第25話 珍 客
「ふぅおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉ~~~~~~~~!!??」
額に汗したヤミンズ・バンガの奇声が五十七階層に木霊する。
「この甘さ、この風味、とろけるような食感、そしてなんとも言えぬ味わい深さ……これが人の魂を堕落させる味。
先祖より伝え聞かされていた禁断の果実
「うっせーな、美味いなら美味いって素直に言えよ」
「美味いのである!!」
俺の足をぶち抜いてくれた
「あと、チョコは果物じゃなくて菓子だぞ?」
「些細なことはどうでもよいのだモーミン。
我はこの甘美なる味を大変気に入ったぞ」
屈託のない笑顔で皿に盛られたチョコをまたひとつ口に運ぶ様子は、三十九階層で鬼神のごとき形相で暴れたヤツと同じとは思えない。
まぁ、一粒でもかなりする高級品なので、現代人だって似たような反応するかもしれない。
高い食い物は良い材料に手間暇を掛けて作っている。
詐欺にでも引っかからないいかぎりはたいてい美味い。
値段そのものが詐欺みたいに高かったりもするけど、そのへんは購入者の価値観しだいだろ。
ちなみになんでバレンタインにチョコをもらったことのないのに、どこでそんな高級品を食ったかなんてことは聞くな。
俺の生まれ育った国には『武士は食わねど
「幼き頃より、チヨコレイトの伝説は聞かされていたが、まさかこれほどまでとは……」
オモチから複製の複製が作れないせいで、バンガ家ではチョコを含むデザートは断絶されたらしい。
銃器の方は一族の屋台骨なので、初代が存命のうちにしっかり研究して再現できたそうだが、さすがにデザートまでは手も資金も回らなかったとか。
そんな理由で、チョコはおとぎ話同然の存在だったようだ。
そう聞くと、『ラピュタの存在を目の当たりにしたパズー』みたいに感動しているのにもうなずける。
「菓子食って涙目って、おまえ小学生かよ」
「うるさいっ、小学生がなにかは知らぬが、我はもう十三歳である。
子供扱いするな」
「
「ということはモーミンは十六歳なのであるな?
我とおなじくらいかと思っておったぞ」
「お互い様だ」
魔女との混血の影響というよりは、欧米系とアジア系の見た目の差なんだろう。
「そういやおまえ、こんなとこで暢気にチョコなんて食ってていいのか?」
「何故にだ?」
「いや、甲冑をオモチ道に落としちまったろ。
あれ下層まで一直線だぞ。ほっといて大丈夫なのか?」
「
あれは少々のことでは錆たりはせぬ」
「そうじゃなくて……アレって、おまえが操作してたんじゃないのか?
主がいなくなって暴走とかしないのか?」
甲冑の正体が他の
「そのことであるか。ならば問題はない。もともとあれを操っていたのは我ではないからな。
バレぬようこっそり指揮官を混ぜてある……って、いまの話は秘密であるからな! 誰にも言ってはならぬぞ!」
「ひょっとして褐色の美人さんが入ってたの?」
「チーチラは経理と資材管理を担当だ。
秘密と言いつつもヤミンズの口はユルユルである。
俺、間違えてウィスキーボンボンとか混ぜてないよな?
「ところでそのモモノスって女? 美人? だとしたらサイズは?」
あの大柄な甲冑を着込んでるあたり、体力自慢であるのはまちがいない。
見た目麗しい美女ってことはないと思うけど、俺はたった一%の可能性にもかける男だ。
しかし、解答を聞くよりも先に、何故かキュイから「メッ」をされて地面につっぷした。
……俺、なんか怒らせるような真似した?
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