第17話 初 陣(後半)
緑のプチゴーレムが現場にたどり着いた時、まだ
ただ、二人の女性、
キュイは対象を別行動のふたりに定めると、プチゴーレムを忍び寄らせる。
そして、気づかれることなく近づくと、手にした槍でEの足を貫いた。
音声はないけどEが悲鳴をあげる様子が見える。
そこでまっさきに動いたのは初老の弓使いDだった。
Dは手にした弓を引くと、すぐさま矢を放つ。
手早い牽制かと思われたその一矢はしっかりとプチゴーレムめがけて飛来した。
されど矢は傾けた盾で受け流される。
続けざまに杖を掲げたFが呪文を唱えると、火球がプチゴーレムに襲いかかるが、魔力結晶であるオモチから作られたプチゴーレムは魔法に強い耐性がある。Fの放った火球はほとんど効果をあげなかった。
そこへ解体作業を中断した三人の戦士が到着する。
Aの姿は変わらぬ毛皮姿だが、BとCは作業のため鎧を外している。
自分の攻撃が効かないと悟ったFは負傷したEをひっぱり戦線を離脱。
すぐに応急処置をすれば大事には至らないだろう。
A~Cの前衛がキュイの操るプチゴーレムを囲む。
弓をつがえたDは小さな的を相手に迂闊に打ち込めず、離れて場所で周囲を警戒している様子だ。
――これでなんとか三対一
熟練の
位置どりを工夫している為、同士討ちにはならない。
だが、身体が小さく俊敏なプチゴーレムの相手はいかにもやりづらそうだ。
しかし、相手は歴戦の
不利な状況に陥っても冷静に対処し、なかなかボロをださない。
互いに決め手をかけたまま時間だけが経過していく。
プチゴーレムに変わりはなくとも、それを操作しているキュイからは疲労の色が見えていた。
ゴブメンと手袋を外し汗で額に張り付いた前髪を袖でぬぐっている。
無理もない。初陣で三対一。
抱えたトラウマだって払拭できちゃいないだろう。
だが、疲労した様子は
それが幸運をもたらした。
毛皮のAが指示を飛ばすと、BとCがプチゴーレムから慎重に距離をとりはじめた。
「一騎打ちか」
自由に動き回られるのはやっかいだけど、一人に集中できるならこちらにとっても好都合。
だが、
プチゴーレムの俊敏な槍攻撃を斧の柄でしっかり逸らしていく。
逆にこちらの隙をついてプチゴーレムに細かな傷を与えていく。
小さな傷でも重ねられると無視できないものになる。
次第に傷は深まり、緑の機体は満身創痍となった。
まだ動いちゃいるけど、このままじゃいずれ腕か足がもげるだろう。
俺はこれ以上は見てられないと、愛機である黒のプチゴーレムを取り出した。
このままいけば、キュイの敗北は確実。できれば嫌な想いはなるべくさせたくはない。
俺の操るプチゴーレムの活動範囲は狭い。
なんとか戦場近くまで走って、参戦するしかないだろう。
――見つかる危険がある?
――負けたってリスクはない?
だからなんだ。
キュイがこんだけ頑張ってるのに、師匠がなにもしないでいられるか。
しかし、走りだそうとした俺をキュイがとめた。
「サルキチ、大丈夫、だから……」
キュイは立体映像を見つめたまま戦い続ける。
緑のプチゴーレムは身を屈めてそれをやりすごす。
そして、大降りで体勢を崩した相手の隙に槍をねじ込もうとするが……それは戦闘巧者の張った罠だった。
Aは重量級の戦斧からすでに左手を離していた。
自由を得ていた左腕は弓を構えるように引かれている。
そして、自らの間合いに飛び込んできた獲物にその拳を力一杯叩きつけた。
受け止めた盾が割れ、軽量なプチゴーレムが大きく弾き跳ばされる。
とどめとばかりに弓兵Dが放った矢が半分になった盾に突き刺さった。
「これ以上はもう無理だ……」
いまので槍も失っているし、このまま戦っても勝機はない。
初陣は苦い経験になったが無駄ではない。
そう励まそうと、小さな肩に手を置く。
しかし、キュイは敗北を認めようとはしなかった。
まっすぐに指をあげ、立体映像に映し出された
俺は即座にその意味を悟った。
殴られるのと同時にやり返していたのだろう、
予想外の反撃に
――まだやる気なのか!?
できれば、命の奪い合いには発展させたくない。
――だったら、こっちから引くか?
俺が撤収を考えていると、そこに
二人の
緊張から解放され、その場に崩れそうになるキュイを慌てて支える。
「……勝った、よ」
キュイは弱々しく、それでもハッキリした口調で俺に告げた。
俺は「よくやった」と涙をこらえながらに言い、その頭をグシャグシャになるほどなでてやった。
地面に放り出されたままのゴブメンも涙ながらに勝利を絶讃する。
俺たちはただ
なのに、どうしてこんなにも心がグチャグチャになってるのか……自分でもよくわからない。
キュイがどうしてあんなにも勝利に固執したのかも。
負けず嫌いではあっても、好んで人間を傷つけようとする子じゃ決してないのに。
生身の人間相手だって怖かったハズだ。
でも俺は、そんな理由なんてどうでもよくって、弟子の勝利を考えなしに褒め続ける。
だって仕方ない、それは自分がゲームに勝つよよりもずっとずっとうれしかったんだから。
俺はいつまでもいつまでもその頭をなでてやる。
こんなことしかやれない自分が情けなかったけど、それでも彼女は髪型が崩れるのも構わず、それを受け入れ続けてくれてた。
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