1-7 幸せの果てまでぶっとばされる

 とても可憐で美しい。

 武器も特に持っていない。

 だが、それでも囲いの男達を多数ぶっとばし現れた、この女の子。


 名前は、清町幸果。


 俺のことをドスケベ変態男だと決めつけ、ありすと叶恵など、女の子達を守るため、俺の部屋に入り浸ってる女の子の一人。

 見ての通り、とても強い。強過ぎる。

 男が大嫌いで、女の子を守るために強くなったらしい。いや説明になってないか。


「フン。アンタらゴミクズ最低変態野郎ども、まとめて全員しばき倒してやるわ!!

 そこにいるのは頼人ね!

 やっぱりアンタがこんなことをさせてるんでしょ!

 後でお仕置きしてやるから覚悟しときなさい!!」

 とばっちりだ!後で誤解を解かなければ。

 しかし、幸果、マージで怒ってんな。まあ当たり前か。

 男達は呆然としていたが、そのうちの一人がようやく、

「こ、ここここのありすたんと叶恵様の神聖なる闘いの儀を邪魔する者は、例え可愛らしい女の子でも許さねー!野郎ども、やっちまえー!」

 と情けなくどもりながらしゃべり、それに男達が、

「「「お、おおおおお!!!」」」

 と呼応し、幸果に迫りだす。

 それを見て俺は察した。


 逝ったな、こいつら。


 近づいてきた男に、幸果が一発。

「はあっ!!」

 高速の掌底を撃ち込む。

「「「ぐああああぁあぁあ!?!?!?」」」

 男一人が吹き飛び、その先にいる男達全員も吹き飛んだ。

「「「ヒャッハー!!!」」」

 他の男達が、まるでバトル漫画の雑魚敵のように上から飛びかかる。

 幸果はしゃがんで構えてから……

「喰らいなさいっ!!」

 強烈なサマーソルトキックを放つ。

「ひでぶっ!!」「あべしっ!!」「えひゃい!!」

 男達は特徴的な断末魔の叫びをあげる。


 男達が束になっても、幸果の無双は続く。


「もう終わり?雑魚男ばっかでつまんないわね」

 幸果がほぼ全員の男達を倒しまくった。

 そこに、

「……フヒヒヒヒッ!!!」

 とヤバい笑い方をするスキンヘッドの体格の良い大男が、幸果の前に立ちはだかる。

 こいつ、このゲーセンによく来て、一切まともな言葉を話さず変な声しか出さねー、だけど格ゲーマーの中でうまくやってるやつじゃねーか。

 めちゃくちゃ強そうだが、流石に幸果でも厳しいか……?

 しかし幸果は、言い放った。


「ふーん、ちょっとは骨のありそうな男じゃない?

 なら……せめて、奥義で葬ってあげるわ!

 『第一の奥義』でねっ!!」


 何!? 幸果の『第一の奥義』だと!? あれが見られるのか!?

 しかし、あの技を決めるには、体格差があり過ぎるような気がするが。いけるのか!?


「フヒィーーーーーッ!!!」

 大男は、すかさず強く重そうなパンチを幸果に向かって振り下ろす。

 バァーン! 床が割れ、粉塵が舞う。

 幸果!

 俺は幸果がやられたと思った。

 しかし、それは杞憂だった。


 幸果は、大ジャンプして大男のパンチを避け、上空を美しく宙返りしながら舞っていた。

 そして、大男に向かって降りてきて。


 大男の肩に乗り。

 男の顔面に、股をぎゅっと押し付け、ズボン越しでもわかるむっちりした極上の太ももでむにゅっと頭を挟み込む。


 こんな時にアレだが……

 ああ、俺だって幸果のような美少女に、あんなことされてみたい、と羨ましさすら感じる。

 しかし、この後。


「フン!」

 どういう原理か、幸果の力が強過ぎるのか、ていうかそもそも物理的にありえるのか。

 その辺は全くわからないが、幸果が声を出し力を入れれば、大男の身体が、軽々しく、ふわっ、と浮いた。

 幸果は、男の頭を脚でしっかりホールドしたまま、後ろへ宙返りする。

 大男の身体も、派手に宙を舞う。

 そして。


「私の奥義で、幸せに果てなさいっ!!!」


 幸果のトドメの際の決め台詞を言い放ちながら。

 大男を逆さまに落下させ、凄まじい威力で頭を床に、ドォォォン!!と叩きつけた。

 床が割れ大きく亀裂が走り、大男の頭が突き刺さり埋められた。


 カンカンカンカン!!!


 出たァーーー!!!

