7話『冷酷な男』が部室にいる

美冬が入部することになり、3つ並べた机を4つに変え、椅子も4つ並べた。今は窓側に4人とも椅子に腰をかけている。席順は教卓側から御門、俺、笹森さん、彰文になった。


「こっちの方が絶対に面白い」


 そういう理由で彰文が席順を決めた。なにが面白いのか俺にはまったくわからないけど。


「はぁー、誰もこないねー」


「だなー」


 隣同士の笹森さんと彰文が頬杖をつきながら呟く。あれから1週間たったが、誰一人として教室に来たものはいなかった。

 いや、1回だけ扉は開いた。


「あのー、ここが人を笑顔にする部…って、ざ、ざざざざ、財前くん!? ご、ごめんなさーい!!」


 逃げてった。まったく、いつものことだがひどい扱いすぎるだろ。親は多分泣かないが妹が泣くぞ、妹が。


「本当にこないわね」


「友明のせいで逃げられたからな」


「その話はするなよな…」


 ちゃかすように言ってくる彰文。わかってるけど、誰かに言われたら多少なりとも傷つくな。


 突然、頬杖をついていた笹森さんが、俺の方を向いた。


「財前くんのせいじゃないよ。あんな態度なんて礼儀がなってないと思う!」


「そうよ、友くんのせいじゃないからね」


 隣に座っている御門も囁くように俺に言ってきた。2人とも何ていい人なんだろうか。彰文に爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。

 そんな話をしていると通路側の窓に人影が映っている。ただ通り過ぎただけだと思ったんだけど、どう見てもこの教室の前でウロウロしている。


「あれってそうだよね?」


「ええ、そのようだけど」


「じゃあ俺が行ってくるよ」


「まて友明、お前が行くとまた逃げられかねない」


 こいつひどいこと言うな。でもその通りだからなにも言い返せない。

 横を見ると笹森さんがうーんと唸っていた。なにを考えているんだろう。


「…はっ! そうだ!」


 頭の上に豆電球が光っているのが見えるほど、ハッとした表情をしていた。


「西村くんよく考えてみて。財前くん以外が行っても、この教室に入ってきてから財前くんを見て逃げちゃうと思うの」


 笹森さん?


「だから、財前くんが話を聞きにいって逃げられなければ、教室に入っても逃げられる心配はないんじゃないかな!」


 あのー、まともな意見だと思うんです、その通りだと思うんですね。でも、結構酷いこと言ってると思いません?


「私もそれが同意見だわ」


 御門まで!?

 さっきまで優しかった2人だったのに、悪気がないことはわかってるんだけど。友達に言われると傷つくもんだな。彰文? あいつは言われなれてるからイラつくだけだ。


「そうだな。じゃあ友明聞いてきて」


「…うん」


 俺は肩を落としながら扉を開けた。


「あのー、この教室に用ですか?」


「ふぇ?」


 メガネをかけた女の子と目があった。ネクタイの色が青ってことは1年生だな。黒髪のおさげで可愛い顔をしている。身長は妹と一緒くらいかな。

 俺が知ってる女子と違うのは、出ているところが出ているのだ。それもすごく。

 …そんなことを考えてはだめだ。まずは話を聞かないと。


「この教室になにか用事ですか?」


「あ、あの…その…」


 目をキョロキョロしており、目線を合わせてくれない。ちょっとコミュニケーション取るのが苦手なのかな。俺も結構人見知りなんだけど、ここまでではないな、なんて思っているとおさげの女の子が口を開いた。


「こ、ここに用事があってきました!」


 手に握り拳を作り、目を強く瞑っていたのだろう。目尻にシワができてきた。頑張ってその言葉を口にしたのは容易に想像できる。


「話なら教室に入って聞くよ。ようこそ『人を笑顔にする部へ』」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る