第12話 猿吉の冒険(後半)
ソウジの説明通りたどり着いた木柱の根元には穴が空いていた。
草で隠れてたから、知らなきゃまた落ちていたかもしれない。
そして、木柱の向こうには背の高い草むらがあった。
そこを抜けると長いのぼり坂がはじまる。
獣道じみたのぼり坂は足腰に堪えた。
ここが三十六階層と三十七階層の間だから、五十七階層まで二十階層ものぼらなきゃならないのか。
それまでには見つけてもらえると思うけど……なるべく早いといいな。
そんなことを考えていると、ようやく三十七階層へとたどり着く。
そこで俺を待ち構えてきたのは巨大なムカデだった。
どれだけデカいかと言うと、昔話に出てきて村人に生贄を要求してきそうなくらい。
俺に気づいた巨大ムカデは鎌首をこちらへと向けた。
無機質な昆虫の瞳が俺を捕らえる。
――死んだ。俺人生第一部完。
――第二部は来世までおまちください。
――待てるかワレ!
脳内俺がリアクションのデカいコントをしても、現実には一切影響ない。
拷問器具みたいに大仰な顎がゆっくりと近づいてくる。
すでに腰が抜けてて動くことすらままならなかった。
そして……、
「サルキチ」と俺の名を呼んだ。
…………え?
「帰ろ」
「……ひょっとしてキュイ?」
「うん」
その返事を聞いて俺は脱力した。
やっぱり向こうでも俺を探してくれていたらしい。
「でも、運良く会えてよかったよ」
「契約、あるから」
「あっ」
オデコにつけられた紋様のことを思い出す。
キュイが命じないと浮かんでこないけど、隠れたままでも俺の位置くらいはわかるのか。
そういえばこれも魔法だった。
上層へはそのままムカデの頭に乗って送られた。
ムカデは無数の足を蛇腹のように動かして走る。
時にムカデに驚いた動物や他の魔物までも恐慌に陥り逃げていく。
おなじ魔物だからって仲間って訳じゃないみたいだ。
アライグマがおっぱいを食べてたことを思えば、魔物同士の食い合いだってあるのかも……恐ろしい。
「昆虫もオモチを食べるんだな」
普通のムカデとバレーボール大のオモチとではかなりのサイズ差がある。
いくらなんでも無茶な気がするんだが……。
「虫を魔物にするのは、オモチの中、入れるの。
動物より、頭悪い。けど貪欲だから、強くなるって」
なるほど、一度魔物化して大きくなれば、そのあとはオモチも魔物も取り放題になるのか。
それでドンドン巨大化していくと。
考案者はゴブメンか? 怖いこと考えるな。
そういえばあいつってキュイより物知りで教育係なイメージがあるけど……キュイが作ったのか?
「ねぇ、サルキチ……」
「なに?」
「なんか、濡れてない?」
「ああ、朝露に濡れたかな?」
「…………そう」
気づかないでくれたのか、あるいは気づかぬフリをしてくれたのか、キュイはそれ以上俺のズボンが濡れているのを追求しないでくれた。
願わくば前者であってほしい!
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