いで、客の男達から人気を集めている。

 しかし……それでいて、俺に積極的に愛情を示してくる。

 そのせいか、ありすや叶恵は、彼女のことが気に入らないようだ。

 この二人は、智奈のそういう態度がお高くとまっててうざい、とかよく言ってるな……

 智奈は悪くないしアイツらの方がひどいと俺は思うが、当の智奈は気にしてないみたいだ。

 幸果は、さっきも本人が言っていたが当然智奈のことも守る対象である。

 智奈と幸果はお互い穏やかに接していて仲が良いようである。


 俺が智奈と出会ったとき、彼女に関わるある事件を解決したことがきっかけだが……

 その後すっかり、俺のことを様付けで呼ぶ程にべったり惚れ込んでしまったようで。

 俺はとても嬉しいし、智奈の愛を受け入れたいのはやまやまだが……

 しかし智奈は、ある意味、後ろの三人より、よっぽど俺なんかとは釣り合わない女の子なのだ。

 何故かって? すぐにわかる。


 体型は……こんな男目線で評価するのはクソ失礼なのだが。

 後ろの三人と比べると、胸やお尻の大きさは三人より小さめだがそこそこで、ウエストは叶恵ほどではないがスレンダーだ。

 この店のメイド服は、胸の谷間とか、太ももを露出させている過激なもので、智奈も例外ではなくその女性的な魅力を晒してしまっている。

 胸もお尻も大きい三人とはまた違う、慎まやかながら均整のとれた智奈の身体。

 それにすごくそそられてしまう……

 ……いい加減やめよう、こんな外でそんなこと考えるのは。

 俺も、智奈に笑顔で挨拶しよう。


「ただいま、智奈」


「やーともちゃん! そうやってらいくんを特別扱いするのは仕事上良くないんじゃないかなー!?」

「よー智奈! アタシは智奈がバイト中に頼人を今度こそ完全服従させてやったんだぜー! 羨ましいだろぉー!」

「智奈こんばんは、この店で男に変なことされなかった!? 大丈夫!?」


 ……三人は智奈に色々言ってくるが、智奈は。


「お嬢様方もおかえりなさいませ♪

 ありす様、ご主人様やお嬢様の名前を呼ぶのはご希望の方への当店のサービスで御座います♪ 決して特別扱いでは御座いませんよぉ?

 叶恵様、頼人様は叶恵様のことも、智奈のことも、他のお嬢様方のことも、愛してくださってると信じております♪

 幸果様、お気遣い有難う御座います♪ ですが、ここのご主人様方は優しくてマナーも良い方々ばかりですよ?」


 この穏やかかつ冷静な返しで、三人を黙らせる。

 あくまで、智奈は職務を弁えているようである。

 普段なら、ありす、叶恵、幸果のことは『さん』と呼ぶが、今はちゃんと『様』と呼んでいる。


 このメイドカフェ……否、メイドレストラン「Als Magna」は、決して智奈達メイドさんだけで客を釣ってるわけじゃない。

 店の外装はさっき説明したが、内装も落ち着いた雰囲気で過ごしやすい。

 値段は高めだが、それに見合った美味しい料理。

 全国的に有名で、俺のようなオタク達にとっての聖地である。


 早速俺達は席に座り、それぞれコース料理を頼んだ。

 ありすは、クリームソースのパスタ。

 叶恵は、リブロースステーキ。

 幸果は、鮭のムニエル。

 俺は、何故この店にあるのかわからないがつい選んでしまった醤油ラーメン。


 食事中、ありすと叶恵はさっきのコスプレ撮影であったことをペラペラ喋ってしまい、幸果が俺の首を片手で掴んであわやまたしてもあの青い空間に送り込まれそうになったが、なんとか必死に説得して踏みとどまってくれた。

 ありすと叶恵が格ゲーの攻略の話をしていたり、幸果が俺達に新しい奥義の開発をしていることを得意げに話してきて俺を戦慄させたり。

 俺達四人で、いつものくだらなくも楽しい話をした。

 智奈が料理を持ってくる度に、俺達の話を側から聞いていたのか嬉しそうな表情をする。


 ひそひそ。

 ん? 俺達を見て、オタクっぽい複数人の客が話しているな?

 それに、やけに早くスマホを操作している。


 そして、しばらくすると。


 次々、この店に客が入ってきた。

 始めはそんなでもなかったが、時間が経つにつれ、どんどん早いペースで、客が入ってくる。

 そして……ついに満員状態になり、行列ができてしまった。

 智奈達店員さん方々も大忙しである。

 これは、まさか……!


 有名人のありすと叶恵。

 ひょっとすると先程ゲーセンで騒ぎを起こした幸果にも会いに、大勢の客が押し寄せてきたのか!?


 たくさんの客の男達が、この三人をチラチラ、あるいはジロジロ憧れの目で見てくる。

 俺には、突き刺さるような冷たい視線。

 話しかけて来ないだけマシだろうが、落ち着いてドリンクも飲めやしねー!


「あう〜みんなこっち見てるよ〜。

 こんなの〜……つい握手してあげたり撮影して欲しくなっちゃうなっ☆」

「アタシもこんな有名人になったんだなー!

 モテ過ぎて困っちゃうぜー☆」

「な、なによこの男たち、ありすや叶恵だけじゃなくて私のことまで見てきてない?気持ち悪いっ……!」


 この三人も落ち着かない様子である。

 これはもうこの店を出るしかないか!?


 すると、智奈が、

「頼人様、ありす様、叶恵様、幸果様。

 ……ご主人様、お嬢様方に、まことに失礼ながら、当店の店長、及びオーナーからご相談があります!」

と、真剣な顔で俺達に話しかけてきた。


「ど、どうしたんだ、智奈?

 俺達と智奈の仲だ、失礼なんてことないから言ってみろ」

「ありがとうございます、頼人様♪

 お断り頂いても、よろしいのですが…」

 智奈はすぅー、と息を吸って。


「ありす様、叶恵様、幸果様……



 ……どうか、当店のメイドになっては頂けないでしょうか!!!」



 ……



「きゃーーー♡」

「ほぉーーー☆」

「えぇーーー!?」


「なああああ!?!?!?」


 まだこの長い一日は続きそうだ。

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