5話『冷酷な男』は指をさされる
あの後、彰文に部活入ったと連絡したら、二つ返事で俺も入ると言ってきた。
そのため、朝から部活申請の手続きをし、部を創設した。
『人を笑顔にする部』
いや、本当にこの名前で行くとは思わなかった。てか、先生もよくこれで承認したな。俺は一応言ったんだよ?
「その名前じゃ厳しいんじゃないかな?」
「うーん、もしダメだったらまた後で考えよ!」
正直無理だと思ったんだけど。まあ、部活できるなら名前なんてなんでもいいか。
問題はその後だよ。部活なんだから教室とかがいるわけで、先生から教室を紹介されたんだよ。しかし…
「この教室はないよな」
そうだよな彰文。俺の気持ちを代弁してくれてありがとう。そりゃそう思うよな、だって、ホコリだらけでめちゃくちゃ汚いから。
「まずは掃除だね!」
笹森さんはもう箒とちりとりを持って準備をしている。
「俺はパスしようかなー」
教室の扉を開け彰文は逃げ出そうとするが俺が首根っこを掴む。
「笹森さんがやろうとしてるんだから、彰文もやるんだよ」
「3人でやれば早く終わるからやろうやろう!」
「わかったよ。俺も部活のメンバーだしやるよ」
「「「終わったー」」」
1時間ほどかけ、やっと掃除が終わった。誰が見ても綺麗だと思えるくらいには、綺麗になったはずだ。
教室の扉には『人を笑顔にする部』と書かれた紙を貼った。机を3つ横長に並べ、窓側に椅子を3つ置いて、椅子に座る。笹森さんは足をぶらぶらさせ、顔には笑みが溢れていた。
「誰か来るかな?」
「流石に部活ができたらことも知らないだろうし、来ないんじゃないか?」
俺も彰文の意見には賛成だ。客観的に考えてもよくわからない部活名だし、なにするかもよくわからない。そんな部活の扉を開ける学生なんて…
「失礼します」
これがフラグってやつなんだね。よくわかったよ。
扉の方に顔を向けると、同じクラスで生徒会長の御門美冬だった。
「美冬ちゃんだー!」
「御門がどうしてここに?」
「それは顔が見たか…こほんっ。部活が新しくできたら生徒会長が見に行かないといけないの。そして、生徒会長が承認しないと部として認められないの」
最初の方は聞き取れなかったけど、なるほどそういうのがあるんだ。
「美冬ちゃんのこと知ってるの?」
「中学が一緒だったからね。笹森さんも御門のこと知ってるの?」
「1年生の時、同じクラスだったからね」
「俺も同じクラスだったけどな」
彰文は親指たてて言ってきやがった。3人とも同じクラスだったってことは、俺だけ仲間外れか。なんかちょっと悲しいな。
「肩落とすなって、仲間外れくん」
こいつ、心の中まで読んでやがるのか!? うざい、めちゃくちゃうざい。ニヤニヤしながら言うあたりまたうざい。こいつは人をイライラさせないと、なにか言えないのか。
「西村くん、そんなこと言ったら可哀想だよ! 今は4人とも同じクラスなんだし結果オーライだよ。ねっ、財前くん!」
なに、この人は天使ですか。彰文に対して思っていた嫌悪感が笹森さんの笑顔で浄化されていく。
「…」
御門の方を見てみると、俺の方をジーっと見ていた。なに、怖い。
「ど、どうした?」
「いえ、なんでもないのよ」
「ならいいんだけど」
「それで、この部活はどのようなことをするの?」
「名前の通り、人を笑顔にするんだよ!」
「……よくわからないわ」
うん、そうなるだろうね。初めて聞いたらよくわからないのは当然だと思う。
「要するに、相談、問題解決、なんでもいいんだよ。依頼者が笑顔になってくれればそれで」
「ふーん…」
俺が説明すると御門は顎に手を当て、何かを考えている。
「それは、指名してもいいのかしら?」
指名ってことはこの3人の中から選ぶってことだよな、ホストかよ。でも、全員で問題解決するんだから、指名制なんて無理だろうな。
「基本的には3人で動くようにするけど、美冬ちゃんだからいいよ!」
いいんだ。でも指名って俺だけはないだろうな。だって、中学の卒業式にあんな事を言ってしまったから。
「選んでいいのね?」
「言わなくてもわかってるけど」
えっ、彰文わかってるの?
「えっ、誰? 私は分からないんだけど」
そうだよね、笹森さんもやっぱり分からないよね。あいつってエスパーかなんかなのか?
「選んでいいかしら?」
まあ俺じゃないと思うし、気持ちも楽でいいや。
そして、御門が指をさした先には――俺がいた。
「お、俺…?」
「そうよ」
「あ、彰文はわかったって言ってたけど、予想できなかったんじゃないか」
「いや、予想通りだったけど」
えっ、まじ? だとしたらお前は本当にエスパーだよ。それかメンタリストだよ。
御門が指をさした途端、笹森さんはカバンをもち、椅子から立ち上がっていた。
「そっか。じゃあ今日は部活終わりにしよっか!」
さ、笹森さん? えっ、帰るの? 彰文は帰らないよな?なっ、彰文!
「そうだな。やることもないだろうしな」
お前も本当に帰るの? 本当に帰っちゃうの?
「「じゃあまた明日(なー)!」」
「ちょ…」
ガラガラと扉を開け、2人は教室を出ていった。本当に帰っていった。
えっ、めっちゃ気まずいんだけど。
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