第28話 再  会

 家を飛び出した俺たちが目撃したのは、素敵な黒髪の美女だった。

 推定Gカップの巨乳おっぱいの形をタイトなスーツは隠しきれていない。


「水花先生!?」

「おう、猿吉いたのか探したぞ」


 なんで先生が植木鉢プランターに!?

 しかも、行方不明だった生徒との感動の再会だというのに扱いが軽い。


 何故だかゴブメンと親しげに談話していた先生だが、キュイをみつけるとこちらに寄ってくる。


「そっちはキュイか? くははっ、まだまだちっこいな」


 親戚のおばちゃん(といったら多分殴られる)のごとく手を伸ばすけど、当のキュイはその手を避けて俺の後ろに隠れてしまう。


 え~と、これはどういう状況なんだ?

 なんで先生が植木鉢プランターにいて、ゴブメンとナチュラルに会話してるの?

 キュイのことも知ってるっぽいし。


 駆けめぐる疑問を整理しきれなかった俺はまず質問することにした。


「先生」

「ん、なんだ?」


「おっぱい揉ませてください」


 即刻、拳で返答された……がしっかり回避。

 これまでの経験が俺を成長させたぜ!……ってわけでは多分ない。


 リアクションは間違いなく本物である。

 なのに、何故か反応が鈍い。

 心なしか俺の第六感おっぱいセンサーも反応が鈍い気がする。


「なぁ、我、ものすごく状況がわからんのだが?」


 ひとり完全部外者なヤミンズが説明を求めた。


 そういえば、コイツまだいたんだっけ。


「この金髪娘はバンガ家の子か?

 ずいぶんと可愛いのが生まれたもんだな」


 この上、流民ワンダラーの子孫まで知ってるだと?

 マジでどういうこと?


「なんじゃ、おヌシにしては察しが悪いのう」


 浮かない顔をしていた俺にゴブメンが種明かしする。


「このお方こそ、先代魔女シーカ様じゃ」


「……はっ?」

 思わず声が裏返った。


「いやいや、その人、俺の元いた世界で先生やってたし……」

「普通の人間が、どうやって植木鉢プランターまでやってこられる?」


「そんなこと言ったら、俺だって……」

 俺だって、先生の私室からオモチが原因でやってきた……つまりはこの人が元凶なのか。


「とりあえず、ざっくり話をまとめるぞ~」

 手をパンパンと叩いて、その場の注目を集める。


「私は教師をしていて、行方不明になった猿吉を探しにこの世界へやってきた。

 猿吉はおっぱい大好きなんで噂になってすぐに見つけられるだろうとは思ったが、それでも流石にひとりで探すのは手間だと思われた。


 故に昔のコネを使おうとここへ寄ったら偶然にも鉢合わせた。

 ここまではいいな?」


「そなたがここの先代魔女というのは?」

 挙手したヤミンズが質問を挟む。


「事実だ。

 異世界に興味をもってゴブメンと旅に出て、首尾よく目的地に到着できた。

 色々あったがそこでの生活を確立させ、新たな研究を進めていたんだが……そこの猿吉あほうが台無しにしやがってな。


 故にぶん殴ってやるついでに回収にきた。

 私の事情はだいたいこんなもんだ」


 話をサクサクまとめていく、本職の教師だけあって要点をまとめるのが上手い。

 でも、殴るためってのは冗談ですよね?


「あれ、回収にってことは……ひょっとして俺、帰れるんッスか?」

「当然だ」


 やっほい、これで貧乳ちっぱいばっかの不毛地帯から脱出できるぜい♪……なんて簡単には割り切れないよな。


「あの、先生……それ、ちょっと待ってもらうわけには……」

「ならん、こちらにも事情があってな。とっとと帰るぞ。土産はなしだ、荷物もあきらめろ」


 先生の言葉に背中をつかむキュイの力が強くなった。


「突然言われても俺にも事情が……」


「素直に従えば胸を揉ませてやろう」

「かしこまりました」


 凶器おっぱいを突きつけられた俺は、片膝をついて了承する。


「ちょ、貴様、いくらなんでも節操なさすぎだろ!?

 我にいきなり求婚したと思えば、実は幼子とラブラブで、あげくいきなり現れた年増に従うとは何事だ! さらにはこのまま帰還するだと!?」


「別におっぱい揉ませてくれって言っただけで、求婚なんかしてないし~、キュイとは兄妹みたいなもんだ、仲よくて当然~。

 本命が水花先生なのは一目瞭然だろ?」


「我が契約のチヨコレイトケイキはどうなる!?」


 なんか怒ってると思ったら理由はそこか。

 それも約束なんかしちゃいないけどな。


「第一、簡単に異世界にいけたりするものなのか?

 貴様とて長い期間をかけて準備をしてようやく成功させたのであろう?」


「この男の性格改善よりもよっぽど簡単だ。

 すでに私にはノウハウがあり、準備もおおよそ整っている」


 話がどんどんと進んでいくな。


 でも、帰ったらどうしよう。

 男らしく正面から揉ませてもらうか、それとも背後からじっくり揉ませてもらおうか?


「というわけでキュイ、悪いが早急にオモチを用意してくれ。

 なに三〇もあれば十分だ。それと準備についてだが……」


 先生は説明を続けようとするが、キュイの返答は「やだ」のひと言だった。


 場の空気が凍りかけ、視線がキュイに集まる。

 俺は膝を折って視線を合わせると、彼女に言い聞かせる。


「キュイ、もともと俺を元の世界に戻してくれるって約束だったろ?

 そりゃ急な話だし、俺だって離ればなれになるのは寂しい。けどいつかはやって来る事だから……」


 俺は精一杯の笑顔を作り、悲しみは胸中に押し隠す。

 ここで俺まで悲しい顔をすれば別れはいっそう辛くなる。


 キュイは十分に成長した。

 不安がないと言えば嘘になるけど、ひとりでも十分やっていける。

 ゴブメンもいるし、いざとなればソウジやヤミンズだって助けてくれるだろう。


 それでもキュイは納得しようとはしない。

 それどころか、これまで見せたことのないような激情を発露させた。


「やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだっ!!!!!」


 癇癪を起こしたように繰り返すと、ワンピースの裾から黒いモヤをあふれさせる。

 それが新緑で満ちた自身に触れると、濁るように黒化していく。


 そして闇に埋もれたキュイは、瞳を赤く輝かせ水花先生をにらみつけた。


「きえ、ちゃえ!!」


 呪詛とともに大穴が開くと、水花先生とヤミンズが為す術もなく飲み込まれる。

 暗闇に飲み込まれるふたりの手をとっさにつかんだ俺だったけど……。


Q:男子高校生の腕力で女性ふたりを支えられますか?

A:無理でした。

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