14話『冷酷な男』たちは球技大会にそなえる


「財前くん、西村くん、美冬ちゃん部室いこ!」


 授業が終わると、部室に全員で行くのが定番となっていた。


「もう夏休みだねー」


「でもその前に、球技大会があるだろ」


「一大イベントだよねー!」


 球技大会は男女分かれて行われるこの学校の一大イベントだ。毎年、男子はサッカー、女子はバスケットボールと決まっている。球技大会が一大イベントと言われる理由は景品にある。

 1年、2年、3年それぞれの優勝チーム、その中からMVPに選ばれた選手に景品が渡される。つまり男女合わせて6人に景品が与えられる。しかし、それだけが一大イベントとは言われる所以ではない。


「毎年、MVPとるのに全員必死だもんね」


「景品を好きな人に渡すと付き合えるっていうジンクスがあるからなー」


 そういうことだ。何十年前にその景品を渡したら付き合ったらしい。それから、毎年、何人も付き合っているんだけど、景品を渡されたら、付き合わないといけないと思い付き合う人もいるとは思うけれど…。とにかく、付き合えるらしい。

 

「私はそんなものに興味はないわ」


「なんでだ?」


「運動神経が悪いもの。景品なんてもらえないわ」


 なんでもできるイメージがあった御門も苦手なものがあるんだな。

 御門の顔を見ると、不安そうな表情でこちらを見つめていた。


「もしかして友くんは、運動神経苦手な子って嫌いかしら…?」


「苦手なものの一つや二つ、誰にでもあるよ。苦手なものが人を嫌いになる理由にはならないよ」


「それならよかった」と呟き、安堵の表情を浮かべる。


 いつのまにか教室につくと、窓ガラスから人影が見えた。誰だろうと思いながらドアを開ける。

 すると、その人物は飛びつくように俺の腕に抱きついてきた。


「財前先輩遅いですよー!」


 あ、朝倉さん! む、胸が当たってるって! 


「あ、朝倉さん、離れてくれると嬉しいんだけど…」


「嫌です」


 あれ、こんな性格の子だったっけ? 自分は臆病者で勇気がないとか言っていたような…。

 すると、朝倉さんは俺の耳元まで顔を近づけてきた。


「財前先輩が言ったんですよ? 勇気がないわけないじゃないかって。だから、恥ずかしいんですけど、振り向いてもらうために勇気出してるんです」


 顔を離すと、俺にニコッと笑いかけてきた。

 その刹那、俺は後ろの殺気に寒気がし、背筋がブルッと震えた。俺の周りだけ、気温が氷点下になったと間違うほどの寒さだった。


「春風ちゃんはなれてくれるかな…?」


 笹森さんは朝倉さんに笑顔を向け注意する。しかし、目は全く笑っていない。


「そうよ春風さん、はしたないわ。離れなさい」


 御門に至っては、表情を作ることを拒否し、目に光もなく朝倉さんを注意していた。それに、気のせいかな。後ろに悪魔がみたいなものが見えるんですが…。


「なんか、面白そうな展開だなー」


 彰文、お前この状況を楽しむなよ。いっつも俺が困っている時にニヤニヤしやがって。

 朝倉さんは俺から引き剥がされ「ちぇ」とすこし舌打ちをしていた。まだ二人とも殺気を感じる。な、なんとかして話をそらさなければ…。


「ここにいるってことは何かの相談?」


「そうなんです! 今日はこの人がご相談があるそうなんですが」


 朝倉さんは、横にいる男の子を指さした。

 どこがで見たことがあるような…。そうだ、図書委員をサボっていた子だ。


「確か、福森くんだったよね?」


「は、はい、福森です。そ、その節は本当にすいませんでした…」


 あのことはしっかりと反省しているようだ。チャラそうな見た目だけど、本当は根が真面目でいい子なんだな。


「ちょっと待っててね。椅子だすから」


 福森くんは「ありがとうございます」と一礼してきた。


「それで福森くんだったよね?」


 笹森さんは、もう一度名前を確認する。


「はい。福森準ふくもりじゅんって言います。皆さんの一つ下です。よろしくお願いします」


「福森くんね。私は笹森夏帆って言います。それで左から…」


 一通り、自己紹介が終わり本題に移った。


「ここに来たっていうことは、お願いがあるんだよね?」


「そうなんです。実は俺、好きな人がいるんです」


「それは横にいる春風ちゃんだったりして」


「ち、違いますよ」


「そうですよ、そんなわけないです。大体、図書委員サボってた人なんて私が嫌です。それに、私には財前先輩がいますし」


 朝倉さんは、熱っぽい表情でこちらを見つめている。

 2人とも殺気は抑えようね。なんで俺の話になると、こんな怖いになるのかわからない。それに、そんな捲し立てるから福森くんがそんな言わなくてもって感じになってるから。


「それで福森だっけ、好きな人がいるんだよな」


 ナイスだ彰文。この流れを変えられるのはお前しかいないと思っていたよ。


「はい、バスケ部の有元沙羅ありもとさらさんって言うんですけど」


 名前言われてもわからないなー。1年生だし仕方ないか。


「へー、沙羅先輩が好きなんだ!」


「えぇ、私も知っているわ」


「沙羅さんか、バスケ部の。あの人、男女問わず人気あるからなー」


 えっ? みんな知ってるの? そんな有名な先輩を知らないって、友達いないのを実感させられるな…。


「沙羅先輩と福森くんは知り合いなの?」


「いえ、全く接点はありません。たまたま、体育館でバスケしてる姿を見て、それがあまりにも綺麗でそれで…」


「一目惚れというやつね」


「それで、お願いっていうのはなんだ?」


「そうでした。今度、球技大会があるじゃないですか。それで、MVPになったらもらえる景品を、好きな子に上げれば付き合えるっていうジンクスがありますよね?」


「なるほど。つまりそれを渡したいと」


「そういうことです。なので、俺がMVP取れるように練習に付き合ってください!」


 椅子に座りながら頭を下げていた。


「福森くん、サッカー経験は?」


「少しばかり…」


「よし、わかった」


「財前くん?」「友くん?」「財前先輩?」「友明…」


 俺が机を叩き、椅子を立ち上がると不思議そうな顔をしていた。彰文だけはため息をつき、またかよと言いたげな表情をしている。


「明日から練習しよう。俺が教えてあげるから」


 





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