第34話 決 着
俺は鳥かごから抜け出すと、ふたりに気づかれぬよう物陰から現状を確認する。
先ほどまで互角以上の戦いを演じていたソウジであったが、場の不利が祟ってか劣勢に追いやられている。
――まずは動きをとめる
移動しながら戦うふたりの意識外から飛び出した俺は、ソウジに抱きつく。
「サルキチくん!? キミ、その格好」
ソウジが悲鳴じみた声をあげるが、別に全裸のまま抱きついたわけじゃない。
ちゃんと腰にタオルを巻いてる。
もつれ合った俺はソウジから武器を落とさせた。
「ありがとう、サルキチ」
キュイは俺の援護に喜色を浮かべると、鎧の腕部を槍状に変化させた。
それで野望への障害である
黒槍を構えたキュイが、ソウジに襲いかかる。
俺はキュイの間違いなく味方だ。
だから、ソウジの動きを封じて彼女を守った。
でも、それは誰かが傷つくのを容認するって意味じゃない。
故に俺は全身でその槍を受け止める。
黒槍はなんなく俺の腹を突き破ると、内部からジクジクと血をにじませた。
「サルキチ!?」
あわてて槍を抜くキュイだがそれは逆効果だ。
蛇口の開かれた水道のように一気に血があふれる。
あまりに大量に失われた血液に目の前が暗くなった。
動揺しかけよるキュイを、俺は『汚しちゃうかな?』と思いつつも抱きしめる。
その肌は子供の姿の時よりも少しだけ冷たかった。
あるいは俺を傷つけたことで文字通り血の気が引いたのか……。
とにかく、俺はキュイを捕まえることに成功した。
この手は二度と離さない。
あとは……、
「でかした!」
そこに刃を手にした白いものが飛び込んでくる。
簡略化されたデフォルメ騎士は、ヤミンズ戦で使用した量産型プチゴーレム。
改造を施されたその背中には、五分の一スケールまで縮小された水花先生が乗っている。
先生はプチゴーレムを操り、拘束されたキュイの首もとに刃を走らせた。
刃は長く伸びた漆黒の髪をバッサリ切り落とす。
キュイの身体がビクリと
切り離された髪は地面に舞い落ち、切り口から毒素が抜けるように新緑がよみがえっていく。
黒色の鎧は崩れ、新緑のワンピースを露出させると、華奢な身体が幼い状態へと回帰をはじめた。
魔女の身体はオモチとおなじ魔力を元に作られている。
故に簡単に成長したり、こうして元の姿に戻ったりすることもできる。
魔女は経験を骨組みにして、仮初めの肉体を成長させる。
その経験がまず反映されるのは髪だ。
それが切り離されたことによって、キュイはこれまでの経験を失う。
俺との思い出とともに……。
「抜けてく、抜けてってちゃうよ、サルキチ……」
涙を俺の肌に伝わらせ、幼子のように泣きじゃくる。
だが、俺には謝ることしかしてやれない。
「ごめんな、ごめんなキュイ」
「ヤダヤダ、こんなの、こんなのヤダ、サルキチなんとかして、お願い……」
いくら懇願されようとも、俺にもとめようがない。
ただ、彼女と一緒に泣くことくらいしかしてやれない。
「おねがい、やめて、キュイからそれをとらないで―――――!
とっちゃいやぁ――――――――――――――――――――!!」
キュイは最後まで記憶の喪失に抵抗し、切り落とされた髪へと手を伸ばしていた。
俺はそれを潤んだ視界に納めていた。
もう少しすれば、キュイは過去を失う。
きっと記憶を失ったことすら忘れてしまうのだろう。
だから、このことは俺が覚えておく。
忘れない。
二度とおなじ失敗を繰り返さないために……。
やがてキュイが出会った頃の姿に戻ると、泣き疲れた子供のように眠りについた。
それを見届けると、とうに限界を迎えていた俺もその場に倒れ意識を失った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます