第10話 夢の新築一戸建て
「完成だ……」
キュイに拾われてから一ヶ月ほど経過した頃……俺はそれまで住んでいた小屋の側に新しい家を建てた。
十メートルと離れてちゃないけど、それでも立派な新築だ。
ここに永住する気なんてないけど、新しい
素材はもちろんオモチだ。
バレーボール大のオモチはある程度の拡大縮小はできるが限界はある。
大量のオモチを使っても家ほど大きなもんは作れない。
なので、壁や屋根のパーツを個別に作り溜めて、今日ようやく組みあげたのだ。
平屋建ての3LDK。
土地がないわけじゃないから、無理に二階建てにする必要はない。
実質、俺とキュイの二人暮らしだし、部屋数だってそんなには要らない。
足りなくなったら増築をすればいいだけの話だし。
「当然、儂らも住んでもかまわないのじゃろ?」
「ああ」
ゴブメンに許可を出すのは釈然としなかったけど、それを頭に載せているキュイをぞんざいに扱う気はない。
そもそも提供されたオモチで建てたのに、その相手を住ませないとか俺は悪いヒモか!?
「んじゃ、引っ越しをはじめるか」
家にオモチを大量投入したせいで、さすがに家具までは手が回っていない。
よってしばらくは小屋の家具を使いまわす方針だ。
ゴーレムをコントローラーで操作しながらベッドを運ぶ。
訓練用に作ったやつだけど、小柄なわりにパワフルで便利だ。
だけど俺はこの時になってようやく気づいた。
――ベッドが出せない
他の家具はかろうじて扉を通るけど、室内で作ったキングサイズのベッドだけはどうみても無理だ。
小屋の出入り口を壊したとしても、新居の玄関が通れない。
このベッドの寝心地は快適だ。
いまさら普通のベッドに戻りたくはない。
かといって新たに作り直す余裕もまたない。
――家をバラして組み立て直すか?
それは面倒だし、せっかくの完成品を初日からバラすとか縁起が悪い。
そんなことを考えてると、キュイがどこからともなくゴーレムを呼びよせた。
緑のプチゴーレムじゃなくておっかない四つ手の刀持ちの方。
ゴーレムは視認できないほどの早さで剣を振るうとあっさりと壁を切り開いて出入口を拡張させた。
「わ~お、キュイちゃんってばワイルドだね」
「……?」
小首をかしげられた。
通販のアメリカ人みたいな台詞は異世界人には通じないらしい……あたりまえか。
「でも新しい家の方はどうするつもりだい?
玄関拡張しちゃうの?」
「えっと……」
キュイはどう答えを言語化するかしばし悩んで、結局行動で示した。
コントローラーで操作しプチゴーレムでベッドを受け取るとそれを運ぶ。
すると玄関が自動的に広がった。
「!?」
突然のことで驚いたけど、思い出してみれば玩具を作った時もクレヨンを作った時も勝手に動いてたっけ。
「……それができるなら、ベッドを変えれば良かったんじゃ?」
それなら小屋を壊す必要もなかった。
「オモチで作られた物が再成形できる時間には制限があるのじゃ。
物にもよるが、ベッドは随分と使い込んだからの。既に魔力は失せ、形は固定されておる」
「なるほどね」
「……サルキチ、ベッド、どこに置く?」
キュイの問いかけに、俺は自分用と決めた部屋に誘導する。
実働はゴーレムがしてるとはいえ、小さい子にばかり働かせちゃいけない。
俺も残りの家具の運搬を急いだ。
ちなみに築一〇〇年越えの小屋は、それはそれで愛着があるらしい。
壊した箇所はしっかりオモチを使って修繕した。
雨風に晒されるわけじゃないから、これでまだ当分は使えるだろう。
新築祝いってことで夕食にはケーキをホールで用意した。
純白の円柱に生クリームの飾り、他にもたくさんの装飾が載せられた高級感あふれるケーキだ。
中央に『メリークリスマス』って書かれたプレートがあるのはご愛敬だけど。
こういう祝い事にはホールケーキが欲しかった。
けど、男がホールでケーキを食うような機会はクリスマス以外にまずない。
うんと子供の頃に誕生日ケーキくらいは食ってたかもしれないけど……とにかく他に良いケーキを思いつかなかったのだ。
そんな俺のケーキ史はともかく……、
「いっただきま~す♪」
「いただき、ます」
受け皿に取り分けたケーキをフォークで口に運ぶ。
――うん美味い。
スポンジに挟まれたたくさんの果実の味わいが口いっぱいに広がる。
高い金を出して食っただけはある。
あまりの美味さに笑顔がこぼれるが、となりではキュイが硬直していた。
一瞬、「フルーツ系はあわなかったか?」と動揺したが、そうではなかった。
表情が緩やかに溶け出したかと思ったら、これまでないほどに大きな成長の花を自らの頭上に咲き輝やかせた。
パンケーキを与えた時も開花させてたから、今度も成功すると予測していたけど……想像以上の反応だ。
すると、ゴゴゴゴゴッと音とともに小屋がゆれた。
いや、ゆれているのは小屋だけじゃなく
「地震!?」
すぐにキュイをテーブル下に避難させようとするが、ゴブメンは必要ないと俺をとめた。
実際、ゆれはすぐに収まり、被害というほどのものはなかった。
キュイも別段気にした様子はない。
「なんだ、いまの?」
「キュイ様に影響され、
階層も増えこれで六〇階層かの?」
「五十七」
訂正するキュイの身体も変化を遂げていた。
これまで少しずつ伸びていた髪の毛が、肩甲骨のあたりを隠している。
完成感ある顔つきはあまり変わってないけど、手足が伸びてて着ているワンピースもツヤツヤでドレスのような高級感が出てきた。
成長したした彼女を見てると、なんだか無性に胸にこみ上げてくるものがあった。
成長したって言ってもまだ一~二歳増えたくらいで、人間なら中学生にもならない。
背だってそんなに高くはない。
でもオモチの生産量も増加し、いまでは一度に十個以上を普通に産み出している。
このままの成長していけば、俺が元の世界に帰れる日もそう遠くはないだろう。
その日が待ち遠しいのは間違いない。
でも、それは『別れの日』が近づいているってことだ。
成長したキュイを見ていたら急激にそれを実感した。
その時、この子は顔をするんだろう?
