13話『冷酷な男』と勉強会
ジリリリ
なんで目覚ましなってんだよ…。今日は日曜日だろ、寝させてくれよ…。
目覚まし時計を止め、起きることを拒否する様に毛布を頭まで被る。そして二度寝を楽しもうと、意識を手放そうとした時、ドンドンっと扉を叩く音が聞こえ、扉が開いた。
「お兄ちゃん、もうお昼だよ! 今日は家で友達と勉強会するんでしょ? 早く起きて準備しないとダメだよ!」
そうだった、今日は彰文たちが来るんだった。
早急に脳を覚醒させ、扉の前にいる妹に挨拶をする。
「おはよう秋穂、起こしてくれてありがとう」
「お兄ちゃんおはよう。ご飯できてるから食べないとダメだよ?」
首を右に少し傾け、なんともかわいらしい笑顔だった。
…ちょっと待て、母さんは朝から出掛けると昨日言っていたはずだ。
「なぁ秋穂、昼食って誰が作ったの?」
「もちろん私だよ!」
最悪だ…。妹は料理が大の苦手なのだ。いや、苦手とかいう問題じゃない。
「早くリビングに行こ!」
手を引っ張られ、階段を駆け下りる。段々と食卓が近づくにつれ、焦げ臭い匂いがしてきた。
食卓に座るよう促されると、何かが並んでいた。
「これは何かな…?」
「白米と卵焼きとウインナーだよ! お兄ちゃんのために頑張って作ったんだー」
えへへと笑う妹はちょーかわいい。かわいいけど、これは白米でも卵焼きでもウインナーでもない。これはただの黒い物体だ。顔が引きつっているのが自分でもよくわかる。
それを察したのだろう、秋穂は心配そうな表情で俺を見つめていた。
「もしかして、食べたくない…?」
「いや…そんなことは…」
「ごめんね…料理が下手くそで…食べたくないよね…」
声色が落ち込んで、涙がこぼれ落ちそうになっていた。
俺は食器をもち、ガツガツと食べた。
「ありがとうな、すごい美味しいよ」
「本当に! じゃあまた今度作るね!」
それだけは勘弁してね。今でも吐き出しそうなのに、今度作ったら間違いなく吐くよ。
朝食を食べ終え、歯を磨き服を着替えて彰文たちがくるのをソファーに秋穂と座り待っていた。
「彰文くんがくるんでしょ? 久しぶりだなー」
「でも、秋穂は友達と遊びに行くから会えないだろ?」
「彰文くんを見てから遊びに行くよ」
そんな話をしていると、ピンポンとインターホンがなった。待たせるわけにはいかないので、走って玄関に向かいドアを開けた。
「財前くん、おはよう!」
ドアを開くと、笹森さんが笑顔で挨拶をしてきた。
キャップを被り、白のTシャツ、ストライプのスカートにリュックと動きやすそうな格好で笹森さんらしさがでている。
「ここが友くんの家なのね…」
首を振るたび、長い黒髪と白いふわふわのロングスカートが同時に揺れる。まさに清楚という言葉を体現したような私服だ。
「友明の家に来るの久しぶりだなー」
彰文は…まあいいっか。
「まぁ、上がって」
3人は靴を脱ぎ、リビングへと上がってきた。俺の後ろにいる彰文が見えたのだろう。秋穂が挨拶をした。
「彰文くん久しぶり!」
「秋穂ちゃん久しぶりだね」
どちらも笑顔で手を振っていた。しかし、急に秋穂は固まり、みるみる表情が無に変わっていった。
「お兄ちゃん、その女の人たちは誰なの? 女の子が来るなんて聞いてないよ?」
いつもニコニコと笑う秋穂の目には輝きがなく、無機質な表情をしていた。
俺は初めて見る秋穂の表情に冷や汗が止まらなかったのでそっぽを向き、見なかったことにした。
「もしかして、財前くんの妹さん?」
「そうだよ」
「かわいいー!」
「友くんの妹さんなのね。よろしくね」
御門が手を差し伸べると、秋穂は渋々といった表情でその手を握る。
「じゃあ私は出掛けるから、お兄ちゃん変なことはしたらダメだよ。…帰ってきたら覚えといてね?」
ソファーから立ち上がり、ガチャンといつもより強めに玄関が閉められた。
「妹さん、なんで怒ってたんだろう?」
「俺も分からないんだ」
「本当にお前は女心がわかってないな」
はぁーとため息をつく。
「ここはね、こうして…」
「うー、わかんないー」
「ここはこうするだろ?」
「全然分からない…」
笹森さんは御門に、俺は彰文に勉強を教えてもらってから1時間はたった。
「一回休憩するか。このまま詰めても分からないだろうからな」
「そうね、私たちも休憩しましょうか」
「じゃあ飲み物持ってくるよ。お茶でいい?」
そう聞くと全員が頷いていた。
「私も手伝いましょうか?」
「お客様なんだからゆっくりしといていいよ」
扉を開け、1階の冷蔵庫を開けお茶をコップに注ぐ。4つのコップをお盆に置いてそれを持って部屋に戻ると、机の上に一冊の厚い本が置いてあった。
「これ何歳くらいの財前くんなの!?」
「小学校の時だろうな」
「かわいい…。これ、写真に収めてもいいかしら」
なんで小学校の卒業アルバムがそこに置いてあるんだよ!
