番外編 笹森夏帆が『冷酷な男』に出会った日

1年生の終業式の日、私は友達と廊下をいつものように話をしながら歩いていた。


「夏帆ってどういう人がタイプなの?」


「うーん、そうだなー。やっぱり優しい人がいいよね。後、笑顔が素敵な人」


「じゃあ、顔はイケメンじゃなくてもいいの?」


「顔は全然興味ないなー」


「そうなんだー」


 そんな他愛もない話をしていたら、『冷酷な男』と呼ばれている財前くんが私たちの横を通り過ぎた。


「財前くんだっけ、あの人、またなんかしたらしいよ」


「私も聞いた。目があっただけで殴られたとか」


「でもさ、噂だけでしょ? 喋ったこともないし、見てもいないから本当かどうかわからないよね。噂だけで決めるのは違うと思うの」


「そうかなー。信憑性あると思うけど」


「でも、西村くんと財前くんはよく喋ってるよね」


「西村くんは、イケメンで優しいから喋ってあげてるだけだよ」


「中学の時も一緒だったから、脅されてるっていう話もあるし」


「それに目つきとか凄い悪いしね」


「うんうん、近寄ったら知らないぞっていうオーラがでてるから」


「人を外見だけで判断するなんてよくないよ!」


「どうしたの、そんなに必死になって」


「夏帆さ、もしかして好きなの?」


「違うけどさー」


「じゃあいいじゃん、気にしなくても。これからずっと関わらないだろうし」


 別に財前くんとは喋ったこともないけど、雰囲気っていうのかな、とても怖い人には見えない。噂だけで物事を語るなんて、絶対に良くない。


 だから、財前くんと仲のいい西村くんに話を聞いてみることにした。


「西村くんは財前くんと仲良いよね」


「あいつとは幼馴染なんだよ」


「そうなんだね」


「どうしてそんなこと聞くわけ?」


「いやね、財前くんはやばい人だって噂でよく聞くんだ。でも、私は絶対そんな人じゃ無いと思うんだよ。だから、よく知ってそうな西村くんに聞こうと思ってね」


「へぇー、そんな友明に興味持つ人なんて笹森くらいだよ。それで、なんでそんな人じゃ無いって思うわけ?」


「よくわかんない。けど、雰囲気っていうのかな、優しそうな感じがするの。ごめんね、よくわかんなくって」


「笹森はよく見てるな」


「え?」


「あいつは本当にいい奴だよ。噂なんて当てにならないくらい。でも、もう授業始まるからこの話は終わりな。一つ言えるのは、俺なんかの話じゃなくて、あいつと喋ってみることが1番だぞ」


 喋ってみるって、今日は終業式だから多分もう帰ってるだろうし。来年、一緒のクラスだったら一杯喋ってみよう。


 帰り道に私はたまたま財前くんを見かけた。あの女の子は誰だろう、妹さんとかかな?

 私の視線は釘付けになった。『冷酷な男』って呼ばれている財前くんの表情が柔らかくて、ずっと笑顔で喋ってるから。


 そっか、あんな表情もできるんだ。いつもはあんなに笑わなくて表情がないのに。表情と相まってギャップが凄い。

 あの姿見てると…なんでだろう。心臓の鼓動が早くなるのがわかる。


 ――そうか、これが一目惚れなんだ。



「『冷酷な男』って呼ばれてる人でしょ!」


 第一声は正直後悔した。だって私は彼のことを知っているし、そんなこと思ったことなんてないから。


「俺のこと怖くないの?」


 怖いはずなんてない。だって私は…

 あなたのことが好きなんだから。



 「クスッ」


 私は驚いた。いつも笑わない彼が笑ったから。心臓の鼓動が速くなり、やっぱり好きなんだと再認識した。


 もう一度、彼の笑顔を見たい。だから、私は宣言した。


「財前くん! ここで君に宣言します! 今回はちょっと笑っただけだけど、絶対に私の力で財前くんを笑顔にして見せるからね! 覚悟しといてね!」


 

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