第6話 魔女との楽しい生活?(その3 ベッド)

 その日の夕食にはオモチでうどんを二杯作った。


 俺の丼は大きめにしてキュイの丼は小さめ。


 魔女に食事が必要なくても、育ち盛りの男子高校生には一日三食は必要だ。

 かといって、子供の見てる前で一人で食ってるのは虐待みたいで気分が悪い。


 ゴブメンから『食事による成長は一日一回』と条件を出されてるのもあって、今回は同じメニューにしてみた。


 新メニューだから成長するとか、同じメニューなら成長しないとかわかってた訳じゃない。

 けど推測は正しく、美味そうにうどんをすすってもキュイが成長の証を開花させなかった。


――にしても、物覚えの早い子だな


 すでに小さな手は器用に割り箸を使っている。

 犬食いなんて下品なことはしちゃいない。


――それでもひとりじゃわかんないことはあるよな


 俺は自前のハンカチを取り出すと汚れた口元を拭ってやった。


「ん……、あり、がと」

「どういたしまして」


 小さな女の子に特別な感情なんて抱いちゃいないけど、素直にお礼を言われるとなんだかくすぐったい。


「そういや、ゴブメンと会うまえにでっかいアライグマに襲われたんだけど、あれなに?」

「魔物じゃな」

 やっぱ、そういう普通に危ない生き物はいるのか。


「オモチを食べ、性質が変化した動物のことを魔物と呼ぶのじゃ。

 魔物は凶暴じゃが、魔女であられるキュイ様には自在に操れる。

 それにこの階層には、ほとんどおらんから安心せい」


 ゴブメンは自慢げに言ったけど、いまのはちょっと聞き捨てならない。


「おい、オモチを食べた動物が魔物になるってことは……人間おれがオモチ食っても平気なのか?」

「そのまま食べなければまず大丈夫じゃ。現におヌシの身体に変化はあるまい?」


「ホントだろうな?」

 あとから腹を食い破った宇宙生物が出てくるとかやめてくれよ?


「オモチが星界樹で作られた魔力のであることは話したな。

 じゃが魔力を作りだせるのは星界樹だけではない。

 個人差はあるが人間も体内で魔力を作っておる。少々外から魔力を入れた程度では魔物化はせぬよ」


 説明に納得しかけたけど、ゴブメンは「じゃが……」と補足する。


「体質上、魔物化しやすい人間というのはおるかもしれんな。

 さておヌシはどうかな、彦田猿吉よ」


 流行病を予言する悪い魔女のような言葉に不安がこみあげる。


 でも、ソレはあっさり解消された。


 詳細な説明をされたわけじゃない。

 キュイからたったひと言「大丈夫」と言われただけだ。


 そこにどんな根拠があったかわからない。

 それでも小さな魔女の保証は、何故だか信頼できると思えた。


         ◆


「さて、どこで寝るかな?」

 昨日はキュイのベッドを占領しちゃったけど、そんなことを繰り返せるわけがない。


 気候が穏やかなんで毛布一枚もあれば十分な気がするけど……まだ疲れてるし、やっぱりちゃんとした寝床に就きたい。


 それにどれだけ滞在するかは不明だけど、今日明日ってことはまずない。

 なら、生活道具はそろえておいて損はないだろ。


 俺はキュイにオモチの供給を頼むとベッドを作りはじめる。

 小さな玩具を作るときはひとつで複数のものを作れたけど、逆に大きなものを作るときは複数のオモチをまとめて揉む必要があった。



 モミモミモミモミ、モミモミモミモミ……………………。

 モミモミモミモミ、モミモミモミモミ……………………。



「ちょっとやりすぎたかな?」

 完成したベッドを見ていささか反省する。


 どうせ作るなら立派なものをとは思ったけど、さすがにキングサイズはやりすぎたかも。

 粗末な小屋にいかにも高級なベッドはかなり場違いだ。

 でも、身体をそこに載せると後悔はあっさり消え失せた。


――お高いベッド最高、天使にでも抱えられてる気分だ。


 以前、家具屋で試用した最高級ベッドを再現したのは正解だった。

 ただ横になっているだけで疲れを癒やしてくれる。


 そのまま眠ってしまいたかったけど、かろうじてそれを堪えた。

 上半身を起こして、ジッとこちらに視線を送っているキュイに「なに?」とたずねる。


 素朴な寝間着に着替えたキュイは、『なんでもない』と言いたげに首を左右に振った。


――そういや、うどんの時もそうだったな


 この子は星界樹スターツリーの化身(てのはピンとこないけど)で、植木鉢の人たち(そういやまだ遭ったことないな)にとって大切な存在だ。

 明確な地位とか持ってる訳じゃなくても、なんとなく偉いのはわかる。

 なのに、自分からは欲求を口にしようとはしない。


 元からそういう性格なのか、一緒にいるゴブメンがそう教育したのか、あるいは単純にお願いの仕方を知らないのか……。


 それはともかく、キュイを粗末なベッドに寝かせて、居候の俺が高級ベッドを独占するのはさすがに後ろめたい。


 『女の子と一緒に寝る』ってフレーズは少々犯罪チックだけど『相手は小さな子』と割り切ることにした。

 むしろここで拒んだら異性として意識してるみたいで逆に変態っぽい。


 巨乳おっぱい大好きな俺はまったくもって少女愛好家ロリコンなんかじゃない。

 江の島神社の弁天様にだって誓える。


 この判断にはゴブメンがギャーギャーと騒いだけど、壁に反対向きでかけ、上から外套をかけると少しだけ静かになった。


 俺がベッドへ戻ると、キュイはすでに寝息を小さく立てていた。

 耳元近くで、寝息を聞いているとすぐに眠気が伝染してきた。


――そういえば……


 ベッドを作る時、キュイに産み出してもらったオモチは六個に増えていた。

 条件次第で生産量は増減するらしいけど、一度にこの数を産み出したのは最高記録とのことだ。


 つまりは……、俺の、魔女っ子育成計画は…………順調ら、しい………………

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る