11話『冷酷な男』は想いを伝えられる

「来ないねー」


「そうね」


「友明のせいで、また逃げられたからな」


「それは言うなよ…」


 あれから1週間がたち、俺たちは人を幸せにする部の教室で頬杖をついていた。


「大丈夫、財前くんは悪くないよ」


「そうね、友くんは悪くないわ」


「いつもフォローありがとね」


 変わったことといえば、御門が4人の前では友くんと呼ぶようになったことくらいだ。しかし、砕けた話し方は2人の時しかしてこない。


 それにしても本当に来ないな。なんて、そんなことを考えていると、扉がガラガラと開いた。


「失礼します」


 扉を開いたのは…誰だ?


「春風ちゃん久しぶりー!」


「春風さん、今日はどうしたのかしら?」


 えっ、朝倉さん? 確かに言われてみればおさげだし、出るとこ出てるけど…。

 メガネがなくなってるから分からなかった。


「朝倉さん、今日はメガネかけてないの?」


「はい、メガネは卒業しました。自分自身を変えるために、コンタクトにして形から変えてみることにしました」


 なるほど。自分を変えようと努力するのは、凄くいいことだと思う。


「それで春ちゃん、今日はどんな用事で来たわけ?」


「そうでした。今日は2点ほどお話があって来ました。まず1点は、あの人達が、今日は図書委員の仕事をしに来ると言っていました」


「朝倉さんが、気持ちをあの子たちに伝えた結果だね。よかったよ」


「いいえ、あれは財前先輩のおかげです。本当にありがとうございました」


 お礼を言われるほどのことはしていない。確かに助言はしたが、それを実行した朝倉さんが凄いだけだ。


「それともう1点…財前先輩」


 すこし熱っぽい表情で俺の名前を呼ぶ。

 えっ、俺? まさか、御門の時みたいに、指名されるのか。それしか考えられない。


「あなたのことが好きになりました。私とお付き合いしてください」


 そうか、朝倉さんは俺のことが好きになったんだなー。



 ……



「「「ええぇぇぇー!!」」」


「そんなことだと思ったよ」


 あ、ある意味指名だったけど! てか、なんで彰文は冷静なんだよ! 普通は動揺するだろ! 見てみろよ、御門と笹森さんなんか、あわあわとしか言わなくなってるよ! 普通はそれくらいびっくりするだろ!


「返事、聞かせてもらってもいいですか?」


 そうだ、びっくりしてる暇はないよな。勇気を出して告白してくれたんだから、こっちもしっかり答えをないとな。


「告白は嬉しいんだけど…ごめんなさい」


 この返答を聞いて、さっきまであわあわしか言ってなかった2人がパァーって効果音が見えるくらいの笑顔になった。


「理由を…聞いてもいいですか…?」


 朝倉さんは涙ぐみそうになるのをこらえているのか、唇を噛み締めていた。

 

「俺は朝倉さんのことを知らないし、朝倉さんは俺のことを全然知らないと思うんだ。もっとお互いを知ってから、付き合うべきだって俺は思うから、だからごめん」


 朝倉さんはそれを聞いて、なるほどと呟き、顎に手をあてていた。すると、なにか閃いたのか、右手で拳を作って開いている左手を叩いた。


「それじゃあ告白は取り消しでお願いします」


「へ?」


「財前先輩、私とお友達になってください」


「なんだ、そんなことか。それならいいよ、これからよろしくね」


「はい、よろしくお願いします!」


 そういうと、「ではこれで」と教室を出て行った。でも、なんで告白は取り消されたんだろう。


「友明よー、ストックを作るなよ」


「ストックってどういうこと?」


「笹森と御門さんは意味がわかってるみたいだけど」


 本当だ、さっきはすんごい笑顔だったのにまたあわあわしてる。


「なあ彰文、どういうことだ?」


「お前、本当に分かってないのな? さっきの春ちゃんとの会話を思い出してみろよ」


 会話? たしか…



『理由を…聞いてもいいですか…?』


『もっとお互いを知ってから、付き合うべきだって俺は思ってるんだ』


『財前先輩、私とお友達になってください』


『なんだ、そんなことか。いいよ、これからよろしくね』


 

 なんとなくだけど見えて来たぞ。


「朝倉さんはお互いを知るために、お友達になってくれって言ったってことであってる?」


「そうだよ友明、お前はただストックを作っただけなんだよ」


 はぁーと彰文はまた溜息をつく。でも、ストックって言い方悪くないか?


「あわあわ」


「あわあわ」


 2人とも早く戻ってきて。ずっとあわあわ言ってるじゃん。あれもなんとかしないとな。


「友明、ちょっとこい」


 彰文は俺に来るように手招きをし、肩を組みながら俺に耳打ちしてきた。


「なんだよ」


「あの2人にこの言葉を言ってこい。それで正気な状態に戻るから」


 耳元でゴニョゴニョと話しかけてくる。本当にそんなことでいいのかと念を押して聞いてみても、いけるとしか言わない。まぁ、損はしないしいいか。


「2人とも」


「「えっ?」」


「俺にとっては2人が1番の友達だから、笹森さんと御門のことをもっと知りたい。だから、これからお互いのことをもっと知っていこうね」


「「…うん!!」」



 よかった、本当に正気に戻ったみたいだ。でも、なんでこんなので戻ったんだ?


「お互いのことをもっと知りたいってことはそういうことだよね…可能性があるってことだよね…」


「そうよ、友くんの1番だもの…私も友くんのことをもっと知りたい…」


「なぁ彰文、今度はさっきとは違う感じで正気じゃなさそうなんだけど」


「いいんだよ、あの2人はあれで」


 そうなのかな。でも、前と違って楽しい日々を送ってるな。

 それもこれもこの3人のおかげだ。

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