6話 『冷酷な男』は友達が増える
それから5分くらいかな、どっちも喋らない状況が続いている。このままじゃラチが開かないから俺から喋りかけよう。
「ここではなんだし、屋上へいきましょうか」
「う、うん」
決意した瞬間に喋りかけられた。そうだよ、女の子と2人になったらまともに喋れないへたれ野郎だよ!
そういうことで、今は屋上にいるわけです。
「夕焼けが綺麗ね」
「そ、そうだな」
御門は俺を指名したわけだけど、この部活の趣旨から考えるかぎり、笑顔になるために俺が必要ってことだよな? なんで俺なんだろう。
「なぁ、御門」
「どしたの?」
「なんで俺を選んだの?」
そういうと、御門は酷く悲しそうな表情をする。
「…本当にわからないの?」
考え抜いた結果一つの結論にたどり着いた。御門と俺のことと言えばこれしかない。
「もしかして、中学の卒業式のこと…?」
「ええ、そうよ。……友くん、なんであんなことを言ったの?」
その時のことは鮮明に覚えている。彼女、御門美冬は中学時代にいじめられていた。違うクラスだったのだが、それをたまたま見つけた俺がいじめてたやつの顔を見たら全員逃げた。それから御門がいじめられないように、休み時間の度に教室に行き喋りかけていた。えっ、なんで俺が喋りかけるだけでいじめられないかって?
……中学の時も『冷酷な男』とか呼ばれてたんだよ! 今と扱いが一緒だったんだよ! 聞くんじゃねぇよ!
じゃあ御門がいうあんなことっていうのは、卒業式の日に言ってしまったことだ。
「これからはもう喋りかけなくてもいいからね」
俺はこんな事を言ってしまった。
「もういじめられる心配はないから、嫌なら俺と喋らなくていいよ」
そういうニュアンスで言ったつもりだったのだが、後々になって後悔した。「これからは喋りかけるな」とも取れるからだ。それから御門と気まずくなって、ずっと喋っていなかった。
「ねぇ、どうしてあんなことを言ったの?」
「ごめん。でも違うんだ、あれは…」
「うん、わかってる。もういじめられる心配はないから喋らなくてもいいという意味だったのでしょ?」
「うん、それで間違いない。でも言葉が足りなかった、反省してる」
「本当よ、あの後、いっぱい泣いたんだからね? これからずっと…ずっと、友くん喋れないと思ったから」
御門は苦悶の表情を浮かべる。
そうだよな、俺が逆の立場でも思い詰めていると思う。なんであんなことをしてしまったんだろう…
「でもね、私、友くんがいたから今まで頑張って来れたんだよ」
「えっ?」
あんなことを言ったのに、俺がいたから頑張ってこれた? どういうことだ?
御門は頬をぷくっと膨らましながら話した。
「いじめから救ってくれたあの日、私の世界は変わったの。それなのに、友くんは最後の最後で私のことを突き放した。ひどいよね」
返す言葉もない。何度反省してもしたりないよ。
「でもね、友くんは言ってくれたでしょ?『自分の努力を自分で否定するな』って。だからあれから一杯努力したんだよ。今では生徒会長だよ」
俺は何も言わずに頷いていた。
うん、本当に凄いと思う。並々ならぬ努力をしてきたこともわかる。
「生徒会長になったら、友くんに友達になろうって言おうと思ってたから…だから努力できたの」
うん。
「だから、今度はちゃんと言うね」
御門は決心したのだろう。覚悟を決めた真剣な顔をしていた。
「友くん、私と友達になってくれる?」
「あぁ、もちろん。よろしくね御門」
「うん、よろしくね友くん!」
夕焼けの空が相まって、笑顔が妖艶に見える。久しぶりに御門の笑顔を見たけど、本当に綺麗だ。
「でも、次に私を突き放すようなこと言ったら、その時は知らないからね!」
「大丈夫だよ。今度は絶対に、御門のことを手放したりしないよ」
「っ!」
「どうした、顔が赤いけど…もしかして風邪なんじゃ…!」
「だ、大丈夫、大丈夫だから」
「それならいいんだけど」
「もー…友くんってたまにかっこいいこと言うから心臓に悪いんだよー…」
何かボソって言ってるけど。でも、本当に御門と仲直りできてよかった。
「それで美冬ちゃん。部として認めてくれるの?」
「大丈夫よ。私も笑顔になれたもの」
「それで、財前くんとなに話したの?」
「べ、別になんでもいいでしょ…」
「えーっ、聞きたい、聞きたい!」
笹森さんは御門の方にどんどん顔を近づける。俺の横にいた彰文が肩をトントンと叩いてきた。
「友明、御門さんと仲直りできたのか?」
「何で知ってんの?」
「御門さんがお前選ぶのはそれしかないだろう。なんだ、お前本当に分かってなかったのか? でたよ、これだから鈍感野郎は」
「………」
「お、おい、どうした友明。そんな怖い顔してさ…。いつもの100倍くらいは怖いぞ…」
「彰文くん、ちょっと教室出ようか?」
こいつはちょっとお仕置きが必要だな。
「財前くんどこへ行くの?」
御門はなぜか2人の時しか友くんと呼ばないし、砕けた喋り方をしない、なんでなんだろう?
