第18話 勝利の報酬
その日の夕食は
どうやら
それでも巨大な熊肉を全部は持っていけなかったらしく、結構な量が残されている。
近くに薪が組まれていたから、この場で焼いて食べるつもりだったんだろう。
悪いことをしたと思うけど、このまま放置していても腐らせるだけだ。
魔物の肉は栄養があるって話だし、これを機会に試してみるよう。
俺は彼らの用意した薪と熊肉の一部を接収し、五十七階層の家まで持っていくことにした。
それでも残した分は動物か魔物が処分してくれるだろう。
という訳で、久々に自炊である。
今までも自炊といえば自炊だったけど、オモチでの創作であって調理ではない。
しかも、野外なので無条件でテンションがあがる。
まぁ、野外と言っても
まずは
太い枝を平行に二本置いて、その中に火の付きやすい細かい枝を重ねていく。
火を
石に熱を込めているうちに、肉の下ごしらえに入る。
すでにブロック状になってる肉を贅沢な厚さに切り分けて塩を振る。
それが終わると、肉から脂身を切り分けて石の上に置いてみた。
すると白い塊は内包した油をドンドンと吐き出していく。
――火力は十分みたいだな。
確認が済むと、脂身を箸でつまんで満遍なく塗りたくる。
肉に胡椒を振ってから石の上に投入。
肉が焼ける香ばしい匂いがあたりに充満した。
俺は肉が焦げないよう注視する。
隣ではキュイも一緒になって肉を見つめている。
片面が焼けたところでひっくり返す。
続けて片面も焼くけど、こちらは軽く火を通す程度。
それが終わるとすぐに皿へと移してフタをした。
「なんじゃ、焼きたてを味わうのではないのか?」
「ふっ、
好みや焼き加減にもよるけど、肉は寝かせた方が断然美味い。
そもそもこの分厚い肉はまだ中まで火が通り切っていない。
それを余熱でちゃんとしたレア状態に変化させるのだ。
レア肉の神髄は完全な生ではなく、微かに加熱された状態にこそある。
また、肉を休ませずに切ると、肉汁がそのまま溢れてしまう。
それじゃ美味さも半減だ。
こうして時間をおくことで、肉汁を内部に浸透させ、そのまま美味しくいただくことができるのだ。
――さて、そろそろか?
フタを開けると、熊肉のステーキは良い具合に仕上がっていた。
味見も考えたが、最初のひと口は功労者に頼むべきだろう。
「姫様からどうぞ」
俺はわざとかしこまった言い回しで、ステーキの載った皿を献上した。
キュイがナイフとフォークで肉を切り分けると、中から鮮やかな赤がのぞける。
それを口に運ぶと硬くなっていた表情をまろやかにした。
「……美味、しい」
「そうかそうか」
調理した側も若干緊張していたんだけど、喜んで貰えて嬉しいかぎりだ。
念の為、ひと口分けてもらうと、ちゃんと美味しく焼き上がっていた。
熊肉って言うと、元の世界じゃ肉が固かったりクセがあったりと、あまり評価が高くないけど、オモチを食べて魔物になるとかなり肉質が変わるらしい。
先日作った和牛のステーキとはまたちがった趣がある。
野外効果が加わる分、むしろこっちの方が美味く思えた。
「それじゃ、残りも焼いちまうか」
自分の分を焼きはじめようと石の前に戻ろうとするけど、その袖をキュイが引く。
「……できる」
「ん?」
「キュイも、できる、から、焼く」
なるほど、確かに普段のオモチ調理とちがって、これなら石に置くだけだ。
タイミングだけ注意すればキュイにも焼けるだろう。
俺は彼女の心意気を買って、二枚目の調理を任せることにした。
キュイは石に油脂を塗りつけると、慎重に熊肉を置く。
肉に含まれた水分と加熱された油の反発にひるみつつも、なんとか火の前にとどまる。
そして、タイミングを見計らってひっくり返し、皿へと移す。
フタをしてしばらく待ち、両手で抱えた皿を俺へと差し出した。
「オージ、さま、どうぞ」
言い回しを真似ているところに苦笑を堪えながらも、キュイの初めての料理を素直にいただく。
ひっくり返す時にもたついたのが原因だろう、いささか焦げた部分が多く中にも火が通りすぎていた。
でも、野趣溢れるこの肉なら、少々ワイルドな焼き加減でも気にならない。
俺が「美味しいよ」と答えると、キュイの頭で成長の証が開花した。
どうやら、調理経験も彼女の成長の糧になったらしい。
「そういえば、でっかい相手との戦いも慣れたもんだったな」
残りの肉を焼きながらキュイにたずねる。
だが、実際は体格差を巧みに利用し優位を確立していた。
「あのね……」
そう言って、キュイは夜中に魔物を相手に練習していたことを教えてくれた。
部屋数が増えたせいで、この子が秘密特訓を続けてることに俺は気づかなかった。
見てないところでもちゃんと努力を続けてたんだな。
それを知ると、飲んだこともないビールを無性に飲んでみたい気分になった。
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