9話『冷酷な男』たちは部活をする

次の日、俺たちは朝倉さんの相談を聞き、図書室で役職を決めていた。


「じゃあ俺が受付を…」


「「「それはダメ(だろ)!」」」


 知ってたよ、わかってたよダメって言われることは…。だってあれでしょ、俺が受付したら逃げられるからとか。

 でもしょうがないだろ、一回受付とかやってみたかったんだよ…。


「だ、大丈夫ですか?」


 心配そうな表情で俺の様子を伺う朝倉さん。


「大丈夫だよ、ありがとう朝倉さん」


「じゃあジャンケンで役職決めよっか」


「いいね、俺もやるよ」


 俺がそう言うと、笹森さんが苦笑いをしていた。


「あのね財前くん、非常に言いづらいんだけどね、そのー…役職が受付か返却された本を書棚に入れることしかないんだ」


「あっ、そうなんだ。じゃあ勝てば受付もできるってことだ」


「で、でもね、財前くんが受付やっちゃうと、来た人が逃げちゃうから…。私は財前くんと一緒に受付したいんだけど…」


 し、しかし、ジャンケンは公平であるべきはずだ!

 そうだよな、彰文…ってなに深く頷いてんだよ! 確かに来た人に逃げられるかもしれないけど、勝てたらやってもいいよな。

 なっ、御門。…おーい御門さーん。なんで目線合わせてくれないの? 天井の角に何かいるの、何か見えてるの?


「だから…ね?」



 ジャンケンの結果、役職は受付が笹森さんと御門と彰文。そして俺と朝倉さんは返却された本を書棚に並べる作業で決まった。結局ジャンケンはさせてもらえなかった…というか無言でお前はするなと訴えていたから出来なかった。


「はぁー」


「大丈夫ですか?」


「大丈夫だよ。ありがとう心配してくれて」


 俺と朝倉さんは代車に本を乗せて、喋りながら元の場所に戻していた。


「朝倉さんって本が好きなの?」


「はい、大好きです。小学校の頃から友達がいなかったので、ずっと本を読んでました」


 戯けたように彼女は言った。これは聞いてはダメな質問だったかな…。今のは配慮に欠けていたと心の中で反省していると、その気持ちが顔に出ていたのだろう。朝倉さんは首を横に振りながら話してくれた。


「き、気にしないでください。友達は欲しいですけど人見知りで喋れなくて…。で、でも、大好きな本を読む時間が取れますし、満足しています」


 俺は本当に配慮に欠けていた。友達がいないと満足できない、そう思っていた俺がバカだった。そうだよな、自分の好きなことがあれば、それだけでも人生楽しいよな。


「顔に出てたみたいだね。本当にごめん、でも本が大好きっていうのはいいことだと思うよ」


「……」


 どうしたんだろう。急に無言で見つめて。

 無言で見つめていた、朝倉さんがぷっと吹き出した。


「財前先輩はやっぱり優しいですね」


「やっぱり?」


「はい。噂では怖い人だって聞いてました。『無慈悲な殺戮者』って呼ばれていますよね?」


 ――なにそれ知らない。えっ、まだ知らないのがあるの、本当に何個あるんだよ…。


「でも、『人を笑顔にする部』の前でうろうろしている時に、財前先輩は手を差し伸べてくれました。顔は…少し怖かったですが」


 やっぱり怖かったんだ、その言葉は少しへこむな。


「でも、あの時言いましたが、雰囲気が全然怖くなくて、むしろ優しく見えました。やっぱり人を噂や見かけで判断するなんてダメだと思うんです!」


 俺はその言葉を聞いて固まってしまった。あの時に言われた言葉と似ていたから。



『それに人を外見だけで判断しちゃダメだと思うんだ!』


 ここ数週間の間に同じことを言われるなんてね。


「わ、私、なにか変なことを言ってしまいましたか…?」


「いや、笹森さんが同じことを言ってたなと思ってさ。ありがとう、嬉しいよ」




「ぐぬぬ…」


「笹森、なに唸ってんだ」


「べ、べっつにー」


「そうよ夏帆さんあんまり唸ると本を読んでいる人の迷惑になるでしょ?」


「そういう御門さんはスカートを掴みすぎて、くしゃくしゃになってるけど」


「もともとこういうデザインなの」


 はぁー、こいつら。友明への好意に気付かれてないと思ってんのかな。


「お前ら友明のこと好きすぎだろ」


「「そ、そんなんじゃ!」」


 そんなに叫ぶなよ。図書室にいるやつがこっち見るだろ。ほら、全員がこっち向いたじゃないか。


「「ご、ごめんさない…」」


 2人は立ち上がり、頭を下げ謝っていた。そして、俺にひそひそと喋りかけてきた。


「なんで、財前くんが好きって知ってるの?!」


「そ、そうよ!西村さんがなぜ…」


「あのなー、あれで気付かれてないと思う方がバカだろ。褒められたら顔真っ赤にして、恋する乙女の目だったぞ」


「そう…だったんだね」


「顔には出さないようにしてたのだけれど」


 あれで顔に出さないようにしてたなら、もう意識しない方がいいレベルだろ。


 御門さんは友明が好きだと堪忍したのか、俺に対して友明について聞いてきた。


「西村さん、どうすれば友くんの気を引けるかしら」


 御門さんって友明のこと友くんって言ってたのか。今度、友明を茶化す時にそう呼んでみよ。


「そ、そう。私もそれが聞きたかった」


「そんなの簡単だ。いつも通りにしてたらいいんだよ。何にもしなくていい、ただありのままの自分で勝負すればいいよ。あいつの人を見る目は抜群だからさ」


「そうなのね。ありがとう、参考になったわ」


「まだ聞きたいことがあるの!」


 まだあんのかよ。

 …まあでも、友明が幸せになるならなんでも聞いてくれよ。なんせ、あいつのおかげで今があるんだから。

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