第15話 免許皆伝

 室内には黒と緑、二体のプチゴーレムが投影されている。


 互いに丸めた新聞紙を振るい、頭上につけた相手の風船を狙いながらもかわしあう。

 対戦を繰り返すうちに向上したキュイの技術が俺を追いつめる。


 すでにゲームで身につけた秘技は出し尽くし、キュイの知らない技は残っちゃいない。

 フェイントも読まれ、動きで劣る黒のプチゴーレムは段々と追い込まれていく。


 それでも俺は、師匠としての意地を見せるべく奮闘する。

 盾を前に体当たりし、強引に相手のバランスを崩すことに成功した。


――チャンス!


 緑のプチゴーレムが倒れかけた瞬間、頭上に載せた風船めがけ新聞紙ぶきを振り下ろす。

 しかしそれはキュイの張った罠だった。


 体勢を崩したハズの機体が、その丸みを活かして大地を転がると攻撃をかわす。

 さらにその勢いを利用して即座に立ち上がると、手にした武器を振り下ろす。


 パンッ!


 破裂音が窓ガラスを抜けて届いた。

 眼前には風船を割られ、地面に倒れたままの自機が写し出されている。


 俺の完全敗北だ。


「……ふぅ、おめでとうキュイ」


 師を上回った愛弟子に、祝福の言葉を贈る。

 悔しくないと言ったら嘘になるが、それ以上に愛弟子の成長がうれしかった。


 相変わらずクールなキュイだが、それでも「ありがと」と言う姿はどこか誇らしげだ。


 ゴブメンもキュイの勝利を「おめでとうございます」と褒め称えている。

 こっちはすでに涙を浮かべるほど感激していた。


 でも、これで問題が解決したって訳じゃない。

 むしろ、これからが本番だ。


「それでどうする?」

 これからの方針を確認するためキュイにたずねる。


「どうとはなんじゃ?」

 おい、指導役おまえが忘れてどうすんだ。


「いまの風船割りゲームはあくまでも訓練だ。

 まだ本題が片づいてない」


 魔物を自在に操れる魔女に驚異になりえるのは、ソレを狩る狩人ハンターだ。

 すくなくとも、ソイツらから自分の身を守れるくらいの自衛力は必須だ。

 風船割りゲームじゃ、そこまでの力はついてない。


「まだしばらくはゲームで練習するか?

 あるいはここで満足して、終わりにするって選択肢もありだけど?」


 トラウマを引きずっているこの子に次の訓練はまだ早いかもしれない。

 だが、いずれは挑まなくちゃいけない課題だ。


 選択は本人に委ねる。


「……次の、練習、進む」

 キュイはたどたどしくも自らの意思を示し、期待に応えてくれた。

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