第13話 風呂りたい(前半)
「風呂りたい……」
「なんじゃいそれは?」
別に音にロリと入ってるからって、俺がロリコン化した訳じゃない。
俺の身体に溢れる日本人魂が、たっぷりのお湯に浸かることを求めているんだ。
これまでは濡らした布で身体を拭いていたけど、そろそろそれも限界っぽい。
この際、美乳なおねーちゃんとの混浴は据え置きにしてかまわないから、誰か俺を風呂らせてくれ!
ちなみに服はオモチで作った私服に替え、時々はちゃんと洗濯をしてる。
一時は勝手にパンツが動いてるような気もしたけど……たぶんきっと錯覚。
それはともかく風呂だ。風呂。
浴槽を作るのは簡単。
なんといっても万能素材オモチがある。
家を建てるよりずっと楽だろう。
――だがお湯をどうする?
これもオモチで解決できるんだけど……オモチは魔物を生み出す源で、
キュイの為ならいざしらず、自分の風呂に浪費すると思うと若干後ろめたい。
というわけで、なるべくオモチを消費しないでお湯を沸かせる設備を用意したいのだが……電気もガスも通ってない場所でお湯を沸かすにはどうすればいい?
簡単なのはやっぱり火をつけることだろう。
薪を集めて燃やし、それで沸かすのが手っ取り早い。
でも
この階層には生えている木も少ないので、枝を拾い集めるにも限りがある。
「やっぱり無難なのはあれだろうな」
考えをまとめると早速作業に入る。
家に浴室は用意してないので野外に作ることになった。
どうせ上層なら誰かに見られる心配ないし、いっか。
モミモミモミモミ、モミモミモミモミ……………………。
「できた」
「……でっかい鏡?」
作ったばかりのソレを見てキュイがたずねる。
六畳ほどある大パネルは、確かに鏡に見えないこともない。
でも、残念ながら正答は他にある。
「正解は太陽熱温水器だ」
「……?」
「光を集めて、お湯を沸かすんだよ」
この世界の恒星がなんて名前かは知らないけど、光が入ってるくるならこれは使えるハズ。
風力や水力による発電も考えなくはなかったけど、
そもそも『電気→熱』の切り替えはロスが大きいイメージがある。
石炭や灯油もオモチから生成したんじゃ意味がない。
そんな感じに消去法で残ったのが太陽熱温水器だ。
まぁ、なんとなく簡単そうに思えたってのが理由の大半を占めるけど。
「上手くいくといいんだけどな」
あらかじめ水を張っておいた浴槽にパイプをつなげる。
ソーラーパネルに繋がった水を温め、それを浴槽の水と循環させるのだ。
ちなみに水は小川からプチゴーレムで運ぶつもりだったけど、キュイが
予定外に大仰なことになったけど、とにかく準備は完了。
あとは風呂が焚けるのを待つだけだ。
夕暮れ時――。
「う~ん、温かくはなってるんだけどな……」
湯の塩梅を確かめようと手を沈めたものの結果は残念なものに終わった。
上の方はそれなりに温まってるけど、中は体温よりも低い。
これでも入れなくはないだろうけど、気持ちよくない。
設置してから既に結構な時間が経ってるし、すでに天井も暗くなりはじめている。
これ以上時間をかけても無駄か。
これっぽっちしか温かくならないなら、ちょっとやそっとパネルを拡大したくらいじゃ駄目だろうな。
草木の発育が悪い時点でこの結果は想定しておくべきだったか。
「ん~、どうしたもんかな」
◆
翌朝――。
オモチで作った自転車にまたがると両足に力を込めペダルをこぎはじめる。
未舗装どころか、アップダウンのある草原はメチャメチャ走り難い。
それでも頑張れば進めないことはない。
「サルキチ、大丈夫?」
「平気、楽勝、問題ナッシング!」
後ろに乗せたキュイに強がると、スピードをあげてみせる。
「キュイこそ、怖くないか?」
「ヘイキ、ラクショ、モンダイ、なっしんぐ」
