EX1 インターミッション①
深夜、キュイが熟睡しているのを確認すると、俺はこっそりベッドを抜け出す。
そして、ひとり静かに小屋へと移動した。
「ふぅ……」
あちらの家に新しい家具を作ったので、もともとの家具はこっちに戻してある。
棚の中から、隠しておいた縛られた生のオモチ四つを取り出す。
これはキュイに気づかれないよう、こっそり捕まえておいたものだ。
キュイの成長は順調で生活の質だって向上した。
我ながらスッゲー頑張ったと思う。
――それでもまだ帰れる見込みはない
俺が
毎日、美味い飯を食っちゃいるけど、人間はそれだけじゃ生きていけない。
特に俺のように健全な男子高校生には
とどのつまり、おっぱい不足が深刻になってきた。
いかに
そうならない為にも俺は行動しなければならない。
秘密裏にオモチを使うのは後ろめたい。
だけど、これはキュイの為なんだ。
俺はオモチを机に置くと、それをゆっくり、そして丹念に揉みはじめた。
モミモミモミモミ、モミモミモミモミ……………………。
モミモミモミモミ、モミモミモミモミ……………………。
モミモミモミモミ、モミモミモミモミ……………………。
気づくと至高のおっぱいを創りあげていた。
それは夢でも幻でもない紛れもない確かな現実。
薄肌色の泰山が質素な机に並んでいる。
推定Gカップ。
その魔性が描く曲線と圧倒的質量は胸を熱くたぎらせた。
先走った肉体の一部が机を下からつきあげる。
すると魅惑の果実はCMのプリンよりもなめらかに揺れ動いた。
――尊い、これは尊すぎる……。
その挙動のあまりの出来映えに涙があふれでそうだった。
――あとは感触を確認するだけ。
それが偽物じゃ意味がない。
ただし検証には正しい情報が必要になる。
――蘇れ我が古の記憶……。
そうあれは小学生の頃、移動教室で東北に行った時のことだった。
そこで行った牛の乳しぼりの感触は…………って、ちゃうっ!
それちゃうから!
もっとゴッツエエ記憶があったハズやっ!
鼻から大きく息を吸って肺にためる。
そしてたっぷり五秒数えてからゆっくり吐き出す。
それを繰り返すと俺はすっかりクールさを取り戻していた。
あれはまだ性に目覚める前、おっぱいの価値を知らぬ幼子だった頃の記憶。
泣き虫だった俺はその日も些細なことで泣いていた。
そんな俺をあやすように抱きあげてくれた保育士のお姉さん。彼女の愛情に抱き寄せられるとそれまで怖かったものが薄れ、安らぎを覚えるようになっていた。
既に彼女がどんな顔だったか覚えてない。名前もだ。
だがすべてを忘れた訳じゃない。
あの日、この手と顔が感じた温もりだけは海馬にしっかり刻まれている!
果たして俺の
――そうであって欲しい。
願いはするが不安は払拭できない。
それでも勇気を振り絞り結論へと手を伸ばす。
目的地まであと数ミリ……というところでガチャリと音がした。
背後で軋む扉を振り返ると、そこには翡翠を溶かし込んだような髪をした小さな魔女が立っていた。
魔女はソレに手を伸ばした俺を見上げ、無垢な碧眼で問いかける。
「なに、してるの?」と。
――ヤッヴァッイ、どうする!?
俺はとっさに
だが、このままじゃ見つかるのは時間の問題。
この
平気だよな?
ほら、銭湯で知らないおねーさんの胸を見たみたいなもんだし。
脳内で言い訳するも
そんな間にもキュイは小屋に踏み込んでくる。
「……サルキチ、なに、してる?」
キュイの問いに咄嗟に返せる言葉がない。
これは必要なものだと言い含めるか?
だが、ゴブメンが邪魔だ。さすがにこいつまで騙すのは無理がある。
だとしたら、だとしたら……、
「どうせ、ロクなことではありますまい」
「そっ、そんなことねーし」
反論する声がうわずった。
それでも罪を認めるわけにはいかない。
これは自分の為じゃない。
キュイのあこがれの兄貴像を壊さないため、これからもこの子を純真無垢に成長させるのに必要なことなんだ。
「彦田のことですから、なにか卑猥なものでも作っておったのでしょう。
キュイ様、目が汚れます。お部屋に戻りましょう。それと部屋の鍵は忘れぬように」
うっせ、バカやろう!
声帯もないクセに声だしてしゃべってるんじゃねぇ!
でも、そのまま撤収してくれるならありがたい。
キュイはしばしの沈黙を挟んだ後、ゴブメンの言葉に従って俺に背を向けた。
だが、それはこれまでの学習の成果だった。
相手を出し抜くには、油断させるのが最適だという……。
キュイは俊敏な動きで背後へと回り込み「あっ」と声をあげた。
そしてしばし考え込み答えを出す。
「……でっかいプリン?」
「あはは、見つかっちゃったな」
机の上にはキュイが言ったように巨大なプリンが二つ並んでいる。
もちろん元は
だが、出来上がってから間もなくなら俺でも作り替えは可能なのだ。
キュイにそれを気づかれないように最小の動きでそれを行った。
見られない状況で作り替えたので、本当に成功するかは賭だった。
実際プリンは元の形をだいぶ残したままだ。
「どうだい、美味しそうだろ?」
作り笑顔でたずねると、キュイは興奮気味にうなずいた。
「ほんとは、もうちょっとデコレーションを凝ろうかと思ったんだけど、喜んでくれたならうれしいよ」
プリンはすでに与えたことがあり、彼女の好物のひとつだ。
それを超ビッグサイズで作ったのだから、この興奮もうなずける。
「しまった、スプーンを作るのを忘れた」
「……とって、きゅる」
噛み気味に言い残し駆け足で部屋を出るキュイ。
俺はそれを確認すると、崩れ声を殺して泣き崩れた。
――あ゛っ、あ゛っ、あ゛あ゛あ゛ぁあ゛ぁあぁーーーーーーっ!!!!!!
折角作った至高の
どれほど嘆こうとも、こぼれたミルクが皿に戻ることはなかった……。
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