第1話 面倒くさいアイツ
「美玖ー! 早く起きなさーい」
……。……。
「美玖! 遅刻するよ!」
バンっと、私のことをたたくお母さんの掌がとても痛くて目が覚めた。小学校のころから、私は朝がとても苦手。毎日、こうやってお母さんに起こされる毎日だ。
高校二年目を迎えた春、新学期が始まって二日目にして母親にたたき起こされた。
重たい体を起こして、スマホを開くとアイツからLINEが来ていた。
はぁ。また迎えに行くの? ったく、面倒だな。
リビングに行くと、お母さんが朝ご飯を急いで作っていた。
「おはよう」
「おはよう。ごはん、早く食べなさい」
今日の朝ごはんは、目玉焼きとお供え物にほうれん草のバター炒め。
お味噌汁もついてきた。
「あんた、あの子を迎えに行くんでしょ?」
「うん。LINEきてた。本当、あいつなんなの?」
「なんなのって、それは和真くんが」
「あー、早く支度しなくちゃ!」
お母さんが言ってしまう前に、私から遮り部屋に急いだ。
「あいつが、好きとかあり得ないっ!」
お母さんにそう言い放ったけど、本当は……。
LINEの通知を気にしながらも、支度に集中した。
「よし。完璧」
今の時刻は、7:30。なんとか、予定の時刻に間に合った。
「いってきます!」
「いってらっしゃい。気を付けてね」
リビングでテレビを見ているお母さんに元気よく挨拶をして、靴を履いた。
ところで、さっきから『あいつ』といっている人は誰なのか。
その人は……。
隣の家のインターホンを鳴らす。暫くすると、家から出てきた。
「おう。あ、これ、持って?」
「え? うわっ!」
あいつは、カバンを投げた。びっくりして、咄嗟にキャッチした。
「ナイスキャッチ!」
「ナイスキャッチじゃないでしょ? てか、和真。私より早く起きたくせにしたく終わってなかったの?」
「あー、うん」
そう。アイツとは、隣の家に住んでいる小林和真。和真とは、幼稚園からの幼馴染。
そして、私の……
"好きな人"。
和真は、一生懸命にネクタイを締めている。その瞬間に、ドキッとしちゃったり……。でも、そんな感情になるのは私だけ。だって、『幼馴染』でしかないから。
「あのさ、いつまで持っていればいいの?」
「え? あー、ごめん!」
バッグを持たされてかれこれ20分。
あともう少しで学校っていうのを分かってて、何も言ってこなかったのか?
だとしたら、計算高いむかつくパターン。私も投げてやろうかと思ったけど、なんか可哀想だから普通に渡した。
ところで、なんで私がコイツのことを迎えに行くことになったのかというと……。
「あのさ、朝練始まるまで俺のこと迎えに来てくんない?」
春休みに友達含め数人で遊んでいたとき、帰りに突然言われた。
「は?」
和真は、中学のころから続けているバスケ部に所属している。
私はというと、学校が終わったら真っ直ぐ帰って家でゆっくりしたいという理由で帰宅部にした。
和真の部活は、新学期が始まって数日は朝練がないらしい。だから、私が迎えに来いと?
「いやいや、待って? 意味わかんないんだけど」
「は? お前、日本語わかんねえの?」
「いやわかるよ。あんたの言っている意味が分かんないっつーの。理由は?」
「んー、特にないかな」
無いなら迎えに来させんなよ。
「あ。強いて言うなら、家が隣同士ってことかな」
「それだけか」
「それだけってなに? もしかして、お前」
「なに?」
「俺のこと、す。うっ!」
「ばーか。な訳ないでしょ」
好きだろ?って言ってくる前に、私は一発かましてやった。
本当は好きなのに……。と、部屋で一人後悔した……。
ということで、今日から数日迎えに行って一緒に行くことになった。
なんで迎えに行かなくちゃいけないの? と思いながら、一人で嬉しくなっていた。
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