番外編 西村彰文が『財前友明』と出会った日

「であるからして」


 授業中、俺は机で頬杖をついていた。

 この先生の授業は、教科書に書いてあることしか黒板に書かないから眠たくなる。小話とか挟んでくれると良いんだけどな。

 ふと、対角線上にいる友明のことを見る。すると、目線があい、顎で黒板の方を見るように指示をしてくる。わかってるよと手を少しあげ、友明は首を縦に振る。


 財前友明は俺の親友だ。友明のことは小学校の時から知っている。最初は別に友達じゃなかった。

 ただ、聞いたことがあるだけだった。今は『冷酷な男』なんて呼ばれてるが、あの時、『財前友明』は目つきの悪い奴だって言われてた。ただそれだけだ。

 友明と友達になった日のことはよく覚えている。あれは小学5年の時だった。




 自分で言うのもなんだが、その当時は天才だった。今では、ちょっと勉強ができるやつっていう程度だけど。

 でもその時は、勉強できるということが気に食わなかったらしい。いじめを受けていた。別に物を隠されるわけでもなく、暴力を振るわれるわけでもない。ただ、無視されるだけ、それだけだった。

 だから、学校なんて楽しくなかった。


 5年生になった5月ごろだったかな。その日、席替えが行われた。その時、席が隣だったのが…そう、友明だ。


「よろしくね」


 笑顔でそう言ってきたが、俺はそれを無視した。今考えれば、最低だったと思う。


 その日、たまたまテスト返しが行われた。もちろん俺は100点だった。そのテストを友明が覗いていた。


「100点だ! すごいね!」


 俺に喋りかけんなと思った。どうせ、こいつもその内、無視するんだから。


 それから毎日、友明は喋りかけてきた。それを俺は無視し続けた。


 2週間ほどがたったある日、放課後の帰り道に忘れ物に気いてもう一度教室に戻った時だった。扉を開けようとすると、話し声が聞こえてきた。俺を無視してる奴と、もう1人は毎日俺に喋りかけていた財前友明だった。


「財前、なんで西村を無視しないんだよ」


「そうだぞ、全員無視してるんだから無視しろよ」


 友明が責め立てられていた。そりゃそうだろうな。無視してる相手があんだけ話しかけられてるんだから、あいつらからしたら面白くないだろう。

 俺はその時、どうせ友明もそいつらの味方になるんだろうと思っていた。


 ――だが、俺の思っていたことは不正解だった。

 

「西村くんは友達だからそんなことできないよ」


 意味が分からなかった。友達? 俺とこいつは一言も喋ったことないのに。


「お前、いつも喋りかけても無視されてるじゃないか!」


「お前たちが無視するから喋らなくなってるだけだよ! 無視なんてするなよ!」


「なんだと!」


 そこで俺は扉を開けた。そこにいた全員が驚きを隠せないという表情をしていた。


「西村くん」


「ちっ、いくぞ」


 そう言って、友明と言い争っていた奴らは帰っていった。


「財前くんだっけ、なんで俺を助けたわけ」


「なんでって、友達だから」


「喋ったこともないのに友達なんだ」


「友達じゃないの?」


「友達だと思ってない」


「そうなんだ…じゃあさ」



「今日から友達になろうよ!」


「友達になったら後悔するよ」


「なんで?」


「他の人から無視されるかもしれないし」


「西村くんは俺のこと無視する?」


「俺がやられて嫌なことはやらない」


「じゃあ大丈夫。西村くんが俺のこと無視しないなら」


 笑顔でそれを言える友明に、こいつバカだろうと思った。でも嬉しかった。俺のこと、友達だって言ったやつは初めてだったから。

 それから本当の友達になって、夏休みにはプール行ったり冬には雪で遊んだり色んなことをした。

 6年生になっても俺たちは同じクラスだった。俺は、学校に行くことが楽しくなっていたし、他に友達もできた。でも、友明には友達が出来なかった。なんでかって? 目つきはもともと悪かったんだけど、この頃からもっと悪くなって俺以外は寄り付かなくなった。

 友達はできたが、学校以外で遊ぶのは友明だけだった。それが一番楽しかったし、笑顔になれた。

 それ以来、友明は俺にとって……唯一無二の親友だ。



「――文、彰文」


「なんだよ、友明」


「授業終わってるぞ」


「まじか。全然気づかなかった」


「上の空だけど何かあった?」


「いーや、なんでもない。ただ、昔を思い出してただけだよ」


「昔って、思い出すほど歳とってないだろ」


「間違いないな」


 俺たちはそんな他愛もない話で吹き出す。


「なあ、友明」


「どうした?」


「ありがとうな」


「なんだよ急に」


 なんか伝えたくなったんだよ。俺はお前に色々なものを貰った。だから、次は俺がお前に与える番だ。

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