そんなことを考えるのは後回しにして、今はこいつだ。
「ちょっと、こいつと教室の外に出てくるよ」
「嫌だー! 離せ、離してください!ごめ、ごめんなさーい!!」
「どこか行っちゃったね」
「そうね」
「ねぇ、美冬ちゃんって財前くんのこと好きなの?」
「ど、どうしてそう思うの?」
顔が真っ赤になってるよ。そんな顔してるのにバレないと思ってるのかな。
「美冬ちゃん、顔が真っ赤だよ」
「……」
「それでどうなの?」
「す、好きよ…」
本当にかわいいな。女性としての魅力で、美冬ちゃんに敵うところが見つからない。
「こほん、でも夏帆さんも友くんのことが好きなのでしょ?」
「な、なんで知って…えっ、友くんって呼んでるの!?」
ず、ずるい! 私もそんな呼び方してみたい!
「えぇ、2人の時はそう呼んでるわ。他の生徒がいる前でそんな呼び方をしたら、友くんに迷惑をかけてしまうもの」
なんとなくわかる。私と仲良くした時も周りはあることないこと言っていた。生徒会長が友くんなんて呼んでたら、財前くんがもっと悪者になってしまうかもしれない。
「そうだね。で、でもなんで私が財前くんのことが、その…す、好きだと思ったの?」
「簡単よ」
ゴクリと私は喉を鳴らした。
「友くんの噂を聞いても彼に喋りかけているでしょ」
「…えっ、それだけ?」
「ええ、それだけよ。いや、それだけで充分なの。だって、私がそうだったから」
懐かしそうに明後日の方向を見つめている美冬ちゃん。好きになった経緯を今度聞いてみようかな。
「それで、夏帆さんはどうなの?」
「そ、それは…好きだよ…」
絶対、顔が真っ赤になってる。顔があつくなりすぎて頬をパタパタと手であおいでしまう。
「じゃあ私と夏帆さんはライバルね」
「うん、そうだね」
「それと、私もあなたたちの部に入ってもいいかしら?」
「もちろん! 大歓迎だよ!」
険悪になるかもしれないと思ったけど、そんなことはなかったみたい。
「それで、夏帆さんはどうして友くんを好きになったの?」
「それはね…!」
それから財前くんと西村くんが帰ってくるまで私たちは女子トークを楽しんでいた。
「あれ、西村くんは?」
「あー、職員室に行ったみたいだよ」
教室に出てからお仕置きしようと思ったけど「ジュース買ってくるので許してください!」と言っていたので、買い出しに行かせました。
「そういえばさ、美冬ちゃんも部活入ることになったよ!」
「へ?」
そこでチャイムがなり、御門は席に戻ろうとするが、踵を返し俺の方に近づいてきた。
「友くん、これからよろしくね?」
誰にも聞こえないような声で耳元で囁く。
それはこっちのセリフだから。
「うん、よろしくな」
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