「ちょっ…なんでそれ見てんの」
「暇になったからなんかないねぇかなーって。じゃあ本棚にこれがあったからさ」
「これ、西村くん? 全然変わってないね」
「こいつは全然変わってないよ。その時は天才とか呼ばれてたし」
「そうなのね」
「それは以外だなー」
「昔の話だけどな」
その話をすると、彰文は嬉しいのか悲しいのかよく分からない表情をしていた。
「卒アルちょっと見て、お茶飲んだら勉強するぞ」
「そうだな」
「疲れたー」
「お疲れ様。頑張ったわね」
「彰文ありがとうな」
「いつものことだから気にすんな」
始めた時は13時を指していた針が、17時を指していた。
「じゃあ帰ろっか」
「友明、笹森を家まで送ってやれ」
「えっ、いいよ。そんなにここから遠くないし」
「じゃあ友くん、私を送っていっても…」
「御門さんは俺と帰り道一緒だから、送るから。それじゃあまた明日な」
「ち、ちょっと…」といいながら、彰文に腕を引かれ帰っていった。家には俺と笹森さんの2人だけになった。
「それじゃあ送るよ」
「お、お願いします…」
2人は少し距離を開け、何も喋らずに歩いているだけだった。
「財前くんは部活楽しい?」
「楽しいよ。どうして?」
「この部活に入ってくれたけど、あれって強制感があったというか。だから楽しんでくれてるのかなってさ」
いつも笑顔な笹森さんらしくない、心配そうな表情をしていた。
「楽しくなかったらもうとっくに辞めてるよ。それに笹森さんとも友達になれて、御門ともまた喋れるようになったし、むしろ感謝してるよ、ありがとう」
その言葉を聞くと笹森さんはホッと胸を撫で下ろしていた。
「そう思ってくれて嬉しいよ。財前くんこれからもよろしくね」
「うんよろしく」
「それでね、この前さ…!」
距離を開けていた2人の後ろに伸びた影がいつのまにか、少し重なっていた。
「ただいまー」
笹森さんを送り、玄関を開けると妹の靴が置いてあったので帰ってきているのがわかった。
「秋穂、帰ってきてたのか」
「うん、お兄ちゃんどこ行ってたの?」
「友だちを送りに」
「それって女の人?」
「そうだけど」
秋穂よ、質問を追うごとに顔から表情が消えてるぞ。なんでだろう、目元とか俺に全く似てないのに無表情の顔の雰囲気が俺にそっくりだ。
「お兄ちゃんは意外にモテるのを自覚した方がいいよ! あのね…!」
ここから秋穂の説教は1時間は続きました。
テストは無事に終了し、全員赤点は免れた。テストを返された後に成績20位以内だけが掲示板に張り出される。上から順に見ると1番上には御門美冬と書かれていた。目線を下にずらしていくと9位に西村彰文と書かれていた。そして、20位には笹森夏帆と書かれていた。本当に数学以外は出来たんだとここで知った。
俺の話? 俺は全部40〜45点で彰文にバカにされまくりましたとさ。
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