 幸果の男殺し第一の奥義『幸せ投げフランケンシュタイナー』が見事に決まった。

 俺の心の中で試合終了のゴングが高らかに鳴った。

 表情は見えないが、さぞ、あの大男は幸せに果てることができただろう。

 俺は静かにあの大男の冥福を祈った。


 そして、幸果は立ち上がり、こちらに向かってくる。

 散々暴れ回った幸果が恐いと思ったが、縛られている俺を解放してもらえたら嬉しいとも思った。

 幸果は俺の前に来て。


 無言で、高速の蹴りを--


 --俺ではなく、柱に叩き込んだ。

 柱は粉々に破壊され、うまいこと俺を縛っていた縄が解かれた。

 幸果は俺の口を塞ぐ布も両手で持って引きちぎり、手錠も指で摘んだだけで破壊し外してくれた。

 こえー。こえーけど、すげー助かった。


「ふぅ……幸果、ありがとう。

 すげー助かったわ……」

 俺がお礼を言うと。


「頼人……」


 幸果は俺の首に手を回し、優しく抱きついてくる。

 えっ、えっ? ちょっと待ってくれ! それは急展開すぎるのでは!?

 幸果の大きな胸がむぎゅぅっと俺に押し付けられる。

 幸果の顔が近い。俺はドキドキさせられてしまう。

 い、一応ここはゲーセンだぞ! 公共の場だぞ!?

 しかし、さっきまでありすと叶恵の脱衣を見ていたせいで、俺のモノが興奮状態で。

 ああ、幸果がとても魅力的に感じて、このまま幸果と、愛し合うのも、悪くはなーー



「フン!!!」

 どすぐちゃっ。



 幸果の冷たい顔と声、そして何か変な音を認識したが。

 形容し難い感覚の後、俺の視界が暗転した。

 あぁ、ああぁあああぁあぁ--




 ……あれ?さっきまで俺は、ゲーセンにいたはず。

 なんだ、ここ?

 一面に広がる、ブルーバックスクリーンの如し、澄んだ青色の空間。

 そして、俺以外にもいる、大勢の男達。


「「「うふふふふ♪ わ〜い♪」」」

「「「あはははは♪ たーのしー♪」」」

「フヒヒヒヒ♪」

 安らかに気持ち良さそうな表情をして、ふわふわ浮かんでいる。

 やけに目立つスキンヘッドの大男もいる。

 こいつら……さっきまで会ってたような気がするんだが、誰だっけ……思い出せない……


「さあ、お前もいこうぜ〜♪ あの上にある光の彼方によ〜♪」

 男の一人が、俺の手を握って、俺を上に連れて行こうとする。

 俺達の上には優しく輝く光がある。

 あれ? 俺までなんだか、ふわふわとした気持ちになる。気持ちいい……

 他の男達も、俺に話しかけてくる。

「俺たち仲間だろ〜♪ みんな一緒だぜ〜♪」

「さあさあ、我々と共に、あの光へと向かい、幸せになりましょう!!」

「フヒ、フヒヒ♪」

 男達に優しく導かれ、光の先へ向かう。

 ああ、こいつらと一緒なら、恐くはないさ--



 いや、違う。



 俺のいるべき場所はここじゃない。



「俺は、帰らなきゃいけないんだ……ゲーセンに!!

 俺は……目醒めなきゃならないんだあああああ!!!


 うおおおおおおおおおお!!!!!」


 俺の身体から、漆黒の闇が放たれる。

 青く光り輝くこの世界を、黒く塗り潰し、男達すら飲み込み--




 「……がはッ!!!」

 俺は、目醒めた。

 ここは、ゲーセン。

 俺はうつ伏せに倒れている。

 周りにも大勢の男達が倒れている。

 大男が一人、頭を床に埋められている。

 その中に、幸果が、堂々と立っている。


「フン、頼人、目が醒めた?

 私の第二の奥義を受けてすぐに目醒めるなんて、やるじゃない?」


 そうか……この身体が痺れるような激痛。

 喰らってしまっていたのか。


 幸果の第二の奥義。

 男に、まるで気があるかのように抱きつき…といっても幸果に男を惑わす気はないのだろうが。

 豊満で魅力的な身体を密着させ、男を油断させたところに。

 渾身の、鋭く重い膝蹴りを。



 男の股間に叩き込む。



 それが、男殺し第二の奥義『魂粉砕ソウルクラッシャー』。



「あぁ……ああぁあああぁあぁ!!!