返事を確認してひたすら目的地へとペダルを回す。
目的地は
ちなみに『魔物に乗れば良かったろうに』というのは、自転車を作り終えたあとのゴブメンの台詞だった……。
小さな旅が終わりを迎える頃には俺は汗だくになっていた。
だがその巨大な壁は城壁を想像させるほど重厚だった。
キュイの案内に従い、暗い秘密の抜け穴へと四つん這いで入る。
迷宮のように分岐し曲がりくねっている。
「そっち、オモチ道」
「おおう!?」
他のルートはどうなってるのかのぞいたらキュイから注意された。
また落とされたらたまったもんじゃない。
いきなりの光量差に目がくらむけど、しだいに馴れてくる。
最初に見えたのは澄んだ青空だった。
「これが
中に比べると光が強く、緑の匂いも種類がちがう。
直接日光が当たらないのは、巨大な葉が上空を生い茂っているせいだ。
おなじ理由で上空の見通しも悪い。
穴から出ると太くしっかりとした枝へと移動する。
丈夫な枝は俺がのってもゆらぐ素振りすらみせない。
下を見るけど、現実感のない高さは高所による恐怖を麻痺させていた。
枝と枝の間から大地とそこに作られた街が見える。
詳細まではわからないけど、なんとなく人が暮らしてるのが感じられた。
「ほんとに人間が住んでるんだな……」
遠くに見える人々の暮らしに俺は見入ってしまう。
キュイは珍しくもないのか、ひょいひょいと枝を渡り歩きゴブメンのありもしない肝を冷やさせている。
――本当なら、俺はアッチ側なんだろうな
本来の目的も忘れて、俺はしばらくその様子をながめていた。
本来の目的……って言うとかっこいいが、そんなたいしたものじゃない。
単に
直射日光が当たる場所なら、当然太陽熱温水器の効率はあがる。
けど風呂の度にここまでくるのはさすがに面倒だ。
せっかく汗を流しても復路で汗をかいてちゃ意味がない。
湯を通すパイプを引いたとしても途中で冷めるのが目に見えている。
そもそもとして、生い茂った葉がじゃまで直射日光が当たる場所すら見あたらない。
無駄足覚悟できてはみたんだけど……本当になにも思い浮かばない。
ただ、遠くに見える人たちの営みをながめるだけ。
そういえば
日本にいた頃は友達は多かったから、ちょっとだけ寂しくも思う。
そうしてるうちに、入射角の浅くなった日光があたりを赤色に染める。
「すっげー」
木々の葉までも赤く染める日差しに思わず声が漏れた。
夕焼けの手前には大地の終わりが見える。
そこが
さらにその向こうには他のプランターの陰。
ソウジから教わった名前はいくつも覚えちゃいない。
向こうからもこっちが見えてるんだろうか?
「……夕焼け?」
自分の肌にかかる赤い光を不思議そうに見ている。
「キュイ様、そろそろ戻らねば暗くなりますぞ」
ゴブメンの指摘に後ろ髪を引かれながらも
夜だからといって、なにか危ないことが起こるわけじゃない。
ただ、キュイとゴブメンは夜目が利くけど、運転手兼動力源である俺の目は闇を見通せないのだ。
実際、帰路の途中で暗闇に捕まり、急遽オモチで光源を作ったものの、広域をカバーするには至らず何度もスッころぶ羽目になった。
キュイに怪我がないか心配をしたけど、本人はアトラクションでも楽しむかのように笑っていた。
途中から俺も笑いながら転んだ。
ゴブメンだけがキュイが怪我をしたらどうするんだとツバを飛ばしていたけど気にしなかった。
ちなみに、その日の夕食は疲労回復の為にも豪華にした。
肉厚の和牛ステーキだ。
甘みある脂がたっぷりのったステーキは、見事にキュイを満足させ、成長の証を開花させることができた。
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