「……サルキチ、どう、したの?」
急に黙った俺を不審に思ったのかキュイが裾を引く。
俺は「なんでもない」と応えると、馬鹿みたいに騒いでそれを有耶無耶にした。
いつかという日は今日明日のことじゃない。
いまからしんみりしてどうする。
別れが辛いってんなら、それも糧にさせればいいんだ。
そうだ、それがいい……。
◆
「けっこう楽しかったな」
二人と一枚との馬鹿騒ぎを終えると、俺は自室に置いたベッドに横になる。
キュイに拾われたのが幸運だったんだろう。
オモチから作る料理に失敗はなく、どれもが極上だ。
足りない物もオモチから作れるし、こうして立派な家まで建てられた。
経験を積ませるって言っても、ほとんど一緒になって遊んでるようなもの。
当のキュイも素直で賢くて可愛い。
ロリコンに目覚めた訳じゃないけど、妹みたいには思っている。
たまには命の危機を感じることもあるけど、それでもなんだかんだで
ただ……それでも足りないものは確かにある。
――
いまごろ豚田のやつは文化祭でメイド喫茶をやる為に奔走してるんだろうな。
水花美織先生は俺が突然いなくなってどうしてるんだ?
あの人、ハイレベルなSだけど、だからこそ鞭以外にも飴も使い分けられる。
心配はしてくれるだろうけど……さすがに異世界までは探しにはこられないよな。
郷愁というほどセンチメンタルな気分じゃないけど、遠く離れた日常が妙に恋しかった。
さて、それよりも……、
すでに外は暗い。キュイも騒いで疲れただろうし、そろそろ頃合いだろう。
手元のランプ(オモチ製)を操作して明かりをしぼると、俺はガチャガチャとベルトを外した。
腰を浮かせズボンもおろす。
「念願のひとり部屋だ」
男子高校生にとって一人の時間が大切であることは説明する必要はあるまい。
これまでは隣に小さな子がいるからと自粛していたが、これからは誰にも干渉されることなく
生憎とオカズは用意できなかったので脳内フォルダを再生させた。
鮮明に残っているのは水花先生の記憶だ。
やはり巨乳が海馬に与える刺激は他の何物をも圧倒する。
スーツをきっちり着込んだ水花先生は、全然露出なんてないクセに卑怯なほどエロい。
学校という健全な空間にあのアダルトな人材が存在してるのは本当に合法なのだろうか?
普段は派手なスーツで着飾っても、TPOに合わせてお堅いスーツ健全を着てる日もある。
前者も捨てがたいが、俺はむしろ後者の方が好きだ。
なんと言っても健全と不健全の相反する組み合わせが秘められたエロスをより深く熟成させている。
俺の先生への想いはもうひとつの意志をムクりと目覚めさせた。
――準備はいいぜ
意識を得た分身は元気いっぱいに告げていた。
互いの結束を確かめようと手を伸ばそうとした瞬間、『ガチャリ』と音がした。
反射的にズボンを戻し、慌てて背後を向くと扉が開いている。
そこには
ちなみに制作者は俺。
「キュイさん? あの、どうしたの……かな?」
「片づけ終わったから」
そうか「明日にしよう」って言っておいたのにやって置いてくれたのか、偉いね。
でも……、
「扉を開けるときはノックをしよう?」
これまで部屋割りのない小屋暮らしだったから、そういう習慣がなかったんだろうな。
「…………気を、つける」
「それと、ここがどこかわかってる?」
「うん、寝室……寝る為、の部屋」
眠そうにゴブメンを壁にかけると、いつもと同じようにベッドにあがり込んだ。
そこで体力の限界が訪れたのか、そこでスヤスヤと寝付いてしまう。
――おお神よ、貴方はここ俺に試練を与えるつもりなのか!?
「……はぁ」
考えてみれば、俺がくる前に使っていたベッドは運び込んだ覚えがない。
キュイがここに寝にくるのも当然と言える。
畜生、小さな子のすぐ近くでハアハアなんてできるわけがないだろ。
俺は未練を残しながらもベッドに入った。
個室が欲しくて用意したのに、俺はここでもひとりの時間をあきらめなきゃならないのか……。
「なんか、すまんのう」
「うっせぇ!」
心底同情したようなゴブメンの気遣いは、逆に俺の心をささくれ立たせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます