第30話 ミーティング

「さて困ったぞ」

 星界樹スターツリーの前でひっくり返った俺はそのまま頭を悩ませる。


 とにかくキュイと話をしようと、星界樹スターツリーに突入したのだけど、あっさりとオモチ道にはまって転げ出てしまったのだ。


 それもすでに三回目である。


 あの時、俺が上層から落ちたのは先生とヤミンズを助けようとして失敗したからだ。

 だったら、ひとりでのぼればキュイが迎えに来てくれるんじゃないかと期待したんだけど……そうそう上手くはいかなかった。


「なんか俺、拒まれてる気がするんだけど……」

「嫌われたのであろう。

 自分の目の前で余所の女と手を取り逃亡したのであるからな」


 あれがそんな美談か?


「猿吉に愛想をつかせたのなら、契約を破棄してもよさそうなものだが……」


 先生は悩みながらも、俺の額を見つめる。

 鏡に写しても見えないけど、どうやら先生には残された契約を認知できるらしい。


「もし他でオモチを集められても、それで干渉されればほぼ間違いなく失敗するな」


「モーミンソラに散る。これで植木鉢プランターも静かになりそうである」

「こらそこっ、不吉な事言うな!」


 でも、契約って俺に不利益な事はできないって言ってたような……とは思ったけど、キュイの本気の要求をはね除けられるられるかあまり自信がない。


「とにかく、まだ向こうはサルキチくんに未練があるんだろう。

 なのに、会おうとしない。その理由はなんだ?」


 ソウジが疑問の要点を絞ろうとする。


癇癪かんしゃくを起こしておるのではないか?

 故に理屈だった行動がとれぬ」


「そういう子じゃないんだけどなぁ……頭いいし、性格だって素直だし」


「普段わがままをいわぬ子ほど、こじらせたときが大変ではあるな」

 教師が言うと含蓄がんちくがあるな。


「だが、頭がいい子ならなにもしないのは確かに腑に落ちん」

「時間稼ぎ……ではないだろうか?」


「なるほど」

 ヤミンズの発言を先生が考察する。


「オモチで作った私の身体には時間制限がある。

 ほっておけばいずれ魔力を使い果たして朽ちる。

 それ自体は、まぁどうでもいいことだが、猿吉を返す算段がなくなる。

 とすると、やはり目的は猿吉か」


「先生、質問いいっすか?」

「ん?」


「プチゴーレムは動かしても減りませんでしたよ?

 なのにその身体は減るんですか?」


「それは星界樹スターツリー内での話だろ。あそこは魔力が高いから、オモチ以外にも魔力が供給されているんだ」


 なるほど。

 だったら先生も星界樹スターツリーに入ればいいって話だけど、キュイから嫌われてるっぽいからな。

 もし本当に俺の帰還を妨げたいなら一番に狙われるだろう。


「それにしても……」

 先生が心底うんざりといった視線を俺に向ける。


「思春期にしても、反抗期にしても、もうちょっとマシな男を選べばいいものを……」


「心中お察しします」

「まったくである」

「そうだねー」


 女性陣、四人全員が意見を揃えた。ひでぇ。


「先生、俺、先生のヒモなんですけど?」

「まだ試練は乗り越えてないだろ。

 だが、ダメンズにひっかかる遺伝子が私にもあったのか。不覚だ」


「時間を稼がれて困るのはキミたちだけじゃない」

 話題を戻したのはソウジだった。

 男と間違われる絶望的貧乳ちっぱい……むしろ乳というよりも壁なのだが、単純な戦闘力ならダントツらしい。

 この場で唯一おっぱいヒエラルキーを覆せるほどだ。


星界樹スターツリーが黒化したせいで住民が不安になっている。

 それに黒化中は他者に恵みを与えず生成した魔力も独占される。

 このままだと、遠からずみな飢えることになる」


「モーミンが原因だと漏れれば、初代の二の舞もありえるな」


 農業改革に失敗してみんなを飢えさせたせいで、村人から追われたって話か。縁起でもねぇ。



「まずは目的の確認をしよう。

 ボクらの目的は星界樹スターツリーの正常化ということでいいかな?」


「やむをえないだろう」

 ソウジの意見に先生が納得する。


「それってキュイを説得するって意味でいいんだよな?」


「それで正常化できるならベストだね」

 念の為、確認する俺にソウジが答えたが……。


「それって失敗したらキュイをどうにかするって意味か?」

「その通りだ。

 星界樹スターツリーと人間は共存関係にあるが、それが崩れるなら伐採人ウッドカッターとしてボクが対処させてもらう」


「てめぇ、ソウジ!」

 掴みかかろうとする俺をヤミンズがとめる。


「よせっ、これでもコヤツは譲歩しておるのだ。

 おまえの意見など聞かずにいきなり武力行使する場面だぞ、黒化にまでなったら」


「さすがにボクもそこまで暴力的なつもりはないけど?