 痛ってえええぇええぇええええぇええ!!!」

 俺は幸果にその技を喰らったことを明確に思い出した途端、股間が、男の魂が、ガチで潰され粉砕されるような激痛が、身体全体に伝わるように走った。

 先程本当に幸せに果てて昇天しちまうところだった。危なかったマジで。

 それを見下ろし、見下す幸果。

「いい様ね? そんなに私の奥義を喰らって気持ち良いのかしら?

 ……いえ、気持ち良くなる資格なんてないわ。ありすと叶恵を脱がせようとした罰よ!

 精々苦しみ喘ぎなさいっ!!」

「ちげーって! 俺がやったんじゃねーよ!

 叶恵から言い出して、ありすがそれを承諾しやがって、俺はそれを止めようとしたんだが、ここの男達に縛られちまったんだよおっ!!!」

 俺は正直に話す。信じてもらえねーかも知れねーけど。


「……ふん、まあいいわ。ありすと叶恵の脱衣を見るような男達は、私がみんな眠らせてあげたしね。

 それに……私は、本当はアンタが女の子にそんなことしないだろうって、信じてるからっ……」

 幸果は何故かデレるようにそんなことを言う。意味がわからない。

「眠らせただけなのかよ!? 明らかに殺ったようにしか見えねーんだが!?

 ていうか、俺を信じてるのに今さっき決めた第二の奥義は何だよ!?

 今現在俺ものすごく痛てーんだが!?」

 幸果は、まだ恥ずかしがりながら言う。

「そ、それは……なんと言うか、その……



 頼人に、私の強過ぎる力を受け止めて、最高に気持ち良くなってもらって……

 アンタに、幸せに果てて欲しかったからっ……」



 ……恐らく、この台詞だけ聞けば、他の奴からしてみれば、意味がわからないだろう。

 幸果を、ただの暴力女だと思うのも、無理はないかも知れない。

 だが、俺は。


 幸果は、幸果なりに俺のことを愛し、信じてくれている。


 そう思った。


 実際、めちゃくちゃ痛い、が……めちゃくちゃ気持ち良かった。

 幸果はきっと、女の子を守るだけじゃなく、俺をはじめとする男を幸せに果てさせるために、日々鍛えているんだろうな。

 それなら、俺が幾らでも幸果の溢れんばかりの力強さを受け止めてやりたい。

 そして、俺を、より至高の幸せに果てさせて欲しい。

 ……流石にまだ昇天するわけにはいかないが。


 なんか、こいつと会った頃のことを思い出す。


「幸果……ありがとな」

「私からも……ありがと」


 そんな他愛無い言葉を交わす。


 すると……幸果の後ろから、怪しい人影が、二人。

 な、まだ幸果が倒していない男がいたのか!? しかし、幸果がそんな取り逃がしをするはずが……

 二人は幸果に飛びかかる。

 幸果、何故ボーッとして男の気配に気づかない!?

「幸果、後ろ、危ねえっ!!」

「え、えっ? きゃああぁっ!!」



「幸果ァーー! オメーアタシらの神聖な闘いの儀を邪魔しやがって〜!!」

「さっちゃんのばかばか〜っ! ありすとかなちゃんのプライドを賭けた闘いが台無しだよ〜!!」


 二人の正体は、叶恵とありすだった。

 こいつら、見かけねーと思ったら……

 てか、ありすはパンツ一丁で胸丸出し、叶恵はブラジャー一枚だけで下半身丸出しじゃねーか!?


「やーん! 私はあなた達を助けたかったのに〜!」

 幸果はありすと叶恵に揉みくちゃにされている。

 そうだ、幸果は、『男』に対しては物凄く強いのだが、『女』に対しては決して暴力を振るえなかったな……

 これこそ『制約と誓約』というやつか……


「こいつぅー! アタシらと同じように脱がせてやるぜー!!」

「さっちゃんのステキな身体を晒しあげちゃうよ〜っ♪」

「や〜だ〜!! 二人ともやめてー!! うえ〜ん!!!」

 幸果の服がありすと叶恵に強引に脱がされていく。

 幸果は一切抵抗できず、水色のブラジャーに包まれた大きな胸、細く引き締まったお腹、水色のパンツを穿いているボリューミーなお尻や股、そんな下着姿を晒し、泣き喚いてしまう。

 今の幸果には、先程までの男達に対する強さは微塵も感じられない。

 こんな感じで、いつもありすと叶恵は、幸果がそういう奴であることをいいことに、こうしてセクハラしまくっているのだ。


 俺の身体の痛みがひいてきたので、立ち上がる。

 この半裸の三人を見て、俺は。


「女の子同士のイチャイチャ……良きかな」


 さっきまでの騒ぎも忘れるほどに、安らかに癒された。


「さっさと助けなさいよっ! 頼人ぉーーー!!!」

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