第20話 再  会

 他に客のいない食堂で、隅のテーブルに陣取ると、軽い食事と子供でも飲めるものを注文。

 対価を受け取った店員が離れたところで、キュイと話をはじめる。


「どうして来ちゃったんだ?」

「……来たかった、から」


「そんな……」

「ダメ?」


 そりゃ駄目だろう。

 王族や大富豪の子を連れて歩くようなもんだ。


 素性がバレて狩人ハンターにでも狙われたら俺だけじゃ守りようがない。


 そう、理性は明確な回答を出している。

 でも、普段まじめな子の我がままは叶えてやりたい。


――そもそもここの治安ってどんなもんなんだ?


 開拓地を連想させる町並みからして、人権なんて言葉があるかも怪しい。

 魔女狩りも西部の開拓史も時期的に被ってるあたり不安要素増大。


 感情以外の情報が揃って彼女を『帰すべきだ』と告げている。


 それでもただひとつ無視できない条件がある。


 それは『キュイがひとりで街にこられる』ということだ。

 ここで無理に連れ帰っても再犯の恐れがある。


――大人の目を盗んで悪戯するのも成長の証なのかもしれないけど……。


 俺は大いに悩んだ末、『目の届かないところでやられるよりはマシ』と結論づけた。


 魔法さえ使わせなきゃバレないさ……たぶん。

 そう割り切り、運ばれた食事に手を伸ばそうとすると、再び予想外の声をかけられた。


「やぁ、久しぶり」


 そこに居たのは星界樹スターツリー内で遭遇した美男子――ソウジ・アレルヤだった。


 華奢な身体に、白地に青の飾りをつけた袴姿。

 薄茶の髪を耳が隠れる程度に伸ばした美男子。

 涼やかな顔立ちが女子にモテそうでムカつく。超ムカつく。


「気安く声かけてんじゃねーよ。男と貧乳にゃ用はないって言ったろ、ソウジ」

「キミこそ相変わらず失礼なやつだね、サルキチくん」


 俺のあいさつに育ちのよさの出た顔をわずかに歪める。

 こいつの顔が歪むのはちょっとだけ楽しい。


「それにしても、とうとうやってしまったのかい……」

「なんの話だ?」


「誘拐」

 自然ナチュラルにキュイを指さすソウジ。


「んなんじゃねぇ! 久しぶりに会ったのに酷い言い草だな!」

「それはお互い様だろ。で、実際のところどうなの? さっき不穏な声も聞こえたんだけど?」


 お姉様の罵声か。


「居候先の子だよ。

 嘘だと思うなら本人に確認しろ。名前はキュイだ」

「なるほど……」

 ソウジは腰を曲げ、キュイと視線を合わせると右手を差し出し、自己紹介する。


「僕はソウジ。よろしくねキュイちゃん。

 そこの怪しい男とは不本意ながら縁があってね、なにか変なことをされたらすぐに教えて。

 後腐れないようちゃんと首を落としてあげるから」


 だが、キュイは伸ばされた手に応えることなく、俺の後ろへと隠れてしまう。


「おや、嫌われちゃったかな?」

「それより、おまえこそどうしたんだ? 三十六階層に住んでんじゃないのか?」


「あそこには調査で一時的に居を構えていただけだよ。

 それにしても……キミの物知らずなのも相変わらずだね」

「なんの話だ?」


「僕は用事があって降りてきたんだ。

 ついでに集めたものを換金して、生活用品の補充もしていくけどね」


「へー」

「ついででよければ案内してあげようか?

 まるで街のことがわかってないんだろ」


「そっ、そんなことネーし」

 図星だが侮られない為にも、ここはあえて否定する。


「サルキチくんは馬鹿なクセに察しだけはいい。

 そのあたりはさすがは流民ワンダラーってとこだよね」


 誰かにも似たようなこと言われたな。


「で、キミは街を見ていて疑問に思ったんだろ?

 規模の割りに活気がないってさ」

「知ってるのか、理由?」


「あははっ、相変わらずウソも上手くない」

 しまったひっかけか。この野郎。


「むしろ知らない方が少数派だよ。

 僕だってわざわざ時期を合わせて降りてきたんだから」


「なにがあるんだ?」

「それは後のお楽しみ、ちなみに案内料はここの代金で融通してあげるよ」


 意味ありげな含み笑い。

 なにか企んではいるけど、たぶんそこに悪意はない。


「わかった、頼む」

「それじゃ、観光案内といきますか。

 あんまり余裕はないからさっさと食べちゃってくれるかい」

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