 それに一度上層までのぼったから、向こうも警戒してるだろうし、おなじ手も使えない。

 ボクだって警戒されてる場所をそんなに簡単にはのぼれないから」


「とにかく、自らの意見を押し通したければおまえがキュイの説得を成功させることだな」


 産みの親である水花先生までもがキュイを養護しようとはしない。


「そんな目で見るな、伐採人ウッドカッターにとっても魔女の抹殺は最後の手段だ。そうだろ?」


「そうだね。魔女を殺しても黒化が収まる保証はない。

 さらには新たな魔女が産まれるまで、管理人不在の状況が続く。このままでは四番目の植木鉢ウバナのように星界樹スターツリーが枯れてしまうかもしれない」


「魔女がバンガ家に嫁入りしたせいで枯れた星界樹スターツリーか……おまえん家って、ほんと星界樹スターツリーの危機に縁があるんだな」

「失敬な、今回は貴様が原因であろう」


「そのあたりの究明はやめておこう。

 彼女をここに呼んだのはボクの失敗だから」

「我が来たのを失敗などと言うなっ!

 本当に災厄みたいであろう。

 まぁ、大いなる力を宿した我が身が世界にとっての劇薬であることは認めるがな」


 こいつのドヤ顔はムカつくので、自信満々で突きだしたCカップおっぱいを揉んで、たいしたことないんだと思い知らせてやりたい。


「次は植木鉢プランターの人々を飢えさせないこと。

 ここがクリアできれば、最悪の事態は免れるだろう」


「とは言っても、接合ハンドシェイクは先日行われたばかりです。

 その際輸入された量は限られ、高騰も完全には収まってませんからあまり長くは持たないかと」


 物資管理担当のチーチラさんが控えめに意見を述べる。


「だよね、ということは、やはり上層までのぼって魔女をどうにかしないといけないってことになる。なるべく早期に」


 結論は変わってないが、各々おのおのの優先順位は見えてきた。


 ソウジは伐採人ウッドカッターとして事態の解決を最優先にし、その為キュイの生存を二の次に考えている。

 水花先生もそれを仕方ないと容認している。

 ヤミンズについてはよくわかんないけど、人間であるチーチラさんが同胞の飢を快く思うハズがない。


 俺以外の誰もが、キュイよりも星界樹スターツリーを優先する考えだ。


「ところで、モーミンの帰還についてはよいのか?」

「猿吉の帰還については延期だな。

 しっかりエンジョイしてるようだし、いっそ忘れてもかまわん」


「それはさすがにひどいッスよ!」


 このままおっぱい揉ませてくれる約束を反故にして、おっぱい不毛領域に俺を放置する気か!?


「だいたい上層までたどりつき説得が上手くいったとしても、このままでは往復の時間でタイムオーバーだ。魔力が持たん」


 俺の帰還が先延ばしになるのは構わないけど、何年、何十年とかかるのはさすがにキツイな。


 こちらとあちらで時間の流れ……というか、接点にズレがあるらしい。

 先生はあちらで数年しか過ごしてないけどこちらでは百年以上経っている。

 逆に俺がいなくなってから向こうじゃまだ数日らしいけど、こっちは数ヶ月だ。


 いまなら、先生が両方にいるので元に近い時間に帰ることができるが、これを逃せば浦島太郎になりかねない。

 さらにキュイの成長を悠長に待てたらゴブメンみたく生オモチをかじって延命しなきゃならないのか。

 さすがにそれは、ごめん願いたい。


 この世界での生活自体は悪くないけど、巨乳おっぱいの成長率がなぁ……。


「なんだか、急にサルキチくんの帰還はどうでもよくなってきたな」

「まったくである」


 何かを察したのか、貧乳ソウジ普通ヤミンズがひどいことを言い出した。


「どっちにしろ」

「早期解決のため」

「手を貸さんわけにはいかんのだ」


 そして、改めて全員が俺を見てため息をつく。


「そんな『こんなやつの為に』みたいなリアクションやめてくれよ」


 なぜかため息が繰り返された。

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