第9話 戦う魔女(後半)
「それじゃ、新しい遊びをはじめるか」
戦闘訓練を終わりにして気分を切り替える。
俺はキュイにオモチを出してもらうと、それを捕まえていくつかの道具を作った。
白をベースにしたアナログ感のあふれるゲーム機と、無線でつながるコントローラー。
それからディスプレイ代わりの投影機。
投影機を稼働させると、小屋の外に立たせた二体の人影が立体映像で映し出される。
――まずは成功
草原に立たせているのは黒と緑の二体のゴーレム。
俺が対戦したやつとはちがって、デフォルメ化した騎士でかっこかわいさを重視している。
サイズはオモチ三個分で言わばプチゴーレムだ。
オモチの数が少ない分だけ戦闘力も落ちるが、練習用なので別に構わない。
左手には
そして頭には風船が付けてある。
ようするに、これからこのプチゴーレムで風船割りゲームをしようというのだ。
小屋の中に投影されたゴーレムを見ながら慣らし運転をはじめる。
遠近感をつかむために立体映像にしたけど、結局は画面越しなので平面よりはマシといった程度だ。
コントローラーはちゃんと機能している。
俺でもゴーレムを動かせるように黒い機体には俺の髪の毛を埋め込んである。
キュイはコントローラーなしでも直接操作できるけど、今回は遊びってことで俺に合わせさせている。
遊びを強調するのは、キュイに戦闘を意識させない為だ。
――にしても……、
自作のゴーレムが自在に動く姿を見ているとそれだけでワクワクしてくる。
目的が別にあるとはいえ、自在に動かせる人型のロボットだぞ?
男子としてこれ以上楽しい遊びなんてそうそうありゃしない。
「相手の風船を割ったほうが勝ち、いいな?」
ルールを確認するとキュイがうなずく。
そして、ゴブメンが開始の合図を出すと、俺たちはともにゴーレムを動かしはじめる。
緑のゴーレムは想定以上の速度で駆け寄ってきた。
やはりおなじ機体をおなじ方法であやつっても、魔女の方が効率よく動かせるようだ。
だが、そこは想定内。
問題なのは、まだ迷いが感じられるところだ。
――ここまでしても躊躇うのか。
彼女の優しさを好ましく想いながらも、俺は冷酷にゴーレムを操る。
相手の新聞紙を受けとめた盾で無理矢理押し込み、相手の体勢を崩す。
慌てて立て直そうとするキュイだがそんな暇は与えない。
すかさず追撃を加え、反撃どころかまともに立たせることすら許さない。
その気になれば風船を割るのは一瞬。
だが決着を後回しにしていたぶり回す。
キュイは自分の機体の方が強いのに、どうして劣勢を強いられ続けているのか理解できていない。
となりで動揺してるのが丸わかりだ。
俺は三分ほどもて遊んでから風船を割る。
窓越しに『パン』という破裂音が届いた。
決着がついたのを確認するとゴブメンが勝敗を告げる。
「勝者、彦田じゃ」
「いよっしゃ!」
オーバーなくらいのガッツポーズをとると、キュイの様子をのぞきみる。
「ふふふっ、やっぱ俺の相手は早すぎたかな?
まだキュイちゃんちっちゃいもんね~。ぷぷぷぷぷっ」
「…………もう、一回」
俺の挑発に簡単にキュイは乗ってきた。
「だったら、ルールは教えたよな?」
キュイはうなずくと近くにおいてあったゴム風船を手にとる。
呼気で膨らませると、それを手に外へと走った。
小屋の外ではプチゴーレムとは別に置かれた、カメラ役のオモチがキュイが、風船を付け直す姿を中継している。
それが終わるとすかさず走って戻りコントローラーを握った。
息が乱れたままだけど、再戦の意思があるのは明白だった。
「二回戦開始じゃ」
キュイ機の動きは初戦に比べてさらにスピードを増していた。
こちらと比較するとチートくさいほどだ。
それでも俺は相手の動きを先読みし、緻密な動きで相手の体勢を崩し、決して自由を与えることなく風船を叩き割った。
屈辱的な連敗にキュイの口が『へ』の字に曲がる。
単に動きに差があるくらいじゃ俺は負けない。
攻撃手段が限定されてるから、動きが速くても行動は読みやすい。
逆に攻撃する際には相手がかわせない状態に追い込んでから当てる。
これなら性能差も問題にならない。
これはエロ友である豚田との対戦で研鑽したゲーム技術だ。
互いの少ない小遣いで共同購入するエロ本の選択権をかけた真剣勝負を、俺は幾度となくヤツと繰り返した。
非合法な手段でDVDを購入するのに、どちらの家に届けるかで勝負したこともある。
キュイとは重ねてきた熱意と練習量が圧倒的にちがう。
これは生半可なことじゃ覆らない。
「よし、今日はこんくらいにしておいて、そろそろ夕食の準備しようぜ。
今晩はどんなもん食いたい?」
「もう、一回」
「え~、でも、弱いものイジメとかかっこわるいしな~」
「もう、一回っ」
そう宣言すると返事も待たずに、風船を膨らませ自機のもとへと走っていく。
強引に三回戦へと持ち込む姿はワガママだけど好ましい。
「おヌシ、もうすこし加減をしたらどうじゃ?
ここでまたヤル気をなくされては元も子もあるまい」
「そうだな、それが年長者の気配りってやつなんだろうな」
「だったら……」
「断る!
俺は昔っからそういう上から目線の行動をされるのが大嫌いだ。
子供だからって手加減され、負けても悔しがらないような戦いをする大人なんて相手してても面白くない!」
どっちが遊んでやってるんだって話だ。
それに自分が真面目にやってる時ほど、手加減されることに腹が立つものはない。
実力で勝ちたいと願ってる者に勝ちを恵むのはむしろ侮辱だ。
「ここでキュイが泣いても俺はやめない。
彼女が本気で挑んでくるうちはなっ!」
「ようするにおヌシも子供なんじゃな」
その後、幾度となくキュイは風船をつけに走ったが、日がとっぷり暮れても俺が風船をつけにいくことはなかった。
「おヌシ、すでに本題を忘れてるじゃろ?」
「はっ、いや、うん、そんなことないぞ?」
そう誤魔化したけど、キュイの目尻に光るものが見えた。
――ひょっとして俺、あの子に新たなトラウマ植えつけてね?
元の世界に帰るにはキュイの協力が絶対不可欠。
不興を放置するのどう考えても得策じゃない。
せめてもの詫びにと、夕食に新作デザートのプリンをつけたのだけど、キュイはそれに手を伸ばそうとすらしなかった。
――こりゃ戦闘訓練はとうぶんやめたほうが良いな。
その晩、ベッドで寝ていた俺はカチャカチャという音が気になり目を覚ました。
暗い部屋の片隅ではプチゴーレムが動く姿が映し出されている。
コントローラーを手にしたキュイが無言でそれを見つめていた。
――秘密特訓か
どうやらこの子はまだ俺に勝つことをあきらめてはいないらしい。
プリンを拒んだのも、負けたままのご褒美を貰うのが嫌だったのかも。
この遊びがトラウマの改善に影響するかはわからない。
けど、ゴーレムの操作についてはちゃんと関心を持ったらしい。
俺は音に背中を向けると、いつかくるであろう自分の敗北を期待し、静かにまぶたを閉じた。
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